1億人以上の顔分析データを元に、人の性格やパーソナリティを分析する相貌心理学。その分析精度は99%で、フランスでは人材育成や適材配置のためにも活用されているのだそう。日本で唯一の相貌心理学教授、佐藤ブゾン貴子さんがその有効性を解説する。

※本稿は佐藤ブゾン貴子『人は顔を見れば99%わかる』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Tomwang112)

■フランスでは採用面接でも活用されている

相貌心理学は、人の本質を顔で理解するメガネです。このメガネを持つ人と、そうでない人とでは、コミュニケーションにおいてもビジネスや恋愛、家族関係においても、天と地ほどの差が開いてしまうと言っても、過言ではありません。

(中略)

相貌心理学がビジネスで有効活用できる事例をご説明します。まずはマンツーマン・コンサルティング。

設定した目標に対して、きちんと管理し適切な行動ができているかどうか、スタッフやビジネスパートナーと適正な人間関係が築けているかなどを、依頼者の顔の変化を見ながら、マンツーマンでコンサルティングをしていきます。フランスでは、エグゼクティブが相貌心理学者にマンツーマンのコンサルティングを希望するケースもあります。

あるいは、産業医や医療カウンセラーに代わるメンタルコンサルティング。

新しく入ってくる社員のAさんがどちらかと言うと心の病気に陥りやすい傾向があるならば、それを顔に表れた情報から察知し事前に対策を講じて防ぐことも可能です。

ほかには、人材アセスメント。適性の見極めや人材配置などは、すでにフランスで活用されている分野でもあります。

採用面接という場で応募してきた人が本質的にどういうタイプかを見抜くのはベテランの面接官でも難しいものですが、相貌心理学を知っていれば、それも容易にできます。

たとえば、図表1の四人が応募して来たとします。今回の採用で、「リーダータイプ」を求めているとしたら、A、B、C、Dの中からぴったりの人材を選ばなければなりません。

出典:佐藤ブゾン貴子『人は顔を見れば99%わかる』(河出書房新社)(イラスト=森 海里)

ちなみに、あなたが面接官だとすれば、四人のうち誰を選ぶでしょうか。直感でもいいですから、顔だけでリーダータイプを一人選んでみましょう。

■肉づきの張りとこめかみがポイント

先に正解を言うと、リーダータイプはCです。それ以外は、Aが言われたことを忠実に実行するタイプ、Bが人を押しのけてでも前に出ていくタイプ、Dが縁の下の力持ちタイプです。

なぜこの四人について前述のように判断できるのでしょうか。それは顔に表れた情報を相貌心理学で読み取っていったからです。A、B、C、Dそれぞれについては、次のように分析できます。

A=言われたことを忠実に実行するタイプ

肉づきはあっても張りがなく、目尻はとても下がっていることから、言われたことを忠実に実行していくタイプだとわかります。

目は大きく、横から見るとどちらかと言えば飛び出しているがゆえに、選択の欲求も少ないことを示しています。唇は若干開き気味で、自己制御力が弱いこと、あご先はとんがり気味で、横から見ると引っ込んでいるので野心がないこともわかります。

B=人を押しのけてでも前に出ていくタイプ

横から見て傾斜の強い額は、思考の速度や判断は速いが、他人への配慮に欠けていることを示します。あご先が過度に突出しているので野心を実現する力もあります。正面から見て耳が見えるので、独立心が旺盛。また頬骨が張っているので、社会的欲求、愛情欲求が強いこと、それを人に強要するのをいとわないことがわかります。

C=リーダータイプ

直感したことを理論立てて考えられることが、横から見た額上部の丸みや眉上の凹凸からわかります。自分の考えを他者に勢いよく伝えられる能力は、鼻筋の傾斜が示しています。想像したことや理想を理論的・現実的思考に落とし込む力を持っていることは、こめかみのまっすぐさが示していますし、張りのある肉づきからはモチベーションが高いことがわかります。唇は引き締まり閉じられているので、自己制御力があると言えます。

D=縁の下の力持ちタイプ

全体的な肉づきの豊かさと適度な張り、唇の肉づきのふくよかさから、コミュニケーションにおける順応性、寛容性が高いことや、相手に対する気配りが得意であることがわかります。目尻の下がりは、他者の話をじっくり聞ける度量の大きさを示します。あご先がどっしりとしていることから野心があることはうかがえるものの、横から見て過度に突出していないことからほどよく自己制御できることがわかります。

■人材のミスマッチを防ぐ

リーダータイプの人材が欲しいのに、言われたことを忠実に実行するAか縁の下の力持ちであるDを採用してしまったら、人材のミスマッチ。採用したほうは「もっとやってくれると思っていたのに……」とがっかりし、採用されたほうは「こんなことは向いていないのに……」とストレスを感じ、お互いに不幸なことになります。あるいは参謀タイプが欲しいのに、人を押しのけてでも前に出ていくBやリーダータイプのCを採用しても、同じようなミスマッチが起こります。

どんなに面接をたくさんしても、その人の本質を見抜くことは難しく、履歴書に素晴らしい実績が書かれていても、その人が本当にその能力を発揮できるかは現場に出てみないとわからないものです。

