■アフターコロナの「新しい生活様式」にフィットする

アメリカの会員制量販店「コストコ」が日本に上陸したのは1999年。私も21年前にコストコの会員となりました。ただ、日本上陸と同時に会員になったのではありません。当時、私はアメリカに移り住んだばかりで、現地の友人に勧められてアメリカで会員になったのです。

写真=時事通信フォト
コストコホールセール(千葉県美浜区)=2016年8月10日 - 写真=時事通信フォト

その後、私のライフスタイルとコストコは、密接な関係になりました。そしてコストコ型のライフスタイルは、アフターコロナの「新しい生活様式」にフィットするものだと考えています。

コストコのビジネスモデルは、会員向けに、売れ筋のナショナルブランド商品と高品質のオリジナル商品を、とにかく大きなパッケージで販売する、というものです。

店舗は「倉庫店」と呼ばれる独特のレイアウトで、だだっ広いのが特徴です。パッケージが大きいので気づきにくいのですが、陳列されている商品点数はコンビニと同じくらい。少数精鋭の売れ筋商品だけに絞り込まれています。

■年3回、生活必需品を中心に5万円の爆買い

アメリカ人の生活スタイルだと月2回くらいコストコに出かけて、大量の商品を購入し、それを冷蔵庫や戸棚に詰め込んでゆっくりと消費します。マヨネーズの1ガロンボトル(1ガロン=約3.8リットル)なんてどう使うのかと日本人は思ってしまいますが、アメリカ人は平気でそういう大容量の商品を買って帰ります。

一方、日本人のコストコファンの利用法は少し違っています。主婦たちの間では、ひとりが会員になったうえで友達3、4人と一緒に買い物に出かけ、大きなサイズの商品を購入し、それを小分けしてお得なショッピングを楽しむという方法が人気です。

私は東京のど真ん中に住んでいるため、一番最寄りのコストコはどこもだいたい自家用車で1時間かかる距離にあります。そのため普通のコストコファンとは違い、コストコで買い物をするのは年間で3回くらい。毎回、生活必需品を中心に5万円ぐらいの爆買いをしていました。

具体的にはコーヒー豆とか乾麺とかサプリとか保存のきくお気に入り商品を大量に買い、同時に野菜や肉、デリカテッセンの食品などを10日分ほどまとめて買って帰ります。ちなみにコストコの価格はそれくらいの買い物の頻度でも十分にお買い得で、年会費4400円(税抜)は爆買い一回だけでも十分に元がとれます。

「そもそもコストコは大量買いをするアメリカ人のライフスタイルに合っているけれども、住宅の狭い日本人の生活習慣には合わない」という意見がコストコ上陸時から根強くありました。しかし20年たってみると当時日本に上陸した海外の大手小売店の中で日本に定着したのはコストコとアマゾンぐらいです。

■スタバの豆が300円も安く買える

そしてコストコが定着した最大の理由は、このアメリカ的なライフスタイルが日本人の一定の顧客層にとって合理的だったからだと私は考えています。

コストコがターゲットとする顧客層は、個人の場合は年収500万円以上のいわゆる中流の上の収入層です。ひとつ上のぜいたくに慣れているけれども、それなりに節約も必要と考える収入層に、ワンランク上の商品の激安大量消費というスタイルが合致しました。

具体例をひとつ挙げましょう。コストコでは昔からスターバックスのコーヒー豆を販売しています。最近では一般のスーパーでも販売されていますが、以前はスタバの店頭以外で豆を買える場所はコストコだけでした。これはスタバの創業時にコストコの経営者が社外取締役だったことが起源だと言われています。

スタバの店頭でコーヒー豆250gを1000円程度で購入している人がコストコに行くと、もっと大きなパッケージのスタバのコーヒー豆が販売されているのに気づくわけです。豆の種類にもよりますが、スタバと同じ250gに換算するとコストコで買えば700円程度になります。そうだとすれば、どうせ毎朝飲むコーヒーならコストコで買ったほうがお得です。

これと同じ計算がコーヒー豆だけでなくすべての食品、日用品で成り立ちます。それがコストコ型のライフスタイルです。ワンランク上の定番商品をまとめ買いして自宅で楽しむ。この経済的合理性が、忙しい中流層に当たりました。その結果、コストコは日本に定着したのです。

■これからは往復2時間のドライブなしでコストコが利用できる

昨年12月、私とコストコの20年にわたる関係が少し変わる出来事がありました。「コストコオンライン」のサービスが始まったのです。

私はコストコで買い物をするのは大好きなのですが、それにかかる往復2時間のドライブが、限られた週末の時間の使い道としては無駄が多いと思っていました。

しかしコストコオンラインができると話が変わってきます。倉庫店が近くにないユーザーでも会員としてコストコ商品を楽しめます。実際、この半年に限っていえば、私のコストコでの買い物は、回数も金額もオンラインがリアル店舗を上回っています。

