今回は、LINEやメールに不精な受け身の婚活をガラリと変え、運とタイミングを味方につけた37歳男性の成婚物語です(写真:nathaphat/iStock)

婚活を成功させるためにいちばん大切ことは、“本人のやる気”と行動力だ。しかし、どんなに努力をしても相手の気持ちが手に入らないことはあるし、“ご縁”という言葉があるように、タイミングや運も大きく関係してくる。仲人として婚活現場に関わる筆者が、1人婚活者に焦点を当てて、苦労や成功体験をリアルな声と共にお届けしている連載。今回は、「婚活のやり方を大きく変え、運とタイミングを味方につけた37歳男性の成婚物語」を綴る。

2年間の婚活では、結果が出せず

1月第2週の土曜日、悟(仮名、37歳)が入会面談にやってきた。


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「35歳のときに結婚相談所に入って、2年間婚活をしてきたのですが、まったく結果が出ませんでした」

誰もが知る有名私大を卒業後、大手企業に就職。年収も800万円近くあるという。身長は180センチあり、スリムな体型で清潔感もある。条件や見た目からは、結婚できない要素が何ひとつ見当たらなかった。

「相談所では、何人の女性とお見合いしたんですか?」

こう聞くと、驚きの答えが帰ってきた。

「7人です」

結婚相談所で2年間活動し、そこで7人しかお見合いしていないというのは、あまりにも数が少ない。彼の条件なら、1カ月でその回数のお見合いができたはずだ。どんなペースで活動してきたのか。

「お見合いをしてお付き合いに入るんですが、盛り上がらなくて、1回か2回食事をすると“交際終了”になるんです。そこまでで3カ月くらい経っている。お付き合いが終わるとまた一からやり直しになるので、1年があっという間でした」

ここまで聞いて、悟の婚活の仕方が根本的に間違っていることを指摘した。

「結婚相談所には、“仮交際”と“真剣交際”の区分がありますよね。なぜだかわかりますか? 婚活の出会いは生活圏内のそれとは違って、結婚を目的に男女が出会うから、この2つの期間が必要なんです」

生活圏内の出会いは、人柄がわかってから恋愛になる。そして、恋愛期間を経て結婚へとつながる。しかし、婚活の出会いは、プロフィールに記された条件はわかっていても人柄が十分にわからないまま交際がスタートするのだ。

「仮交際は、お人柄を見る期間なんですよ。交際になったら、短期間のうちにたくさん会うことが大事なんです。3カ月のうちに1〜2度しか会わなかったら、お相手が抱く悟さんへの印象はすでに薄くなっています。もうテンションが下がっている状態。人間関係が出来上がっていないのだから、一度下がったテンションは二度と上がりません」

こういう人たちの特徴は、LINEやメールをマメに入れない。

「交際になってファーストコールをしますよね。そこで次に会う日を決めたら、そこから一切連絡をしない。そして、会う前日になって“明日の○時、どこどこで”と、業務連絡のようなLINEやメールを入れても、相手のテンションは下がっているので、翌日会っても話が盛り上がらないんです」

もっと悪循環なのは、ファーストコールのときに、「今は仕事が忙しい時期なので、落ち着いたら連絡をします」と3週間、1カ月と連絡を放置することだ。

「お付き合いに入ったら、最低でも1週間に1回はお会いする。さらに、テンションが下がらないようにするためには、LINEやメールは毎日しあったほうがいいんです。婚活においてLINEやメールは連絡ツールではなくコニュニケーションツールなんですよ」

そして、もう1つ大事なことを付け加えた。

「仮交際は“お人柄を見る期間”なのだから1人とお付き合いが始まっても、新しいお見合いをして、複数とお付き合いしていたほうがいいんです。とはいえ体は1つなので、3人程度がいいですね。たった1人としか付き合っていないと、その方が終わった時点で0になってしまって、また最初からやり直しになるんですよ」

この面談を境に、悟は婚活のやり方をガラリと変えた。

1カ月に5人とお見合い、3人と交際に!

