by Henry T. McLin

「鳥の歌は何百年にもわたって伝承されている」ことが分かっていますが、最新の研究により北米大陸の端で生まれた新しい歌が北米大陸のもう一端に伝わり、半世紀以上にわたり歌い継がれてきた伝統的な歌に変化をもたらしていたことが判明しました。

Continent-wide Shifts in Song Dialects of White-Throated Sparrows: Current Biology

https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(20)30771-5

Driven by female taste, bird song remix spreads across North America

https://www.inverse.com/science/canadian-bird-song-is-evolving-study

カナダのノーザン・ブリティッシュ・コロンビア大学の生物学者であるケン・オッター氏は、カナダに引っ越した際に北米大陸に生息する鳥であるノドジロシトドのオスが、普通とは異なる歌を歌っていることに気付きました。

以下のムービーを再生すると、通常のノドジロシトドの歌と、オッター氏が聞いた新しい歌を聞き比べることができます。

Two white-throated sparrow songs - YouTube

鳴き声の終わりに注意して聞くと、普通のノドジロシトドの歌は3つの音で終わっているのがなんとなく分かりますが……



オッター氏が引っ越し先で聞いたノドジロシトドの歌は、2つの音で終わっていました。



そこで、オッター氏は独自にカナダ中のノドジロシトドの歌声を録音する調査を開始。また、オッター氏のもとには、愛好家らが研究に役立てて欲しいと提供した音声も集まり、最終的にオッター氏は合計1785羽のノドジロシトドの音声を収集することに成功しました。

そして、ノドジロシトドの歌が録音された場所と年代をもとに歌の広がり方を調べた結果、2000年ごろにカナダ西部で生まれた「2つの音で終わる歌」が、2019年までにカナダ東部のケベック州に到達し、直線距離にして実に3300キロメートルにわたって広がっていたことが分かりました。

以下の図のうち、青色の円は「2音で終わる歌」で、赤色の円は「3音で終わる歌」です。1950年代から2000年までの間に収録されたノドジロシトドの歌は、カナダ西部のブリティッシュコロンビア州北部のものを除き、全て「3音で終わる歌」でした。



2000年前後に生まれたと見られる「2音で終わる歌」は、その後2004年にかけて徐々に東の方に伝わり始めます。このころ、ブリティッシュコロンビア州の東隣にあるアルバータ州でサンプリングされた歌のうち、ほぼ半分が「2音で終わる歌」でした。



さらに、2000年代後半に入ると、「2音で終わる歌」はカナダ中部でも歌われるようになりました。



そして、2010年代には、「2音で終わる歌」がカナダの西半分を席巻し、この地域で完全に定着しました。



2015年には、アメリカ五大湖の北隣にあるオンタリオ州中部から西の歌はすべて「2音で終わる歌」になりました。そして、2019年にはカナダのほぼ東端に位置するケベック州でも「2音で終わる歌」が歌われるようになりました。



「2音で終わる歌」がカナダ西部から東部を横断して広がったことについてオッター氏は、「知られる限りでは、既知のどの種の鳥にも前例がない歌の伝わり方です」と述べました。

歌がこれほどまで広い範囲に伝わった理由を確かめるため、オッター氏らの研究チームはノドジロシトドに小型の発信機を付けて、ノドジロシトドがどのように移動するかを調査しました。



by Ken A. Otter

その結果、カナダに生息するノドジロシトドは、冬の間にカナダとアメリカの国境を南下して、アメリカ南部に位置するオクラホマ州やテキサス州などで越冬していることが分かりました。

オッター氏は「ノドジロシトドは越冬地で歌を歌うことが分かっています。そのため、若いオスが他の地方のオスと同じ地域で越冬し、その間に新しい歌を覚えてから故郷に帰っている可能性があります」と述べました。

また、過去の研究により、鳥類の中には「メスが古い歌には反応しなくなる」という性質を持つ種があることも判明しています。

このことからオッター氏は「ノドジロシトドのメスが、それまであまり聞いたことがない歌を好むとしたら、新しい歌を歌うことができるオスは大変有利なことでしょう」と話して、北米のノドジロシトドの間で新しい歌が広がった背景には、メスの歌の好みが関係していることを示唆しました。