GDP世界一を誇る超大国のアメリカですが、近年は新型コロナウイルス感染症の感染者数が世界最多となり、警察官による黒人男性の暴行死事件に端を発する激しい暴動や略奪が全米各地で発生するなど、社会的な混乱が目立っています。そのアメリカについて、「失敗国家の兆候が複数見られる」という衝撃的な指摘が、専門家によってなされています。

Is America a 'failing state'? How a superpower has been brought to the brink

https://theconversation.com/is-america-a-failing-state-how-a-superpower-has-been-brought-to-the-brink-139680

メルボルン大学の政治学者であるジョージ・レニー氏は「アメリカが失敗国家だというのは、ごく最近まで最も過激な評論家ぐらいしかまともに取り合いませんでした。しかし、今日では政治学者が一般的に用いる指標の中に、その兆候を見ることができます」と述べて、近年のアメリカ社会がかかえる問題点を以下の3つにまとめました。



◆1:人種と階級の対立

レニー氏によると、比較政治学の分野では国家の失敗を推しはかる要素として、民族や人種間の紛争に大きな関心が払われているとのこと。例えば、紛争が絶えないアフリカ諸国では、水や耕作地といった資源をめぐる争いが多く見られます。

レニー氏はこうした紛争について、「民族グループが異なるせいで争いが発生すると考えるのは間違いです。これはむしろ、不平等と貧困が人種的・文化的な亀裂をいかに悪化させるかを物語るものだといえます」と指摘しました。

その上でレニー氏は、「アメリカでも、多くの黒人が『生まれた時から犯罪者扱いされている』と訴えています。このような認識が社会全体に広がると、国家は破綻への道をたどることになります。また、ゼネラルモーターズの工場閉鎖に伴う社会基盤の崩壊に見舞われているミシガン州フリント市など、貧困に苦しむ一部の地域の状況は、既に失敗国家に似た様相を呈しています」と述べました。



by Suz~

◆2:経済格差の拡大

マイノリティグループの苦境を尻目に、何十年にもわたって順調な経済的発展を遂げてきたアメリカですが、近年では格差の拡大により多くのアメリカ人が経済的成長の恩恵とは無縁になりつつあります。例えば、1978年〜2018年にかけてアメリカ企業のCEOの給料はほぼ10倍になりましたが、同じ期間における平均的な労働者の給料の伸びはわずか12%未満でした。

経済格差が拡大した結果、大学を卒業した人だけしか給料が上がらず、アメリカの子どもの21%が貧困にあえぐようになりました。また、1人当たりの医療費がOECD諸国の平均の2倍と世界で最も高いにもかかわらず、アメリカ人の健康状況が他のOECD諸国に比べて悪いのも、多くの人が安価な医療にアクセスできないのが要因だと考えられています。

経済格差の拡大と昨今の社会的混乱の関係について、レニー氏は「経済格差が最近の暴動の原因だと説明されることもありますが、これは全体像とはほど遠い認識です。実際は、全てのアメリカ人が一様に貧しくなっているため、貧しい白人のアメリカ人が他の人種の不正と戦おうとしているようです。つまり、彼らは彼ら自身を『持たざるもの』にし続けているシステムではなく、政治的・経済的に分断された別のグループと戦ってしまっています」と指摘しています。



◆3:民主主義の危機

経済的な断絶は、アメリカの民主主義をも脅かしています。1982年〜2002年までの間に実施された選挙を厳密に分析した結果、平均的な有権者の意思よりも、上位10%の人々の意思の方が色濃く選挙の結果に表れていたことが分かったとのこと。このように、市民の意思が政治に正しく反映されない状況は「民主主義の赤字」と呼ばれています。

レニー氏は、「アメリカにおける黒人と白人の人種的対立は確かに重要ですが、より重要なポイントが見逃されがちです。それは、人種に関係なく大半のアメリカ人が敗北しているという点です」と指摘。その上で「世界最大の核戦力と軍事力を持つ大国の衰退は、合理的な分析をするまでもなく前例のない恐ろしい事態となるでしょう。目下の課題は、世界で最も古くから今日まで続いている民主主義国家が、その理想をまっとうできるかどうかです」と結論付けました。