なぜアメリカの履歴書には「年齢欄」がないのか?(写真:C-geo/PIXTA)

日本と違って、アメリカでは入社希望者に「履歴書に年齢を書かせない」理由とは? 明治大学教授の堀田秀吾氏が解説。『「勘違い」を科学的に使えば武器になる』から一部抜粋・再構成してお届けします。

学生と話していてよく思うのは「若い=優れている」と考えて、おじさんおばさんたちに対して根拠のない優越感を抱いていることです。

言われてみれば、なんとなく、社会全体に「若いほうがいい」というイメージがないでしょうか?

じつは、これもバイアス(年齢バイアス)なのです。たしかに、若いときのほうが身体能力は高いですし、肌のハリも髪の毛もあります。見た目などの面で、生物学的に生殖面に直結したアピール力があるのは事実です。

「年齢を重ねた」からこそ有利な面もある

とはいえ、経験、知識、お金まわり、余裕など、年齢を重ねたからこそ醸し出せる気品など、歳を取ったほうが有利な部分だってたくさんあります。

このような年齢バイアスの存在が、理解しやすくなるデータをご紹介します。

株式会社チェンジウェーブが公開したものですが、同社が開発した管理職eラーニングツール「ANGLE」を受講した管理職560名のデータです。

ANGLEのセルフチェックで「年齢性別を問わず、実力次第で登用すべきである」という項目に賛成する人は、91%にのぼっています(「とてもそう思う」24%、「そう思う」67%、「そう思わない」9%、「全くそう思わない」にいたっては0%です)。

ところが「新規事業開発責任者の候補者採用で、以下の年齢の場合採用しますか?」という具体的な質問(「Yes」「No」「迷う」の三択)になると、

「25歳の候補者を採用する」のYesは83%
「55歳の候補者を採用する」のYesは76%
「18歳の候補者を採用する」のYesは39%

このように、候補者の年齢によって「Yes」と回答する管理者の割合は変わり、どれも91%に及びません。無意識のうちに、年齢バイアスがかかっているのです。

この質問の場合、ほとんどの人が18歳以降に経験する仕事が質問内容のため、いちばん割りを食っているのは18歳になるのは当然でしょう。ですが基本的に、年齢バイアスは歳を取れば取るほど、その影響が大きくなっていくようなのです。

ほんの一例ですが、就職支援会社の方に、30歳以上になると成功率は大きく下がると聞いたことがあります。また、40歳以上の転職や再就職も非常に難しく、実際に現在進行形で苦労している知人が何人もいます。

もちろん、同じ能力であれば、体力もあるし、活躍できる期間も長い若者が支持されるのはよくわかります。でも、当たり前ですが経験が違うので、30代や40代には、10代、20代にはない能力があります。

アメリカでは年配者でも働ける理由

しかし、年齢バイアスによって、それが評価されにくくなっているのです。実際にアメリカでは、1967年に「雇用における年齢制限禁止法(The Age Discrimination in Employment Act)」が制定されています。

年齢バイアスによる問題があるからこそ、このような法整備がおこなわれているわけで、その点、アメリカは日本に比べて進んでいると言えます。

それ自体が違法なので、アメリカの履歴書には年齢や性別を書く欄がなく、そのおかげか、アメリカではいたるところで、かなり年配の方が働いているのも見かけます。

日本でも、原則として年齢差別は禁止されています。ですが、一定の理由さえあれば年齢制限を設けてもいいことになっていますし、実際には年齢による採用拒否がないとは言えません。

社会にある問題は、個人の中にもあるものです。自分が年齢を重ねることを「イヤだな」と思っている方は少なくないでしょう。言語学的にも「若者」「青年」に比べて「おじさん」「おばさん」「中年」ということばには、よくないニュアンスが含まれ、ことば自体にマイナスイメージがあります。

でも、そんなバイアスやイメージのせいで「若者」以降の時期を楽しみにくくなってしまうのは、あまりにもったいないでしょう。

仮に30歳以上を、おじさんやおばさんだと定義すると、平均寿命から考えて、おじさんやおばさんになってからのほうが人生は長いのです。おじさんやおばさんとして、あるいはそうなってからの人生を、それまで以上に楽しみたくないですか?

年齢を重ねることに不要なストレスを感じず、そのときそのときのベストをエンジョイできる人のほうが、仕事でもプライベートでも輝きを放つことができるでしょう。

中年のほうが集中力は高い

じつは身体に関する能力にしても、何でもかんでも若者のほうがよい、というのは幻想でしかありません。

たとえば、マサチューセッツ工科大学のジョシュア・ハーツホーンは、脳のピーク年齢は、能力によって変わるという研究結果を公表しています。この研究では、情報処理能力や記憶力は18歳がピークで、若いほうが有利であるものの、たとえば集中力は43歳前後、語彙力にいたっては、なんと67歳前後がピークという結果が出ているのです。

そもそも、青年と中年を分ける明確な決まりもありません。18歳の男子学生でも、小学生から見たら十分おじさんです。

私も10代のとき、小さい子から初めて「おじさん」と言われたときは少し傷つきましたが(笑)、他者の尺度をそこまで気にする必要はありません。

社会に年齢バイアスが存在し、それによって不利益を被る可能性があることは事実ですが、大切なのは自分自身の心持ちとして、加齢をネガティブにとらえないことです。

自分が積み重ねてきたもの、そして年齢なりの味や価値を再度考えてみましょう。必死に無理な若づくりをするのは痛々しいかもしれませんが、ある程度の年齢になって以降も、年齢なりに人生をエンジョイすることはできます。

魅力的な「年の重ね方」とは?

いや、むしろどんどんするべきです。時折、ビックリするくらいオシャレなファッションのお年寄りを見かけることがありますが、本来は、若いころよりも歳を取ってからのほうが、知識や経験、収入や知り合いが増える分、楽しく生きるための選択肢も増えているはず。


誰にでも、そうなる可能性を秘めています。どんな年齢になっても、そのときなりの「最高」があるものです。20代に「最高」だったスタイルを、30代以降も続けていると、どこかで無理な若づくりと受け取られてしまうかもしれません。ですが、つねにそのときどきの「最高」を見つけ、更新し続けることができれば、他者から見ても魅力的な年齢の重ね方ができるはずです。

身体能力の衰えだけは避けられませんが、運動する習慣を身につければ、ある程度のラインはキープできます。

楽しく生きるためにも心身のコンディションは大切ですから、心身の健康にはしっかりと気を配って人生を楽しみましょう。若者とはまた違った魅力で輝くことができれば、年齢バイアスの意味がひっくり返ることだってあるかもしれません。