旅行需要が戻るのは、いつになるのか(写真はイメージ)

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新型コロナウイルスの感染拡大期には、不要不急の外出自粛が呼び掛けられ、海外との行き来も制限された。これでは旅行が事実上不可能となり、売り上げが「蒸発」した旅行業界は大きな傷を負った。

大手でさえ厳しい状況だ。エイチ・アイ・エス(HIS)が発表した2020年4月末までの6カ月間の連結決算は、純損益が34億円の赤字に転落した。前年同期は49億円の黒字だった。主力の海外ツアーが軒並み中止に追い込まれたのが主因で、海外旅行の需要回復について沢田秀雄社長は「今年いっぱいは難しい」との見通しを示した。20年10月末までの1年間の決算の見通しについて、従来は「11億円の赤字」になると示していたが、これを「未定」に変更。悪化することが確実視されているが、どれだけ悪化するか現時点では見通せない状況だからだ。

国内旅行の回復が業界復活に向けた鍵

HISの体制そのものも揺るがしている。国内に約260ある店舗の約3分の1を1年以内に閉鎖する計画で、2021年度入社の新卒社員の採用活動も中止した。人件費や広告費などの経費削減によって急場をしのごうとしている。

旅行業界では他にも、近畿日本ツーリストとクラブツーリズムを傘下に持つKNT-CTホールディングスが、2020年3月末までの3カ月間の連結決算で純損益が100億円の赤字となった。1〜3月は旅行の閑散期に当たるため、前年同期も13億円の赤字だったが、そこから大幅に悪化した。国内最大手のJTBは、コロナが約1000億円の減収要因となった。業界の推計では、20年4〜8月に計2兆円を超える売り上げが失われる可能性があるという。

外出自粛の期間中は、グーグルのストリートビューを使って国内外のさまざまな観光地を旅行した気分になる遊びが流行したが、やはり旅行は現実の体験があってこそのもの。5月25日に緊急事態宣言が全面解除されたことを受け、国内の旅行大手は取りやめていた店舗営業を6月1日から順次再開した。海外渡航の規制が観光目的まで含めて解除されるまでには当面かかりそうで、日本人の旅行総消費額の7割を占める国内旅行の回復が業界復活に向けた鍵となる。

GoToキャンペーンの行く末

政府も旅行需要の喚起策として「GoToキャンペーン」を2020年度第1次補正予算に盛り込んでおり、新型コロナで打撃を受けた旅行業者らを支援する構えだ。総事業費が約1兆7000億円に達する巨額事業で、旅行商品を購入したり飲食店を予約したりすれば、割引などの特典が付与される仕組みだ。8月にもスタートする。

ただ、旅行業界復活に向けたこうした目論見は、感染拡大の「第2波」「第3波」が起きないことを前提にしたもの。国内の人の移動が再び活発になれば、感染者数が高止まりする東京から各地にウイルスが拡散しかねない。GoToキャンペーンを巡っては、実施時期の早急さや委託事務費の高さに対する批判もやまない。コロナを完全に終息できない中で、「感染拡大を避ける」と「経済活動を再開する」という矛盾した方向性をどうやって両立させるか。旅行業界に限らず、社会全体の重い課題だ。