その後、悟は1カ月の間5人の女性とお見合いをした。そのうち2人は、交際成立にならなかった。

3人と交際をすることになったのだが、その中の1人は、2度食事をすると交際終了になった。断りを入れたのは、悟からだった。

「何か一緒にいて、しっくりこなかった。あと、女性がつねに受け身態勢で、毎日LINEのやり取りをするのが苦痛になりました」

恋愛経験の少ない女性は、お付き合いに入ると、どうしても“待ち”に徹してしまう。やり方がわからないのと、そのほうが楽だからだ。しかし、コミュニケーションは双方が能動的になってこそ、うまくいく。投げられてくるボールを受け取ることに徹していたら、ボールを投げているほうは、だんだん疲れてくる。

こうして、お付き合いしている女性が3人から2人になった頃、世の中は、新型コロナウイルス感染症拡大のニュース一色となっていた。そして、3月に入り、悟は今回結婚を決めた美咲(仮名、32歳)と真剣交際に入ることを決め、もう1人の女性には、交際終了を出した。

なぜ美咲を選んだのか、悟はこう振り返る。

「出身大学が同じだったので、最初から親近感がわいていました。あと、不思議と毎日LINEをしても苦痛じゃなかった。何往復もするのではなく、1日1〜2往復程度で、“今日は天気がいいね”とか“コロナの感染者がまた増えたね“とか、たわいもない会話だったんですけど、楽しかった」

うまくいくカップルは、毎日のLINEのやり取りがごく自然にできている。「毎日何を話せばいいのかわからない」とか「やり取りが苦痛になってきた」と思った時点で、相手との波長が合っていないし、好意的な気持ちが育っていないのだ。

また、悟はこんなことも言った。

「相談所で婚活を始める前、34歳のときに、10カ月くらい付き合った女性がいたんです。外資系の会社で働くバリキャリだったのですが、彼女が知っていることを僕が知らないと、『なんでそんなことも知らないの?』と、上から目線の物言いをしてきた。実力の世界で結果を出していく仕事をしていたからなのか、いつも僕と張り合っている感じで、一緒にいて落ち着けなかった」

そこが美咲は違っていた。2人が卒業した大学は、日本でもトップレベルであり、彼女は有名企業の総合職。相当優秀な女性のはずなのだが……。

「しゃべる物腰も優しいし雰囲気が柔らかくて、一緒にいると癒やされた。何より僕がカッコつけることなく、自然体でいられたんですよね」

会えない時間に募らせた思い

真剣交際に入ってからも、週末は必ず会ってデートを繰り返していた。しかし、4月に入ると緊急事態宣言が発出。不要不急の外出の自粛、3密を避けるなど、感染拡大を回避することが呼びかけられ、多くの会社がリモートワークを取り入れ、世の中の動きが一気に止まった。

「外出してお互いに感染者になったら、家族にも会社にも迷惑をかけてしまうので、週に1回のデートも取りやめにしました。それでも顔が見たかったので、LINEビデオでやり取りをするようになりました」

緊急事態宣言によって、明暗を分けたカップルは多い。発出される前にしっかりと関係を築けていたカップルは、会えない時間に相手をより恋しく思うようになった。付き合いだしたばかりでまだ十分に関係性を築くことができなかったカップルは、会えないことで気持ちがすれ違っていった。

悟と美咲は前者で、LINEビデオでやり取りしながらも、リアルに会いたいという思いを募らせていった。

「会えなくなって3週間が経った頃、どうしても会いたくなって、僕が運転する車で郊外の山にドライブに行くことにしました。彼女の家まで迎えに行き、彼女が車に乗り込んできた瞬間に、心からホッとした。“結婚するなら、彼女しかいない”と思ったんです」

5月25日、緊急事態宣言は解除された。その後は、生活も少しずつ元の体(てい)を取り戻っていった。悟と美咲もマスクを着用して、週1ペースのデートを再開するようになっていた。

