一寸先は闇の韓国政治。朴槿恵前大統領には懲役20年判決が下っているが…

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「韓国社会が最大の敵対意識を持っている国は日本」という報道

 依然、文在寅大統領は47%という安全水域の支持率を誇り、それを元に日本に強気な政策を打ち出してくることが予想される。なにしろ、韓国社会が最大の敵対意識を持っている国は、北朝鮮を凌いで日本だったという報道が中央日報であったばかりだという。もっともここにきて、大物政治家にセクハラ告発が続出し、それが政権の不安定要因にもなりつつある。

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 韓国の日本離れは、着実に進んでいるらしい。

 康京和外相をテレビで見ているとき、ふと思った。青筋を立てながら激しい口調で日本の入国制限を批判していたからだ。外国での経験が長いのだから、日本に対する皮肉でも交えながら、さらりと批判をすることだってできるだろう。それでも見せるあの形相は、日本の重要度の急落を物語っているに違いない。

一寸先は闇の韓国政治。朴槿恵前大統領には懲役20年判決が下っているが…

 文在寅大統領は血相こそ変えてはいないが、「日本とは違う道を行く」と9日に半導体製造会社であるSKハイニックスを訪問した際に発言したばかりだ。これまで日本に依存してきた素材、部品、デバイスの各分野について、国内産業の自立を促そうと心血を注いでいる。世界に名を轟かすサムスン電子を擁する韓国なのだから、十分に技術力はあるはずで、それなのに日韓関係が経済活動を直撃するというのは矛盾しているではないか。韓国は日本離れをもっと早くからするべきだったのだ。韓国人に大学で日本のことを教えている我が身としては、複雑なところもあるが、正直なところ、そう思う。

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 しかし、こうした日本離れは、もっと大きな文脈のなかで語られている。もはや日本は眼中に置いていないのだ。

「世界をリードする大韓民国の道を開いていく」と文大統領が宣言したのは、就任3周年を迎えて去る5月10日に大統領府で行われた演説だった。その文言を、9日のSKハイニックスでの発言の際に繰り返している。

 技術革新が一朝一夕でどれだけできるのか、という疑念はぬぐえないが、文大統領の言葉は自信に満ちている。自信が持てる理由は、大きく2つある。

 一つは、韓国のコロナ対策が3月に、WHOテドロス事務局長のお墨付きとなったことである。これを機に、文大統領はK防疫という言葉を連呼した。韓国の防疫体制を世界のモデルにしようという。つまり、韓国が広い分野で世界をリードできると謳っているのだ。

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 もう一つは、4月15日に行われた総選挙での、与党・共に民主党の歴史的圧勝である、この圧勝は、文政権の政策に対する国民からの大々的な承認を意味する。追い風となったのは、コロナ対策の成功である。政府に対する国民の第一の関心は内政であり、流行第一波を主に大邱とその周辺の慶尚北道に抑え込んだことを国民が評価した。

 文在寅政権の支持率は、最新の7月第2週で47%である。4年目第1分期に入った最初の65%から下落が続いているとはいえ、民主化以降の政権のなかでトップを誇っている。参考までに、民主化以降の歴代政権の同時期の支持率を見てみると、最も高いのが李明博政権の43%で、次いで金泳三政権の41%である。そのほかの政権とは大差がついていて、金大中政権と廬武鉉政権ではともに27%である。なお、朴槿恵政権の場合は4年目の第1分期に入って早々に失職しているので、参考にできない。

 47%という現在の支持率は、まだまだ安全水域である。そのため、文大統領は、この支持率を支えにして日本に強気な政策を打ち出してくることは十分に考えられる。とくに韓国社会が最大の敵対意識を持っている国は、北朝鮮を凌いで日本だったという報道が中央日報であったばかりだ。それゆえに、産業界における日本離れの促進は、自国の利益と支持率向上に直結する。自国になるべく有利になるよう、日韓関係を動かそうとするだろう。

セクハラに敏感な若い世代は…

 一方で、文在寅政権に不安要因がないわけでもない。一つは、不動産の高騰である。これまで文政権は発足後21回も不動産対策を実施してきたが、まったく効果がない。最近は対策を打ったら、住宅価格が急騰してしまった。これでは庶民のマイホームへの夢が遠のくばかりで、与党寄りの参与連帯も批判している。さらに、文大統領がかつて重責を担った廬武鉉政権で広報首席秘書官を務めた趙己淑・梨花女子大学教授は、現政権での不動産政策において「専門性が不足」していると痛烈な苦言を呈した。こうした状況のなか、韓国政府は7月10日に22回目の不動産対策を発表したが、韓国社会の目は冷ややかだ。

 もう一つの要因は、与党の大物政治家のセクハラ疑惑である。9日に遺体で発見された朴元淳ソウル市長がセクハラで告発されていたことも発覚し、韓国全土に衝撃が走ったばかりであるが、与党の要人によるセクハラ疑惑は相次いでいる。2018年3月の安熙正・忠清南道知事を皮切りに、今年4月には呉巨敦・釜山市長が相次いで告発され、この2年間で3人にのぼる。

 不動産政策の失敗は、これからマイホームを手にしようとする30代後半から40代にかけて、また、セクハラ疑惑は20代から30代の年齢層に対してとりわけ大きな衝撃を与える。彼らは与党支持層の主流を占めるが、特に、セクハラに敏感な若い世代は、支持政党への見切りをつけるのも早いと言われている。

 順風満帆に見えた文在寅政権も、ここへきて支持率低下の要因を抱え込んでしまった。与党の支持者は国民全体の約4割を占めると言われ、それを頻繁に切ると黄色信号が灯る。もしもそうなったら、韓国政府はどう動くのか。支持率が40%台で下落傾向にあるのだから、そうのんびりとはしていられないだろうし、その方法の一つとして、日本へのけん制が考えられる。

 そういえば、対日姿勢での文在寅大統領と康京和外相との役割分担がどうも気になる。文大統領はこのところあからさまに日本を批判することはないが、康京和外相は、冒頭でも述べたように、なかなかの強面である。この2人の態度の違いがどうもこのところ、北朝鮮の金正恩と金与正の対韓姿勢における役割分担と、実によく重なって見えてしまう。北朝鮮がそうするのは、韓国との関係を完全に切ることなく、北に有利なように韓国を動かそうという目論見があるからだと言われているが、韓国もそうなのかもしれない。

平井敏晴
ノンフィクション作家。ソウルの大学で日本関連の講義をしながら、東アジアの文化や社会について文筆活動を行っている。専門は、美学、精神史。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月13日 掲載