宇宙飛行士のマイケル・コリンズは、米航空宇宙局(NASA)によるアポロ11号のミッションの最中に地球を振り返り、この惑星が宇宙からは極めて繊細で壊れやすく見えることに驚いた。「地球は小さくてきらきらしていて、美しくて、懐かしくて、そしてもろいのです」と、彼はその体験について語っている。

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こうした体験は彼を変えた。ほかの多くの宇宙飛行士も、自身の態度や信念に同じように突然の変化が起きたと報告している。「オーバーヴュー・エフェクト(概観効果)」と名付けられた認識の変化だ。

オーバーヴュー・エフェクトという言葉は、宇宙哲学者で作家のフランク・ホワイトが、1987年に出版された同名のタイトルの著書のなかでつくったものである。宇宙から地球を眺めることで、地球や地球における人類の立ち位置に対する宇宙飛行士の見方が一変することを表している。宇宙飛行士たちの体験に共通する特徴は、地球への畏怖の念と、生きとし生けるものすべてがつながっていることへの深い理解、そして地球と環境を大切にすることに関して改めて抱く責任感だ。

こうした感情を、いまでは誰でも自ら体験することができる。宇宙空間ではなく、ニューヨークのブルックリンでだ。

宇宙からのライヴ体験

ホワイトは現在、米国のスタートアップであるSpaceVRのアドヴァイザーを務めている。SpaceVRは防水VRヘッドセットを装着した顧客をアイソレーション・タンクの中に入れ、宇宙から見た地球の映像を見せることで、オーバーヴュー・エフェクトを再現できると謳っている。

SpaceVRはこの数年ほど試作とテストを繰り返してきたが、このほど全世界に向けて提供を始めた。体験に使うアイソレーション・タンクは、1,000リットルの水に550kgの硫酸マグネシウムを溶かしたもので満たされている。液体の濃度を変えることで体が水に浮きやすくなり、無重力状態に近い感覚が得られる。

ユーザーが装着するのは、タンク内の腐食作用をもつ塩水から電気系統を保護するよう特別に設計された、4K画質のVRヘッドセットだ。現在は宇宙から見た地球の撮影済みのヴィデオ映像を使用しているが、今夏にも自社の衛星を打ち上げる予定という。およそ100万ドルかけてPumpkin Space Systemsが製造した超小型人工衛星のキューブサット(CubeSat)が、タンク内で使用する宇宙の映像を撮影することになる。

SpaceVRの最高経営責任者(CEO)で創業者のライアン・ホームズによると、この特注衛星は両側に4K解像度のカメラ2機を搭載するという。スペースXのロケットで打ち上げられて高度480kmで軌道に入り、VRヘッドセットを着けた人々に向けて生放送に近い地球の映像を発信する。

いま必要な視点

衛星からVRヘッドセットへと4K画質の映像を送るには、それなりの困難が伴う。基地局が存在する陸地の上空に衛星があるときしか、データを地球へ送ることができないからだ。このため、本当の意味での生放送は不可能である。それでも、もし地表で山火事などの出来事が起きていれば、その映像はユーザーの体験の一部となる。

地球規模の環境問題が増大の一途をたどり、最悪の事態を回避するための時間的な猶予が急速に消えゆくなか、人々の意識を大幅に変える必要があるとホームズは主張する。

「宇宙飛行士による100万回のスピーチも、無重力状態で地球の周回軌道に乗る体験にはかないません」と、ホームズはいう。「そのような視点がいま、かつてないほど必要なのです」

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