NYでもすっかりマスクが当たり前に。新型コロナの感染拡大は続いているが、「株価はあまり下がらない」かもしれない(写真:AP/アフロ)

いきなりではあるが、結論から述べよう。「長期的に株価上昇基調を見込む」という筆者の考え方は、変わっていない。

アメリカを中心に主要国でデータの改善が進む

以前のコラムと同様、今年末の日経平均株価は2万4000円辺りまでの上昇を予想する。ただしこの株価水準は、来年も続く株価上昇基調の通過点だと考える。

来年には、近年の高値で平成バブル崩壊後の最高値でもある2018年10月の2万4270円(終値ベースの高値)を上抜けるだろう。そうした上昇基調の過程のどこに今年末が来るか、というタイミングによって、年末の日経平均の位置がずれるだけであり、「年末2万4000円」という数値自体にはあまり意味がないだろう(今年の大納会で株式投資を全部やめないといけない、という事情でもあれば別だが)。

経済データの改善は、主要国で進んでいる。特にアメリカでは、月次データで4月が最悪、5月以降持ち直し、という展開は、雇用統計(雇用者数並びに失業率)、自動車販売台数、小売売上高などに表れている。5月の持ち直しは極めて小幅だったが、同様の推移は住宅着工件数や鉱工業生産にもみられる。

一方、日本の場合は、5月までの主要な経済指標が公表されており、4月より5月が悪化しているものが多い。雇用関連では、失業率も有効求人倍率も5月の方が悪化しており、鉱工業生産も5月は前月比で減少した。アメリカよりも景気の持ち直しはやや遅れている感がある。

しかし、そうした日本の家計や企業の心理にも、ほのかだが明るさは見える。家計の心理を測る消費者態度指数は、単身者を除く世帯で、4月を最悪期として、5月、6月と持ち直している。

また企業心理についても、日銀短観の業況判断DIは、大企業の製造業、非製造業とも、「最近」のDIが3月調査から6月調査にかけて大幅に悪化したものの、「先行き」は小幅持ち直す形となっている。企業の先行きの見込み通りに事態が進展するかどうかは不透明だが、将来に明るさが全く見えないという数値ではない。

もちろん、主要国の景気回復の形は、V字型ではまったくない。急速に落ち込んだ後の持ち直し速度は、今のところ極めて緩やかで、経済動向がかなり明るくなるまでの道のりは、長期戦だ。

このように、長期的には経済や株価の動向に楽観しているが、しばらく市場における世界景気の先行きについて、市場参加者の展望は、好悪両方の見解が綱引きする形になるだろう。

前述の通り、足元の主要国の経済指標には、改善傾向がみられる。このため、景気の先行きを一方的に悲観視し、株式を売り込むことはためらわれる。

第2波が来ても経済への影響は小さいものに?

とは言え、新型コロナウイルスの流行「第2波」の懸念は根強い。足元では、アメリカのテキサス、フロリダ、カリフォルニアといった大きな州で感染者数が増えており、経済活動再開を逆回転させる動きも生じている。

日本でも、東京都で感染者数の増加がみられる。ただし東京の場合、PCR(Polymerase Chain Reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)検査数を増やしているため、これまで若年層で感染しているが症状がない人たちが検査を受けていなかったが、そうした人々が陽性者として数えられ始めているからだ、との説もある。それでも、再度経済活動が抑制されるのではないか、との懸念は払拭し切れない。

筆者は医師でも感染症の専門家でもないので、第2波が疫学的な見地でどの程度になるか、ここで語るような見識はない。それでも経済動向という点では、仮に第2波の感染者数や死者数の増加が第1波並みになっても、経済や市場への悪影響は、第1波よりかなり小さいのではないだろうか。

というのは、家計も企業も第1波の経験がある。どういう行動をとればよいか、肌でわかっているため、第1波の時のような大きな混乱にはならないだろう。企業も、リモートワークを既に進めているところも多い。外食産業では店舗内で食事を供することが再度難しくなればテイクアウトやデリバリーをまた大いにやろう、となるだろうし、イベント関連でもオンラインライブや無観客試合で収益を得ようとの体制も、無から立ち上げるよりは容易だ。

証券市場でも、第1波の際は、投資家が先行きを見通すことが全くできず、パニック的な株安やボラティリティ指標(たとえばVIX指数)の急上昇、安全資産だとみなされているアメリカの長期債や金などの価格の一時的な下振れなど、混乱を示す様相が極めて強まった。そうしたパニック的な部分を含めての、3月後半の主要国の株安であり、第1波と第2波の流行の度合いが仮に同程度でも、株価が底抜けるとは見込みがたい。

