Web会議の画面越しに会社の会議室で盛り上がる……テレワーク勤務者に疎外感を与える会社が少なくない (写真:USSIE/PIXTA)

「オールド・ノーマル」の強さを実感――。

テレワーク(在宅勤務)の6月の実施率を最初に見たときの筆者の想いだ。3月から4月にかけて2倍以上の増加を見せたテレワークは、5月下旬の緊急事態宣言の全国解除後、6月に入って急落を見せた。

パーソル総合研究所が3度にわたって実施した2万人規模の調査を回答日ごとに見ると、5月の最終金曜日から6月1日の月曜日にかけて、30.5%から23.0%と、4分の3へと減少した。その後のビジネス街の様子を見ていても、全体としてのテレワーク実施率は下がり続けているだろう。

緊急事態宣言解除以降、テレワーク実施率が急落

しかし、正直なところ驚きはない。過去を振り返れば、ウイルス流行や災害に際して、テレワークは広がっては縮小することを幾度も繰り返してきたからだ。だからこそ、筆者は在宅テレワークがバズワード化した4月から、続々と登場する遠隔会議システムやテレワーク関連サービスは過当競争に陥る、と警告してきた。


のど元過ぎれば、メディアも扱わなくなる。東日本大震災後のテレワークに関する「風化」現象についての研究によれば、新聞記事における「テレワーク」「在宅勤務」「事業継続」「BCP」を含む記事は震災から1年で2011年3月との比較で4割にまで減少し、1年半後には30%未満になった(日本テレワーク学会誌Vol.13、吉見憲二「東日本大震災後のテレワークに関連した報道内容の減少に関する研究」より)。

都道府県別のテレワーク実施率のデータを見ても、最上位の東京は48.1%と突出して高いが、最も低い宮崎県はわずか2.0%にすぎない。首都東京に偏った報道によって感覚が歪んでいるが、感染者数が少ない地域にとっては、テレワーク狂想曲はとっくに「対岸の火事」だ。

さて、このように全体としてのテレワークは減少傾向だが、職種別に見ると、さらに興味深い傾向が見えてきている。定着する職種とテレワークをやめていく職種の二分化が進んでいることが見えてきた。


コンサルタント、経営企画、商品開発・研究などは4月と比べてもテレワーク実施率が10ポイント以上上昇し、それぞれ74.8%、64.3%、56.5%となっている。自粛ムードのピークであった4月からさらにテレワーク実施率が上がるというのは想定外だった。

その一方で、販売職(5.4%)、理美容師(2.6%)、配送・倉庫管理・物流(6.3%)、医療系専門職(3.6%)は、4月から実施率が半減してしまっている。業務の性質によって、テレワークが定着していっている職種と、縮小していっている職種に分かれ始めている傾向が見られる。

まだらテレワークのリスクを軽視するな

こうした全体としての減少傾向と、二極化傾向を踏まえると、現在、そして今後の日本企業の職場は中途半端な「まだらテレワーク」の状態にあるといえる。つまり、メンバーが「一斉在宅」で勤務していた組織が多かった4月、5月を過ぎ、一部在宅・一部出社というまだらな状態の組織が大勢を占めるようになる。

これは2カ月間で終わりを迎えた一斉在宅期よりも長期化するだろう。オールド・ノーマルは徐々に復活してはいくものの、新型コロナウイルス感染拡大の継続的リスクは続くからだ。

まだらテレワークは、一斉在宅とはまた異なる課題を組織に突きつける。みなが自宅から参加するZoom会議と、一部従業員が会議室で一部は在宅のZoom会議では、2つのグループの情報量の格差やコミュニケーションのしやすさの格差は非常に大きなものになる。

こうした「まだらテレワーク」状態にあるときの従業員の意識をデータで確認していこう。

まず、テレワーク業務時に不安に感じることについて、一斉在宅が多かった4月時点と、緊急事態宣言が解除されて「まだらテレワーク」が増えたであろう5月末を比較すると、「上司からの公平・公正な評価への不安」「成長できる仕事が割り振られるか不安」「昇進や昇格への影響への不安」など、全体的に社内での自身の評価・キャリアへの不安が高まっている傾向が見られた。

こうした不安感について、「職場でのテレワーカーの比率」別に分析していく。興味深いのは、職場におけるテレワーカーの比率が1割と少ない場合には、テレワーカー側が抱いている不安感は低い。


