2列シートのコンパクトなスライドドア車は日本ならでは!

 経済のグローバル化が進んでいる。自動車業界では、かつては世界戦略車や世界中で販売されるクルマをグローバルモデルなどと呼んで特別視していたが、いまではグローバルモデルであることは当然となりつつある。

 そのため日本専売モデルというのは、そのほとんどが軽自動車だったりするのだが、軽自動車のなかにも、660ccエンジンのまま売られているケース(スズキ・アルト)もあるし、ボディはそのままに排気量を上げて海外展開しているモデル(軽トラなど)もある。

 その意味では、純粋な国内専用車というとかなり条件が厳しくなるのだが、ここでは可能な限り国内専用といえるモデルから海外市場でも支持されそうな5モデルをピックアップ。その魅力を紹介していこう。

1)ダイハツ・トール/トヨタ・タンク/ルーミー/スバル・ジャスティ

 まず、日本市場の特徴というとスライドドアのモデルが多いことだ。多くは商用バンでしか見ないスライドドアは、海外ではミニバン(3列シート)の乗降性を確保するために採用されるといった傾向にある。なにしろヒンジドアに比べてコストアップしてしまうので、2列シートのコンパクトカーでスライドドア、まして電動タイプなど使うのは贅沢なのだ。

 しかし、日本では2列シートのコンパクトカーでもスライドドアを採用した例は多い。日本一売れているモデル、ホンダN-BOXしかり、軽自動車でいえばハイトワゴン系のダイハツ・ムーヴキャンバスという背の低いスライドドア車の例もある。

 そして、スライドドアの2列シート車で、世界でも通用しそうと思えるのがダイハツ・トール、トヨタ・タンク/ルーミー、スバル・ジャスティの4兄弟だ。このサイズのスライドドア車といえば、海外では小口配送の商用車というイメージだろうが、完全に乗用車然としたルックスに、豊富なシートアレンジや高いユーティリティを実現した室内。何より1リッターターボエンジンによる、リニアでパワフルな走りは速度レンジの高い海外でも通用するだろう。

 日本でスライドドアが広まっている理由のひとつに、チャイルドシートに子どもを乗せやすいというメリットもある。こうしたスライドドアのコンパクトカーを「チャイルドシートを考慮したデザイン」として海外に広めれば、世界中の子どもたちの安全性も向上するかもしれない。

2)ホンダ・フリード

 そうはいっても、スライドドアといえば開口部を広く取れるため、3列シートミニバンにおいて3列目に乗り込みやすいというメリットも大きい。そして3列シートミニバンといえば、それなりに大柄なボディというのが世界の常識かもしれないが、そうした流れを変えるべく世界に紹介したいのが、ホンダ・フリードだ。ホンダ独自のセンタータンクレイアウトにより3列目のスペースは足もと、頭上ともボディサイズから想像できないほど広く快適。パッケージングの妙は、世界を驚かせるはずだ。

 さらにいうと、5ナンバーサイズのミニバンゆえにナロートレッドで背が高いにもかかわらず走りがキビキビしていて、なおかつ高速安定性が高いのもフリードの魅力。その理由は、国内専用モデルとして、プラットフォームから専用に作り込んだことにある。走りの面でも世界を驚かせること請け合いだ。

珍しいトヨタの国内専用車のなかでも海外ウケするモデルが存在

3)トヨタ・プロボックス

 高速安定性に驚かされる、意外性のあるクルマといえば日本を代表するビジネスバン、トヨタ・プロボックスが最右翼。これも国内専用モデルといえるが、あらゆる意味でタフな使い方を想定した設計は、耐久性はもとより、過積載・速度超過といった本来はNGな状況における許容範囲の広さにもつながっている。

 そうしてイリーガルな行為を推奨するわけではないにせよ、プロボックスのポテンシャルの高さは、世界でも通用すること間違いなし。さらにビジネスユースにも耐えられる信頼性の高いハイブリッドシステムを積んでいることで運用コストも抑えることができる。どこの国に持って行っても高いニーズを生み出すことだろう。

4)トヨタ・ポルテ

 トヨタの国内専用車は意外に少ないのだが、そのなかでも注目したいのが、「ポルテ」だ。ちなみに顔違いの兄弟車「スペイド」は限られた地域ながら海外展開もしているが、今のところポルテは国内専用車となっている。運転席側はヒンジドア、助手席側は大きなスライドという左右非対称ボディは、狭い駐車場の乗降性や子連れでの動線においてメリットあり。具体的に動線のメリットを記せば、子どもを抱きかかえたままスライドドア側から乗り込み、後席のチャイルドシートに座らせたら、ウォークスルーで運転席に座ることができるといったもの。

 いちいちクルマのまわりを半周する無駄な動きはなくなるし、雨の日などはさらに利便性が際立つ。こうしたパッケージは、ファミリーカーとしてだけでなく小口配送車などのビジネスユースでも使い勝手がよさそうだ。もっとも、左右非対称ボディの左ハンドル車を作るとなると完全新設計のボディが必要となるため海外展開するといっても具体性があるのは右ハンドル地域に限る話になるだろう。

5)ホンダS660

 最後の国内専用車として世界中から引く手あまたになりそうなスポーツカーを紹介しよう。それがホンダS660である。言わずもがな、専用セッティングの3気筒ターボエンジンをミッドシップに搭載、ルーフ部分をキャンバストップとした2シーターオープンの軽スポーツカーだ。国内でのライバルとなるダイハツ・コペンは旧型の時代から少数ながら海外展開をしているが、S660については様々な噂はあるものの、現時点では国内専用車となっている。

 マスが集中したハンドリングや後ろからエンジン音が聞こえてくる刺激などミッドシップらしさにあふれながら、660ccエンジンによる限られたパワーと、195mm幅の広い駆動輪(リヤタイヤ)のよる安定感は、ミッドシップスポーツカーとしては出色の出来栄えで、電子制御に頼らず誰もが全開走行を味わえるミッドシップスポーツカーという唯一無二のキャラクターをアピールすれば、世界中で高い評価を得られることだろう。もっとも、大柄な人が多い地域では乗降性の悪さが大きなネガとなってしまうかもしれないが……。

 このようにプラットフォームのレベルで考えても国内専用設計となるクルマとなると非常に限れる。さらに言えば、もともとは日本専売モデルとして生まれていながら、評判がよく海外展開に至ったモデル(近年の例でいえばスバル・レヴォーグ、スズキ・クロスビーなど)もあり、意外に国内専用車というのは少ない。

 もしかすると、ここで紹介した5つのモデルも気が付けば海外展開を果たしているかもしれない。