採用には、このようなリスクがつきまといます。そのリスクヘッジをしてくれるのが、相貌心理学です。

履歴書にはないその人固有の情報が、顔には表れています。それを分析できれば、「この人はリーダー(言われたことを忠実に実行する/人を押しのけてでも前に出ていく/縁の下の力持ち)タイプ」だと見抜くことは可能です。人材のミスマッチも限りなく減らしていけることでしょう。

■営業向きの人の顔立ち、事務向きの人の顔立ち

営業部門の人材を募集しているのに、事務の得意な人を採用してしまっては、お互いに不幸なことになります。社交性に長けている人、他者とのコミュニケーションが得意な人が、やはり営業には向いています。もし四人の中で採用するとしたら、相手の立場になってものごとを考えられるDになるでしょう。

反対に、動き回って周りの人たちとのコミュニケーションをとるのが得意なタイプが事務職専門のチームに入ると、ストレスがたまってしまいます。営業向きの人を顔立ちから見極めて配置できれば、ミスマッチはなくなります。

同じく四人の中で事務職を採用するとしたら、言われたことを忠実に実行するAでしょうか。面接という短時間でも、顔を見るだけでその人の持つ本質がわかります。

ビジネスでの人材配置という視点で考えた場合でも、「顔の部位がこうなっているから、この人はこういう人だ」と一義的に判断するのではなく、会社に必要な人材はこういうタイプだから、それに合うのはこういう顔のタイプだ」と見ていくほうが、ミスマッチは起こりません。

それぞれの人間の特性を活かすことこそ、重要です。相貌心理学を用いれば、適材適所の 人材配置が可能になります。

■日本人に合ったコミュニケーション方法

相貌心理学は、その人の「いい悪い」を判断するための学問ではありません。その人を理解するための学問であり、(中略)「顔」に表れたさまざまな「表出」を客観的に読み取って言語化する学問です。そこに「いい悪い」の判断はありません。ちなみに、表出とは相貌心理学では生体内部に起こっていることが顔の表面に特徴として表れることを指します。

佐藤ブゾン貴子『人は顔を見れば99%わかる』(河出書房新社)

まずは相手の顔をしっかり見ること。それは、アイコンタクトではありません。顔を見れば、そこには基本的な性格や行動スタイルなど相手に関するさまざまな傾向が反映されています。「この人はこういうタイプ」だとわかれば、人種・国籍を問わず相手に合わせたコミュニケーションをすることが可能になります。すると相手も自分のことをわかってもらえるという安心感を持ち、コミュニケーションに寛容性が生まれます。

どういうタイプなのかを理解したうえで、相手に合わせて対応していくコミュニケーション方法は、外国人がよくやる丁々発止のやりとりをすることに慣れていない日本人にとって、ぴったりではないでしょうか。

控えめでおとなしい日本人に合った、コミュニケーション方法の一つとして、とても有効なツールとなるでしょう。私が相貌心理学を勧める理由は、そこにもあります。

大切なことは、その結果を「いい悪い」で判断するのではなく、どう理解するか。判断と理解はまったく異なるものなのです。

加えて言うと、顔は常に変化するもの。顔は内面を映し出す鏡で、その人の感じ方が変われば、顔も変わっていくというのが相貌心理学の根底にある定義です。ですので、顔の変化を読み取るということは、本人さえも気がついていない内面の変化への理解と言えるのです。

この理解は、もちろん、自己分析にも使うことができます。

顔の変化を通じてモチベーションや心の動向を知ることで、日常生活における体調管理のように心の自己管理として使うことができますし、新たな人生を切り開く大きな決断や選択をする際に活かすこともできます。

(中略)

■これからの時代に必要不可欠な学問

テクノロジーの進化により、これからの時代、リモートワークやテレワークが一般化することは間違いありません。あるいは遠隔医療の普及も待ったなしです。こうした分野でも相貌心理学を活用できます。

これらのシステムでは、離れた相手とパソコンやスマホの画面を通じて、コミュニケーションをしていきます。言葉のやりとりはできますが、対面ではないので、相手の息遣いや細かい表情を見ることが難しくなり、威勢のいい人のアイデアが通ったり口下手の人が不利益を被ったりすることも、リアルの場以上に起こるかもしれません。意見の集約や意思決定、病状把握に時間がかかってしまうことも「ない」わけではないでしょう。

ここで重要視すべきなのが、顔。

面識がない人や初めての患者さんとコミュニケーションしなければならないときでも、顔はハッキリ見えます。相手のことをあまり知らなくても、画面に映る相手の顔を見てそこに表れている情報を分析していけば、「この人は本音を言わない人だな」「選択の欲求が強いな」「環境への順応性が高いな」と判断できます。

対面はもちろん、離れた場所でのコミュニケーションにも大いに活用できることになります。時代や技術の変化が、相貌心理学普及の有用性を示唆してくれています。

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佐藤 ブゾン 貴子(さとう・ぶぞん・たかこ)
1975年生まれ。2004年、アパレルの勉強のためにフランスに渡り、現地で相貌心理学に出会い、傾倒。学会長に師事し、5年の研修課程を経たのち、世界で15人、日本人では初となる相貌心理学教授資格を取得する。帰国後は、1億人以上の顔分析に基づく相貌心理学を広めるために、個人セッション、セミナー、講演、マッチングなどを行う。『人は顔を見れば99%わかる―フランス発・相貌心理学入門』が初の著書になる
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(佐藤 ブゾン 貴子 写真=iStock.com イラスト=森 海里)