中国・上海のファーウェイショップ(資料写真、2020年6月18日、写真:ロイター/アフロ)


(姫田 小夏:ジャーナリスト)

 戦後、世界各国が足並みを揃えて取り組んできた経済のグローバル化だが、これに逆行する動きが始まっている。その動きを象徴しているのが、ファーウェイのスマートフォンの新機種だ。

 6月、ファーウェイの5G対応スマートフォン新製品「P40」シリーズが日本でも発売された。米国の制裁により「グーグルのソフトが搭載できない」という、曰く付きの製品である。

 スマホショップでどれほど大々的に売られているのだろうかと、都内のショップを訪ねてみた。だが複数の店を訪れたところ、「P40」が売られていない。かろうじて2019年3月に発売された「P30」を置いているショップがあったが、訪問したショップのほとんどの販売員が「ファーウェイのスマホですか。どこにありましたっけ・・・」といった具合なのだ。

 日本では、スマホの新製品を発売する場合、キャリアとスマホメーカーが開発段階から仕様についてすり合わせを行うのが通例だ。だが、ドコモショップの販売員によると「P40はドコモとファーウェイの間ですり合わせがなかった」という。ドコモの総合カタログに「P40」の掲載がないのはそのためらしい。auショップの店員も「P40を扱う予定は今のところありません」という。

 新宿駅周辺の量販店を訪れてようやく「P40 Pro 5G」を見つけた。だが、店頭の目立つ場所ではなく、SIMフリー対応のコーナーに置かれていた。

 販売員は「ファーウェイ製品はカメラの性能が優れています」と説明してくれた。「想像を超えた写真を」――というキャッチコピーにもあるように、ファーウェイのスマホはカメラの高性能化が進んでいる。2018年に発売された「P20」も、クオリティの高い写真が撮れると日本のユーザーの間で評価が高かった。だが、「スペックが高すぎてユーザーがついていけなくなっている」とも聞く。

 高性能カメラを搭載する一方で、残念な部分もある。「防水機能がなく耐水のレベルにとどまる」(ファーウェイの販売員)のもその1つだ。その点、富士通などは食器用洗剤で「洗える」スマホを開発している。

 何よりも「Google Play」などグーグルのソフトが使えないのは致命的だ。米国による制裁が強まったことを背景に、「2019年からファーウェイ製品の売り上げが落ち始めた」(同)。

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プロモーションも消極的?

 そういえば、「P40 Pro 5G」は広告もほとんど目にしない。ここ数年、ファーウェイは大々的にプロモーションを展開し、都内でもかなり目立った存在だっただけに、今回はとても“静か”な印象を受ける。秋葉原の量販店では、建物の壁を「P40 Pro 5G」の広告にしていたが(下の写真)、新宿の同量販店内で広告を目にしたのは、唯一、エスカレータの上り口だけだった。

秋葉原のビックカメラの壁に描かれたファーウェイの「P40 Pro 5G」(筆者撮影)


 新宿の別の量販店で、販売員がこう教えてくれた。「グーグル機能が使えないスマホを日本で売っても意味がないことがわかっているのか、ファーウェイさんは最近、販売に力を入れていません。日本でこれからどうなるんですかね。当店では『P30』を扱っていますが、いつサポートを受けられなくなるかわからないので、お客様にはあまり積極的な案内を行っていません」

2018年秋の家電量販店の壁。ファーウェイは今よりも大々的にプロモーションを展開していた(筆者撮影)


経済関係より政治関係が優先される時代に

 米国はファーウェイ製品への規制を強める大きな理由として、安全保障上の問題を指摘する。一般ユーザーが使う端末でも、情報が流出する懸念はあるのだろうか。

 ドコモショップの販売員からは、次のような回答が返ってきた。

「たとえば犯罪捜査上の必要性が生じた場合、どのメーカーのスマホでも、利用者の位置情報を追跡することは技術的に可能です。一方、中国のメーカーとなると、私たちが知りえない部分があまりにも多い。どのようなタイミングや仕組みで個人情報が抜き取られるのか、正直そこらへんはよくわからないのです」

 新機種開発時の通例であるキャリアとメーカーとの「すり合わせ」が行われなかった理由については、その販売員は「政治的な部分があるのではないかと感じています」と語る。政府から何らかのお達しがあったのだろうか? ちなみに日本で販売時期が伸びた理由やショップでの取り扱いなどについてファーウェイ広報部に問い合わせてみたが、今のところ返事は来ていない。

 日本のスマホ売り場から見て取れるのは、経済関係よりも政治関係が優先される新たな冷戦構造が始まったということだ。これまでは、互いに経済的メリットを得られれば、イデオロギーの違いを乗り越えてパートナーになることができた。しかし、国家間の政治的対立がそれを許さない状況になりつつある。

 ファーウェイのスマホには独自開発のOSが搭載されている。中国がこのまま“我が道”を突き進めば、世界の市場は米中によって二分割されることになってしまう。

筆者:姫田 小夏