わたしの個人的な体験から類推すれば、コストコを知っているけれどもこれまでコストコの会員ではなかった消費者がもしコストコオンラインを使用すれば、これまで倉庫から遠いという理由で会員が少なかった地域において大きな新規需要を得ることができるはずです。

■コストコ型の消費スタイルがニューノーマルになる可能性

そしてもうひとつ重要なことは、このコストコ型の消費スタイルはアフターコロナにフィットするのです。

これまでは物を最小限しか買わない「ミニマリスト」というライフスタイルが一定の支持を集めていました。しかしコロナで物が店頭に並ばないという新しい事態に直面して、最小限の在庫で生活するというスタイルは難しくなっています。

いつものコーヒー、いつもの洗剤、いつものシャンプー。それらが当たり前のようにお店に置いてあっていつでも買えるという日常がずっと続くわけではない。それが新しい現実です。アフターコロナを快適に過ごすためには、自分のお気に入りの商品は3カ月分ぐらいの在庫を持つ、というのが必要だと思います。

■お店で買うより200円高くても構わない

さて、こうしてコストコのオンラインに依存する新しい生活スタイルを始めた経験から、2つのことに気付きました。

1点目はコストコのオンライン商品の価格が、倉庫店で買うよりも少し高く設定されていることです。

それは一律何%というわけではなく、商品によって違う。たとえば私がよく買うコーヒー豆の場合、オンラインの方が100円ぐらい高い。これはまだ価格差が小さいほうで、多くの商品は200円から300円ぐらい、倉庫店よりもオンラインの方が高いという価格設定になっています。

実はこれはコストコのビジネスモデル上、どうしても必要な価格差なのです。というのもコストコは他の小売店と違い、倉庫のパレットの上に置いてある商品を消費者がピックアップしてレジまで運んで会計します。

通販で注文があった場合に従業員がやるのもこれとまったく同じです。つまり、消費者の代わりに従業員がピックアップするための人件費、そして配送コストがかかります。コストコは、そのコストをオンライン商品の価格に反映させているわけです。

お店で買った方が200円安いのだったら、お店に行ったほうがいい。以前であればそう考えたところですが、コロナで私たちは「お店に出かけて必要なものを買いそろえることが生活の中で結構大変な作業であった」ということに気づきました。

コロナによって、お店に出かけるコストやリスクが可視化されたのです。今後、コロナのワクチンや特効薬が開発されれば消費者の考え方は変わるかもしれません。しかしそれでも、自分でお店に出かけるコストを考えると、少し高くても通販で済ませたいというニーズは減らないと私は見ています。

■会員に向き合うからこそのルール変更

2点目は、最近、コストコオンラインに「5000円以上」という最低購入条件が設定されたことです。

開始当初は2000円のチョコレートひとつでも注文でき、送料も商品価格込みの無料だったのですが、最近になって「オンラインでもよりコストコらしくお買い物いただくために、最低購入金額5000円を設定しました」という新しいルールができました。

私はこのような変更はコストコらしいと思います。コストコという企業は毎年決算をしてみると年間の利益額が年会費分の収入とほぼ同額になることで知られています。つまり企業ではありながらあくまで会員制のクラブであって、必要以上の利益は求めず、余剰利益は会員に還元していくというポリシーを長年貫いているのです。

そのように会員に向き合っている企業であるからこそ、多頻度少量の注文が顧客に定着してしまうのは、お互いのためによくないと考えて、ルールを変更したのでしょう。

今回の場合も、「利便性を考えた通販サービスを適正価格で長く続けられるようにするために、一定の量を購入してください」というメッセージが伝えられたことで、会員である私も「そりゃそうだな」と思うわけです。

■一年のお試し期間。試しに始めてみて損はない

鈴木 貴博『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP研究所)

コストコは一部エリアの中流の上ぐらいの収入層に支持されて日本に定着してきました。そこから新しく始まったコストコオンラインの仕組みは、近くにコストコの倉庫店がない人に対しても新しいライフスタイルを提案するものです。

今回の記事で興味を持たれた方は、試しにコストコオンラインを始めてみてはどうでしょうか。コストコは全商品について返品返金保証をしているだけではなく、年会費についても一年間の有効期限内に退会する場合には全額返金を保証しています。

お試し期間が1年間あると思って、とりあえずコストコに入会し、自身のアフターコロナのライフスタイルに合致するかどうかを確認してみても損はしないはずです。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『仕事消滅AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』など。
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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)