公開中の『水曜日が消えた』より
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 「実は最近、中村倫也にハマってて」、そんな巷の女子が増殖中。映画『七人の弔』で俳優デビューしたのは15年前。多くの映画でテレビドラマで舞台で研鑽(けんさん)を積み、初の主演舞台「HISTORY BOYS / ヒストリーボーイズ」で読売演劇大賞優秀男優賞受賞。「私だけが彼の魅力に気づいてる!」と思わせる知る人ぞ知る存在から、朝ドラ「半分、青い。」のふわっとカワイイ、マアくん役でお茶の間のハートをキャッチしてメジャー級の俳優へ。

 「ホリデイラブ」でのサイコなパワハラ夫を演じる彼はとてもじゃないが、「スーパーサラリーマン左江内氏」でムロツヨシとふざけまくる警察官と同じ人とは思えない。誰にでも優しくてあらゆる女子の平常心を奪う「凪のお暇」のゴンをリアルな人物として構築し、「美食探偵 明智五郎」で浮世離れした探偵そのものと思わせる。どんなにクセのある役柄も彼が演じることで説得力が増し、オリジナルな魅力を持つキャラクターへ変貌する。果たして俳優・中村倫也とは何者か? 彼の確かな演技力にうなる映画7本を紹介する。(文・浅見祥子)

『星ガ丘ワンダーランド』(2015)

 CMクリエイターの柳沢翔が映画監督デビュー作と思えない豪華キャストで描く、緩やかな曲線を描くように進むミステリー。中村が演じる主人公は幼少期に母親に捨てられ、いまは田舎町の小さな駅「星ガ丘」で働く素朴な駅員さん。自死したという母の、死の謎に迫る。撮影監督の今村圭佑による才能アリアリな映像表現のなか(車の中に雪が降る!)、駅員さんの制服姿でぽーっとしているだけでもうカワイイ。毛糸の帽子にダッフルコートとか着ちゃったり、落としものを届ける小さな女の子に微笑んで見せたり、倫也のMVみたいにうっとり眺めたい。そのカワイさが際立つのは、母への複雑な思いが込められているからこそ。

『愚行録』(2016)

 のちに『蜜蜂と遠雷』を撮る石川慶監督の、俺の才能を見よ! 的気合いがみなぎる長編映画デビュー作。未解決のエリートサラリーマン一家惨殺事件を追う記者(妻夫木聡)が、被害者である田向夫妻の学生時代の同級生や恋人に取材。やがて二人の、真の姿が立ち上がる。中村が演じるのは田向の妻(=夏原)の学生時代の同級生、淳子の彼氏だった孝之。夏原と出会ってふと心惹かれる瞬間を的確に画面に刻み、元恋人の淳子への悪意を初対面の記者にぺらぺら吐露する、いい人でも知的でもない薄っぺらい人物。日本の階級社会、その狭間でもがいて落ちていく人間の哀しみ。誰もが見応えある芝居をする中でパズルのピースに徹すること、中村はそこにも揺るぎがない。

『3月のライオン 前編/後編』(2017)

 羽海野チカによる漫画を、『るろうに剣心』の大友啓史監督が技アリ! な演出で見せる人間ドラマ。見どころはもちろん将棋の対局、つまり棋士が盤を挟んで座ってジッと考え込む姿。そこで起きる静かで壮絶な戦いを観客に体感させるには? 必然、出演者は本物の実力者ばかりに。中村が演じるのは神木隆之介演じる主人公、桐山零の先輩で“スミス”こと三角龍雪。おかっぱ頭に個性的なメガネ、下唇の下にちょこんと小さなヒゲで原作キャラの再現度高し! 将棋で強くなるしか道がない、徹底した孤独を生きる零をイジる軽〜いノリの先輩、そのじつ真面目で優しさを秘めた奥行のあるキャラに仕立て、緊迫感が続く映画の中で「ほ。」とさせる間合いをつくる。

『孤狼の血』(2018)

 柚月裕子による警察×超絶ハードなヤクザものである小説を、『凶悪』の白石和彌監督が濃厚に映画化。「警察じゃけ、なにをしてもええんじゃ」と言い放ち、手段を選ばずに捜査を進める叩き上げの大上刑事(役所広司)と、その相棒にさせられるエリート新人刑事の日岡(松坂桃李)が暴力団の抗争に巻き込まれていく。中村が演じるのは尾谷組構成員の氷川。ドスのきいた広島弁、シャブ中にしか見えないヤバイ顔つき、アクションというよりマジな殴り合いで相手の耳を食いちぎり、「不味い耳じゃのぉ」とつぶやく、切れ味鋭い“狂犬”みたいな男。電話ボックスの地べたに座り、受話器を手にタバコをくゆらす姿の色気はどうよ! 出演シーンは少ないが、そのすべてで場をかっさらう。

『屍人荘の殺人』(2019)

 2018年版「このミステリーがすごい!」1位の小説を「99.9-刑事専門弁護士-」の木村ひさし監督が万遍なくギャグをちりばめて映画化した、めっちゃ変化球なミステリー。中村が演じるのは自称”ホームズ”ながら、だいぶポンコツな素人探偵の明智恭介。大学のミステリー愛好会の会長で、しょーもない事件を嗅ぎ回ることに忙しくて留年を重ねている。そんな明智をやたらにもったいぶった態度と低音がステキに響く声で演じ、あまり表情を変えないのに絶妙に小者感を漂わせる中村。明智の万年助手を演じる神木隆之介との丁々発止のやりとりも、互いの信頼を感じさせてさすが。

『影裏』(2020)

 芥川賞受賞の同名小説を、大友啓史監督が恐るべき緊迫度で映画化。見知らぬ土地で、唯一心を許した友との出会いと別れ、やがて浮かび上がる友の影、裏にうごめく真実とは? ジャスミンの鉢への水やりを日課にする心優しい孤独な今野を綾野剛、フラッと現れてはフッと消える、捉えどころのない日浅を松田龍平とそれぞれがまさにハマリ役。中村が演じるのは今野の旧友で、これがまた性別も超えた、超絶トリッキーな役! 童顔でお肌つるつるな彼だからこそ成り立つ。セリフではなく気配で多くを語ろうとする映画の中で、これほどの衝撃をもたらす役を違和感なく着地させる。これぞ、中村倫也だからこそできること。

『水曜日が消えた』(2020)

 曜日ごとに7つの人格が入れ替わる青年がある日目覚めると、水曜日が消えたーー。『君の名は。』にCGクリエイターとして参加し、この映画で長編監督デビューを果たす吉野耕平による凝った映像表現とそそるプロットが肝のこの映画はつまり、ナチュラルに7役を演じ分ける中村倫也の演技力が不可欠なストーリー。ワルなミュージシャン、健やかなスポーツマン、職人気質のイラストレーターとそれぞれの個性を持つ7人として立つ姿を並べてみるだけで、一見無表情に思える彼がどれほどの演技力かを実感できる。主人公となるのは真面目で気弱で几帳面な“火曜日くん”。このあざとカワイさがいまの中村倫也人気を支えている、のか!?