このため、やはり長期的には景気の明るい動向が徐々に勝っていくと予想するが、ただ、今すぐそれを信じることは、大多数の投資家にとって難しいだろう。このため、当面の株価動向に限れば、足元の堅調な経済指標と、第2波に対する懸念とが、綱引きすることで、主要国の株価は動意が乏しい展開に陥ると懸念している。

強気一辺倒も、極端な弱気も「木っ端微塵」に

市場心理や、それに基づいたグローバルな投資家の売買動向を眺めても、株価はしばらく保ち合いで、筆者が予想するような上昇基調がはっきり見えてくるまでは、少し時間がかかりそうだ。日経平均については、最近のザラ場高値は6月9日(火)の2万3185円で、ザラ場安値は6月15日(月)の2万1529円だった。この2つの中間点が2万2357円で、最近はその辺りで日経平均の膠着感が強まっている。当面は、この水準から大きく上にも下にも離れにくいのではないだろうか。

それを、前述のような景況感ではなく、市場心理とそれに基づく投資家の売買行動で考えると、今年2月初辺りまでは、強気一辺倒だったように感じられた。

たとえば「アメリカの株価は、ドナルド・トランプ大統領が再選に向けて株価を持ち上げ続けるから、下がるはずがない」「連銀が隠れQE4(量的緩和第4弾)で、金余りになっており、そのアメリカの資金が世界の株式市場に流入する」といったような、株高を正当化するような主張が多く聞かれた。

その主張は、その後3月末にかけての株安で粉砕された。そうした株価の下落は、強気だった投資家の投げ売りで、急速なものとなった。すると今度は、投資家の多くが、「コロナ禍という、想定外の出来事が起こった、世界経済はもうおしまいだ、株価は下がり続けるに違いない」との弱気一辺倒に転じた。そうした極端な弱気は、次は3月後半から6月初めまでの株高で、また「木っ端微塵」となった。売り方は、買い戻しを余儀なくされ、株高は大幅になった。

現在は、そうした買い方の投げ売りや、売り方の買い戻しが一巡し、投資家の見解はどちらにも大きく傾いていないように思われる。その点からも、当面の内外の株式市況は、動意に乏しい状況が続くように考えている。

このような、当面は市況が上にも下にも大きくは動かない、という見通しを述べると、「馬渕さんの今の予想は、つまらないですね」とよく言われる。

しかし筆者は、投資家を面白がらせるために予想を作成しているわけではなく、投資家を買いに走らせたり売りに向かわせたりしたいわけでもない。株価が上がると思えば上がると予想し、下がると考えれば下がるとの見通しを述べ、あまり動かないと見込めばそう語るに過ぎない。

中国の動きは深刻だが大きな悪材料にはなりにくそう

以上の見通しを述べたうえで、今世界中の懸念を呼んでいるのは、6月30日(火)に、中国で国家安全法が施行されたことだろう。なにしろ、いきなり香港内で多数の逮捕者が出る事態となっている。

こうした中国の動きは、特に香港にいる人々の人権を脅かす事態だと言えるうえ、同法は香港行政区以外に住む香港市民以外の人々も対象にしている、との指摘も聞かれる。つまり、同法は、中国国内法を他国にも押し付けようとしているように見える。

これに対し、アメリカ側からの圧力が強まるとの観測があり、実際トランプ政権や議会は、中国要人の訪米ビザの発給停止など、様々な報復策を打ち出しつつある。ただし経済という観点に限れば、アメリカが対中輸出や対中輸入を大幅に制限する、あるいは関税の引き上げを大幅に行なう、ということでなければ、世界経済への影響は出にくく、株価も大きくは下振れしないだろう。

トランプ政権は、これまでのアメリカの中国に対する圧力策が奏功し、通商合意を得られた、と主張して、それが同政権の手柄だと吹聴してきた。香港問題への報復で、通商合意を放棄し貿易面で対中圧力を加えることは、その「手柄」を自ら捨て去ることになる。その点では、トランプ政権も及び腰の面が否めない。

こうした同政権の弱腰は、中国の覇権主義に本格的なブレーキをかけにくい、という点では極めて懸念される。だが株価動向という点では、ある意味悲しいことだとも言えるが、大きな悪材料にはなりにくいのだろう。