【加谷 珪一】マンション販売は壊滅状態…なのに「価格が全然下がらない」驚きのワケ コロナ危機は不動産にこう影響する

写真拡大 (全4枚)

新型コロナウイルスの影響で新築マンション販売が壊滅的状況となっているが、販売価格は一向に下がる気配が見えない。当初はコロナ危機によって、タワマンを中心に都心部のマンション価格が崩壊するとの見方もあったが、実際はどうなのだろうか。

新築の値段はほとんど下がったことがない

不動産経済研究所が発表した5月の首都圏マンションの販売戸数は393戸と前年同月比で82.2%ものマイナスとなった。緊急事態宣言の発令によって日常的な外出もままならない中、新築マンションの購入者が減るのは当然のことであり、この結果は以前から予想されていた。

今回のコロナ危機は東京オリンピック延期という事態を招いたほか、各社がテレワークに移行したことから、一部のビジネスパーソンは郊外への転居を検討するなど、都市部のマンション市場には逆風が吹いている。こうした状況から一部では、マンション価格が暴落するという見方があったが、今のところ価格に大きな変動は見られない。

〔PHOTO〕iStock

5月におけるマンション1戸あたりの販売価格は6485万円で、前年同月比でプラス6.4%とむしろ上昇した。販売が急激に落ち込む中、デベロッパー側が確実に売れる高級物件に絞った可能性もあるが、価格の上昇は近年、継続しているトレンドであり、基本的にはその延長線上にあると見てよい。

販売戸数の減少は9カ月連続であり、今に始まったことではなく、ここ1年はずっと販売不振が続いてきた。それにもかかわらず価格が下がらないことには2つの理由がある。ひとつは全世界的な資源価格の高騰で建設コストが上がっていること。もうひとつは、デベロッパーの大手寡占化が進んでおり、在庫を抱える余裕が出来たことである。

日本にいると想像できないかもしれないが、過去20年、世界経済はめざましい成長を遂げた。世界経済の規模が拡大すれば、建設に必要な資材の奪い合いとなるので、資材価格は高騰する。日本人の実質賃金は下がる一方であり、消費者の購買力も低下が続いている。だがデベロッパーは利益を出す必要があるので、資材価格が上がった分だけ、販売価格も上げざるを得ない。

実は、日本の新築マンションの販売価格というのは、過去40年間を通じて下がったことは、ほとんどない。バブル末期に一時、販売価格が異様に上昇したことがあり、その反動で数年間は下落が続いた。しかし、すぐにトレンドは上昇に転じ、その後はほぼ一貫して価格は上昇しているというのが現実なのだ。

〔PHOTO〕iStock

マンション価格というのは土地の値段や需要で決まると考える人が多いが、それは単なるイメージである。少なくとも新築マンションの価格については、資材や人件費など世界経済の動きとリンクしたコスト要因で決まる部分が多く、土地の価格はあまり関係しない。

昨年以降、オリンピックバブルが終了したことで、マンション価格の暴落を予想する声が上がり、メディアもそうした論調一色となったが、業界関係者の中で価格が暴落すると予想した人はほとんどいなかったはずだ。今回のコロナ危機も同じで、コスト面に目を向けると価格を下げる余地は意外と少ない。

コロナ危機はむしろ「コスト高」要因

このような話をすると、コロナ危機で全世界的に不況になっているのだから、資材価格も暴落するのではないかとの疑問が出てくるかもしれないが、話はそう単純ではない。確かに全世界的に建設が滞ったことで、資材に対する需要も減少している。一方で、各企業は全世界に拡大したサプライチェーンの縮小も検討している状況だ。

これまでの時代は、1円でも安い製品を求めて全世界からモノを調達するのは当然のことだったが、こうしたグローパル・サプライチェーンはコロナによって完全に崩壊した。国内でも中国から資材が入らず、リフォーム工事が中断するといった事態が相次いだ。

〔PHOTO〕iStock

今後は、全世界的に可能な限り近隣(あるいは自国内)からモノを調達する動きが顕著となり、世界的な貿易停滞によって輸送コストも上昇する可能性が高い。つまり、ほとんどの資材を輸入に頼る日本にとって、コロナ危機の発生は大幅なコスト上昇を招く可能性があるのだ。

こうした状況を総合的に判断すると、コロナ危機による不況で何もかもが安くなるという予想は成立しないことがお分かりいただけるだろう。

加えて、マンションデベロッパーの大手寡占化が進んだことも価格が高止まりする要因となっている。体力のないデベロッパーの場合、建設したマンションを短期で売り切らないと、銀行に返済する資金を捻出できない。このため中規模以下のデベロッパーは、場合によっては価格を大幅に下げてでも売り切ろうとする。

しかし、大手はもともと企業体力があり、量的緩和策の影響によって有り余るほどのキャッシュがある。仮に販売が不振だったとしても、たたき売りをする理由がない。大半のデベロッパーは在庫として保有し、しばらくの間、様子を見るだろう。

テレワークの大きな影響

ここまで筆者は基本的にマンション価格は下がらないという話をしてきたが、場合によっては価格が下がる可能性も見えてきている。カギを握っているのは企業のテレワーク動向である。

政府による外出自粛要請をきっかけに多くの企業がテレワークに移行した。カルビーのように、在宅勤務を標準形にして、どうしても必要な時以外にはオフィスには出社しない制度に切り換えるところも出てきている。富士通も3年をメドにオフィス・スペースを現在の5割程度に減らす方針だという。

〔PHOTO〕iStock

コロナ後もテレワークを続ける企業が増えれば、当然、都市部のオフィス需要は減少する。規模の大きいオフィスビルには、周囲のビルからテナントを奪えるので、引き続き満室となるだろうが、問題となるのは競争力の低い小規模なオフィスビルである。

こうしたオフィスビルは個人所有というケースも多く、大胆な賃料引き下げや大規模改修の費用を捻出できない。オフィスに対する需要が今後も継続的に減少するのであれば、弱小ビルが廃業した跡地には高い確率でマンションが建設されることになる。

このところテレワークが普及したことで、安くて広い郊外の住宅に転居を検討する人が増えているという。だがテレワークが普及してオフィス需要がなくなるということは、都心部でも割安で広い物件が手に入ることを意味している。

テナントの玉突き移動にはかなりの時間がかかるので、ここ1〜2年では大きな動きにはなりにくいだろう。だが、コロナ危機をきっかけに日本の企業社会が本格的にテレワークに移行すれば、都心部のマンション価格にはゆっくりと下落圧力がかかることになる。

先ほども説明したようにコストの上昇から値下げ余地は限られるが、少なくとも一方的に価格が上昇するというトレンドは終了する可能性がある。最終的には日本企業の働き方改革次第だろう。