二階氏引退、後継者に三男

 それでは、安倍首相は9月に衆院解散を断行し、残り任期を全うするために、来るべき内閣改造、自民党役員人事でどのような構想を描いているのか。

 政府関係者が焦点を解説する。

「ズバリ、幹事長人事です。首相は自身の後継に期待する岸田氏を幹事長に昇格させ、衆院選を仕切らせたい。しかし、二階氏が抵抗するのは必至だ。首相がどうやって納得させるかが最大の見所だね」

 首相は、麻生氏に加えて菅氏も続投させて政権の屋台骨を維持。茂木敏充外相、河野太郎防衛相、小泉進次郎環境相ら「ポスト安倍」候補を、閣僚や党の要職に置く布陣を考えているのは間違いない。

 一方で、党内の細田、岸田、麻生、二階の主流4派閥が政権を支える「4派体制」も継続したい。それには二階氏の処遇が最大のポイントになってくる。

 安倍首相に近い中堅議員が秘策を明かす。

「解散と連動し、二階氏の三男を後継とすることに、お墨付きを与えるのです。80歳を超える二階氏はもう引き際です。そこで、電撃解散で二階氏は引退を表明しますが、選挙区の衆院和歌山3区では後継候補者を選んでいる時間がないとの理由で三男を公認する。これなら二階氏も首を縦に振るはずです」

 問題は二階氏の選挙区を狙う、和歌山選出の世耕弘成参院幹事長の存在だが、世耕氏は安倍首相側近を自認するだけに「首相が因果を含めればいい」(同)。これで4派体制も安泰になるというわけだ。

 衆院選で自民党が過半数を維持すれば、首相が最後のレガシーに取り組む態勢もできる。首相の思惑通り、岸田氏は後継の地位を固められる。党員投票が伴う総裁選になっても「これだけのお膳立てがあれば、いくら人気のない岸田氏でも石破茂元幹事長に勝てる」(党中堅議員)との見立ては、そう外れていない。

 本当に安倍首相が思い描くシナリオ通りに進むのだろうか。立民幹部は「独りよがりの、絵に描いた餅だ。自分が置かれている状況をまったく理解していない」と切り捨てる。首相のシナリオは、コロナの感染拡大はないことが大前提になっているが、その保証はない。第2波が来たら「選挙どころではない」が、永田町の一致した見方だ。

 そうでなくても「自治体はどこも、コロナ襲来に備えて対応に忙しく、膨大な選挙事務を強いることはできない。もし解散すれば党利党略、個利個略を優先したと激しく批判され、惨敗するのは目に見えている」。自民党の若手議員もそう不安を口にする。

 加えて、安倍内閣の支持率がこれ以上、下がらないこともシナリオの前提になっている。しかし、検察庁法改正や持続化給付金の問題は燻り続けており、一連のコロナ対応を含めて、野党は引き続き厳しく追及する構えだ。

 さらに首相を直撃しているのが、前法相の河井克行、案里夫妻の選挙違反事件。河井前法相が首相側近の1人だっただけに世論の批判の高まりが予想される。

 東京のコロナ感染者は連日2桁を記録し、市中感染の拡大が懸念されている。動き始めた経済も再びストップし、日本はコロナ大不況に突入することになりかねない。秋口に内閣支持率が20%を切る事態もありえる。そうなれば、解散など不可能だ。

「『安倍首相には解散できない』と見切られた途端、首相はレームダック化し、政局は一気に流動化しかねない」
 先の自民党中堅議員の偽らざる懸念だ。

 そもそも、6月19日の4人組の会食も、再結束を確認できたわけではなかった。出席者に近い若手議員によると、会食を提案したのは麻生氏だったが、早期解散を説く麻生氏に、菅氏は不機嫌そうな表情を浮かべ、会話が弾むことはなかったという。

 先の立民幹部はこう予言した。

「安倍首相は解散できないまま、10月には東京五輪中止が決まる。首相の1年延期が裏目に出ることになるわけで、政治責任を問われるのは確実。11月の米大統領選でトランプ氏が敗北すれば、トドメとなり首相は野垂れ死にする。後継首相には石破氏がなるだろう」

 安倍首相の命運は尽きるのか。鍵は新型コロナの行方と、主権者である国民1人1人が握っている。