注文した直後、「準備中」を飛ばしていきなり「受取可能」になってしまった

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 6月から順次提供を開始している「PayPayピックアップ」。これは飲食店のテイクアウト注文を事前に行うもので、利用者は店舗内で待つことなく飲食物を受け取ることができる。

 新型コロナウイルスは「オンラインでの飲食物の注文」という手段を、日本人に強く認識させた。確かにこの手段は感染拡大を阻止するための苦肉の策であることは否定できないが、一方で新興国では数年前から「事前注文アプリ」が日常的なものになっている。

 その理由は後述するが、日本は数年遅れでようやく飲食物注文のオンラインプラットフォームが整備されるようになった。が、そこには「店員がオンライン注文を使いこなせない」などの課題点も含まれているようだ。

◆思い立ったら即注文

 まずはPayPayピックアップの仕組みと使い方を解説していこう。PayPayのアプリを開くと「ピックアップ」という項目があることに気づくだろう。これをタップし、なおかつスマホの位置情報をオンにしていると周囲のPayPay提携飲食店が表示される。

 筆者は静岡県静岡市在住。表示された飲食店から選ぶと、次に出てくるのはメニュー表。食べたいものを選択して決済画面に進む。支払いは当然ながら、PayPayを使った前払い。受取予定時刻は事前に提示されるので、それに合わせて来店すればいい。

 操作自体は非常に簡単だ。プロセスも少なく、思い立ったら手軽に注文できるよう設計されている。しかし、このPayPayピックアップの問題は別の部分にあった。

◆オンラインサービスを使いこなせない店員

 静岡市は、首都圏と中京圏に挟まれた地方都市である。

 キャッシュレス決済やスマホを使ったオンラインサービスの浸透速度は、東京や名古屋に比べるとだいぶゆっくりしている。Uber Eatsが静岡市内でのサービスを始めたのは、今年6月のことだ。
故に、「スマホで飲食物を注文する」という概念自体がまだ根付いていない。それは事業者側にとっても同じだ。筆者が静岡市内でPayPayピックアップを利用する中で、このようなことが複数回あった。

「すみません、注文を見逃していました」

 店員がPayPay経由の注文に気づかず、利用者即ち筆者が来店してもメニューを用意していなかったという出来事だ。チェーン店ではない個人経営の店舗に、そのようなことが目立って起きていた。

「PayPayを使うお客さんは初めてだもんで……」

 ある店では注文にちゃんと応えて食事を用意してくれたが、細かいプロセスに手間取っていたようだ。こちらがオーダーを出した直後、「準備中」を飛ばしていきなり「受取可能」にしてしまった。

 これは、店員が事業者用アプリを使いこなせていないという証明でもある。さらに突き詰めて考えれば、PayPayピックアップがもたらした新しい概念を店員自身が理解していない。

 今の時点で静岡市では利用者が少ないから、やむを得ない部分も確かにある。しかしPayPayピックアップの仕組みを漠然と捉えたまま、実際の注文に対応できなかった店舗に落ち度がまったくないわけでもない。これはいくつかの要因が複雑に絡み合っている現象でもある。

◆固定電話の依存度

 日本は一般家庭にも固定電話が普及している国だ。

 そんなのは当たり前ではないか、と言ってはならない。新興国では今でも「固定電話は会社のオフィスにしかない代物」である。中小零細の事業者は専らスマホで日々の連絡を行っている。固定電話というインフラが普及していないからこそ、新興国でスマホアプリビジネスが大輪の華を咲かせたのだ。

 ASEAN諸国では、様々なスタートアップが個人経営の飲食店を取り込んだサービスを展開している。大衆食堂の店主が食材を仕入れるためにスマホを取り出し、専用プラットフォームで発注するというシステムも既に存在する。同時にオンラインを介したテイクアウト注文やデリバリーサービスとの連携も実施している。これらはすべて、「店に固定電話がないからこそ」の光景だ。

 日本で起こっていることは、まさにその真逆。今でも固定電話の存在が大きく、特に地方都市では店屋物の注文もタクシーの手配も昔ながらの電話連絡が多用される。そのような環境でいきなりPayPayピックアップを導入したら、上記のような「店員がオンライン注文を使いこなせない」という事態は当然ながら発生する。

 この要因はあくまでも問題を形成する一端に過ぎないが、同時に大きな課題でもある。PayPayピックアップが日常的なアプリとして定着するには、「事業者側の情報格差」を是正しなければならないだろう。<文/澤田真一>

【澤田真一】
ノンフィクション作家、Webライター。1984年10月11日生。東南アジア経済情報、最新テクノロジー、ガジェット関連記事を各メディアで執筆。ブログ『たまには澤田もエンターテイナー』