悟の心は、もう決まっていた。

6月のある日曜日。都内の高層ビルの最上階にある夜景のきれいなレストラン。その店には、カップルのプロポーズをサポートするサービズがあった。悟は事前に用意したバラの花束を店に預けた。 “Will you marry me”とチョコレートで書かれたサプライズのケーキプレートもオーダーしておいた。

会話を弾ませ、夜景を見ながら楽しむコース料理。デザートの段になると悟はトイレに行くふりをして、いったん席を離れた。レストランの照明が暗く落とされ、ロマンチックな音楽とともに、薔薇の花束を抱えた悟とケーキを運ぶ店の人が美咲のもとに近づいていく。そこで食事をしていた人たちが、このサプライズを一斉に見つめている。ケーキプレートが美咲の前におかれると、悟は花束を差し出して言った。

「僕と結婚してください」

それを受け取り、美咲は目を潤ませなが応えた。

「はい、よろしくお願いします」

店のあちこちから、歓声と拍手が湧き起こった。

点と点が線でつながった結婚

結婚の報告に来た悟が言った。

「1月の入会面談のとき、“婚活は、まずは自分が積極的に動かないとうまくいかない”というのを肝に銘じました」

そして、1月には5人の女性と一気にお見合いをして、3人と付き合うことになった。そこから2月には、交際する女性を2人に絞り込んだ。

「実はもう1つ忘れられない出来事があります。2月の頭に婚活パーティに参加したじゃないですか。あれも僕の転機になりました」

私が親しくしている仲人の大邸宅で行われた20代から50代まで、25人ずつの男女が集った大きなパーティだった。

「そこで40代後半、50代の男性たちと話をしました。中には、『もう10年近く婚活をしている』と言っている人もいた。どんなふうに活動しているのかを聞いたら、過去の僕と同じ。交際になってもマメに連絡を入れないし、数カ月経つとフェイドアウトしている。たまにパーティに参加するけれど、そこでも成果が出ない。ここで僕も本気にならないと、10年なんてあっという間に経ってしまうと思ったんです」

積極的に動く大切さを、肌で感じたという。

「そこから世の中はコロナ一色になっていったのですが、2月3月中は美咲さんに毎週会っていた。そして、会うほどに好きになっていた。4月に入って緊急事態宣言が出されましたが、そこまでに2人の関係をしっかり築くことができていたんです。あと1カ月早く緊急事態宣言が出されていたら、2人の関係はまだ未熟で壊れてしまったかもしれない。これもタイミングですよね」

さらに、こんな自己暗示も婚活する気持ちに拍車をかけた。

「実は、あの面談の帰り道、東京大神宮に参拝に行ったんですよ」

東京大神宮とは、都内でも有名な婚活神社だ。

「僕は信心深くないし、神社なんて初詣ぐらいでしか行かないのですが、気持ちを引き締めようと立ち寄ったんです。そのときおみくじを引いたら、大吉が出た。『理想の人に出会えます。理想の未来が待っています。2人に誰かが入り込める隙間はありません。順調に成就するでしょう』と書いてあった。100パーセント信じていたわけではないけど、美咲さんとのことを好きになり始めたときに、この言葉がいつも頭をよぎっていました」

入会面談に来た→自分が動くことの大切さを知った→婚活神社を参拝した→5人と見合いし3人と交際になったので、マメな連絡を心がけた→婚活パーティで、動くことの大切さを改めて知った→美咲と真剣交際へ→緊急事態宣言中会えなくなり、さらに彼女の存在を大きく感じた→緊急事態宣言明けにプロポーズ。

「1つ1つの点が線で結ばれていったんです。これが“縁”なのかなあと思う。1つでもタイミングがずれていたら、美咲さんとの結婚はなかったかもしれないので」

すべての婚活者に言いたい。

目に見えないものが“ご縁”。でも、その“ご縁”を引き寄せるために、何より大事なのは行動を起こすことなのだ。

悟、おめでとう。これからも美咲さんと幸せにね!