女性の裸をのぞこうとした事件が、「個人の権利」と「公益性」をめぐる法廷闘争にまで発展した――。

「2012年、東北地方の男性が、旅館の女湯の脱衣所に忍び込んだとして建造物侵入容疑で逮捕され、罰金刑の有罪が確定しました。その後、男性は『ツイッター上に自分の逮捕歴を実名報道した記事が残っている。就職活動にも支障が出て、プライバシー権の侵害に当たる』と、ツイッター社を相手に削除を求めて提訴したのです」(社会部記者)

 昨年10月、一審の東京地裁は男性の訴えを認め、削除を命じる判決を出した。だが6月29日、東京高裁は一審判決を取り消し、男性は逆転敗訴したのだ。


ツイッターは世界で6番目にアクセスが多いサイトに ©共同通信社

 判断はなぜ割れたのか。法曹関係者が解説する。

「まず、ベースとして、17年に最高裁が示した判断があります。グーグルなどの検索サイトで表示される逮捕歴の記事を削除すべきかを巡り、『検索サイトは情報流通の基盤』だと指摘し、削除は自由な表現行為の制約につながるという“厳格な基準”を示しました。一審判決は『ツイッターはまだウェブサイトの一つにすぎず、必要不可欠な情報流通の基盤ではない』として、ツイッター社に削除を命じたのです」

一審判決が覆された理由

 ところが二審判決では、

「ツイッターは月間アクセスが約39億回もあること。さらにトランプ米大統領など多くの著名人や公的機関、企業が利用していることを挙げ、『ツイッターは情報流通の基盤として大きな役割を果たしている』と認定、一審の判断を覆した。その上で、のぞき目的の事件は『軽微な犯罪』ではなく、投稿内容は『公益目的』に適うとして削除を認めませんでした」(同前)

 ネット上の個人情報を含む投稿は、一旦拡散すると完全に消去するのは難しい。

「犯罪事実の公表に公益性はありますが、どのレベルの事件なら削除が認められるのか、裁判所もまだ線引きに苦慮しているようです」(前出・社会部記者)

 一方、海外ではネット上での誹謗中傷や個人の権利の保護に敏感になっている。

「欧州では問題のある投稿をすぐに削除するようSNSのプラットフォームに義務付け、違反した場合は多額の罰金を科す国もある。フェイスブックは政治家の投稿には介入しない方針だったが、トランプ氏の黒人差別反対運動を威嚇するような投稿を放置したことで、大手企業が広告を停止するなど批判が殺到。ザッカーバーグCEOは『憎しみや暴力をあおる投稿は、誰の発言であろうと削除する』と声明を出した。ただ、各SNSが“表現の自由”を損ねる言論統制機関になることへの懸念の声もある」(前出・法曹関係者)

 SNS側は影響力の大きさを再認識すべきだろう。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年7月16日号)