また、テレワーカーが職場の過半数以上を占める場合も不安は同様に低い数値であった。最も評価やキャリアへの不安感が強いのは、テレワーカー比率が「2〜3割」、つまり「すごく少ないわけでもないが、少数派」である職場だった。

このように、絶対的・客観的な状況ではなく、他者との相対的な状況との比較によって意識が変化することは、社会学では「相対的剥奪(Relative deprivation)」と呼ばれ、研究が進んでいる。

テレワークにおいても、「遠隔で働いている」という客観的状況ではなく、出社を始めた自分以外のメンバーとの相対的な状況の変化によって、不安を増大させることが示唆される結果だ。

確定的なことはこれだけでは言いにくいが、テレワーカーが10人に1人のような少ない状況では、自分のことを「特別な境遇」として考え、コミュニケーション機会や評価への期待値がそもそも少ないことが想像できる。ビフォーコロナ時代のテレワーカーは、福利厚生的な意味合いが強く、自他ともにこうした「特別枠」として捉えられていたテレワーカーが多かったように思われる。

まだらテレワークが引き起こす2つのバッドシナリオ

さらに属性の影響を取り除きながら分析を行った結果を見ると、組織風土としてメンバー同士のプライベートな交流が多い組織ほど、テレワーカーの不安感が「強い」ということも明らかになった。

従業員「みんな」が同じ時空間を共有することで、疑似共同体的に機能してきた日本企業は、その「みんな」に自分が含まれないときに、孤独を生みやすいということだ。「みんな仲良し」の会社や組織は、テレワークにとっては両刃の剣だ。

こうした「まだらテレワーク」状態に突入した組織にとって、今後のバッドシナリオは2つある。1つは、こうした相対的な剥奪感に耐えきれず、出社をしているメンバーの同調圧力に屈するように、不要な「出社」が増えていくことだ。

まさに「オールド・ノーマル」の強さを証明するように、満員電車に不満を口にしつつ、テレワークでもできた仕事を会社でするようになるだろう。新型コロナウイルスの感染リスクの観点からも、テレワークの定着阻害の観点からも避けたいシナリオだが、可能性は高い。

もう1つのバッドシナリオは、「最後まで出社しないのは誰か」ということに関わる。先述したような不安感をいだきながらも在宅テレワークを続ける、つまり相対的に剥奪感を抱き続けるのは、「子持ちの女性」だと筆者は予想している。

調査においても、「働きながらの子供の世話」の負担は男女で言えば女性の側に大きく偏っており、さらに4月よりも5月のほうがそうした負担感が強まっていた。テレワークの継続希望率が全体で69.4%だったところ、未就学児を持った女性では8割を超える。

保育・教育機関がまだ完全に機能していない中で、多くの共働き家庭では、「男性」から出社していくことが予想される。このままでは、テレワークという働き方が、性役割分業を「強化」するような効果を持ってしまいかねない。

バッドシナリオを避けるために

バッドシナリオを避けるためにまず必要なのは、企業・組織単位での「ポリシーの明確化」だ。多くの企業では、自主的な判断や現場判断で出社が「なし崩し」的に開始され始めているが、これらは「まだらテレワーク」の状態において同調圧力を発生させてしまう。

残念ながら、多くのマネジャーや経営者、人事部に至っても、オールド・ノーマルに引き寄せられるように「なし崩し」的に出社し始めている。

そこで、「出社率は全体で○割以下にする」「個々人は月に〇%以上は在宅勤務にする」といった目標設定や、組織ごとの交代制出社など、全体としての最適バランスをみながらきちんと明示すべきだ。新型コロナウイルスの感染者数の推移はまだ不安定であり、「なし崩し」ではない組織としての共通認識を作りたい。

同時に、テレワーカーが少なくなるほどに、個別への「点」のケアが必要になる。組織の中で出社組が多くなればなるほど、テレワーカーの問題は「小さな」問題になってしまいがちだが、上述したように、「少ないからこそ」のケアが必要だ。上司は自組織において「出社したくてもできないのは誰か」「どのくらい負担がかかっているのか」を個別に気にかける必要があるし、評価やキャリアへの不安感を取り除くような、公平な視線をもったコミュニケーションが必要だ。

筆者が見る限りでは、こうした「まだらテレワーク」と「一斉在宅」の課題の違いを意識している組織は少ないように思う。コロナ禍は、これまでのマネジメントや組織のあり方に疑問を呈し、問いなおすよう促す。各企業、組織、個人が新たな状況に創意工夫をこらさねばならない期間はまだまだ続く。