日産は、電動パワートレイン「e-POWER」を搭載した新型SUV「キックス」を6月末に日本で発売した(写真:日産自動車

業績不振に苦しむ日産自動車が、国内でのブランド再建に向け、試金石となる新型車を投入した。6月30日に国内販売が開始されたコンパクトSUV(スポーツ用多目的車)の「キックス」は、5月下旬に新たな中期経営計画「NISSAN NEXT」を発表した後、初の新型車となる。日産は今後も新型車を矢継ぎ早に投入して反転攻勢のアクセルを踏む考えだ。

新型車乏しく株主からは厳しい声

「これまでモデルチェンジしていないから、そのひずみが出ている。ディーラーの人は『売れる車がないんですよね』と言っている。恥ずかしくないのか」。6月29日に開かれた日産の定時株主総会で、ある株主が国内での新車投入の乏しさを痛烈に批判する場面があった。

この株主が言うように、日産は新型車の投入が少なく、モデルチェンジから長期間経過した「高齢車」が多い。軽自動車では2019年から2年連続で新型車を投入したものの、主力の登録車(排気量660CCを超える車)では、2017年10月発売の電気自動車(EV)「リーフ」以降、フルモデルチェンジ(全面改良)の車がない。完全な新型車に至っては、今回発売したキックスが2010年12月発売の初代「リーフ」以来、10年ぶりになる。

日産は2010年代前半以降、カルロス・ゴーン社長(当時)の指揮下で新興国での生産拡大に邁進。インドネシアやブラジル、インドなどに次々と新工場を建設していく一方で、新車開発に振り向けられる投資は絞られた。モデルの経年に伴い、デザインや性能が最先端のトレンドから取り残されていって商品力が落ちたことが、近年の販売不振につながった。

それが顕著に表れているのが国内市場だ。2014年にセダン「スカイライン」など2車種が全面改良されてから、新型車が出る頻度が極端に減った。2015年と2018年はフルモデルチェンジが軽自動車も含めて1車種もないありさまだった。販売台数の大きな成長が見込めない国内市場は半ば見捨てられ、「新モデルの投入に空白期間が生まれ、ホームマーケットの顧客の期待に沿えない結果となった」(内田誠社長)。


過去の「国内軽視」の経営方針は、販売台数の推移から読み取れる。値引きを軸に販売を拡大していったアメリカや、マーケットの急成長の恩恵も受けて台数を増やした中国などが貢献し、世界販売台数は2017年度まで右肩上がりで増加。その一方で、国内の販売台数は直近のピークだった2013年度の72万台から2019年度には53万台まで減少、世界販売に占める割合も14%超から10%前後まで低落していった。

日産は国内を軽視してきた過去の経営方針を反省し、国内の再強化に舵を切ろうとしている。内田社長は株主総会で、「日産のホームマーケットは日本だ。日本市場で日産のプレゼンスを高めることが何より重要なことだ」と決意を示した。


株主総会で発言する日産の内田誠社長(写真:日産自動車)

「電動化技術と先進運転支援技術のリーダーとして、国内市場を牽引していく」(星野朝子副社長)というように、日産は両技術の展開を国内復活への主軸に据える。電動化の点では2023年度までに、エンジンで発電してモーター駆動する独自のハイブリッドシステム「e-POWER(イーパワー)」6車種とEV3車種を含む計12車種の新型車を投入し、電動化比率を2023年度までに60%(2019年度は25%)まで高める計画だ。

キックスは2016年に発売したブラジルを皮切りに、中国や北米などでも販売している世界戦略車だが、海外では日本向け車両を生産・輸出するタイを除き、エンジン車のみでの品ぞろえだ。国内ですでにe-POWER搭載モデルをそろえるコンパクトカー「ノート」とミニバン「セレナ」も、ガソリン車との併売だ。

e-POWER専用車にこだわった理由

一方で、国内で販売されるキックスは、e-POWER専用車としたのが特徴だ。日産の国内販売が全体的には不振が続く中でも、2019年の登録車販売台数ランキングでノートが2位、セレナが6位に入るなど順調な販売実績を上げており、e-POWER専用としたほうが販売を伸ばせると判断したとみられる。


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キックスが属するコンパクトSUVはもともと、日産が2010年に発売した「ジューク」で切り開いたセグメントだ。ジュークは斬新なデザインで人気を博したが、トヨタ自動車の「C-HR」やホンダの「ヴェゼル」など競合が相次いで参入。ライバル車がモデル別販売ランキングの上位に名を連ねたのに対し、フルモデルチェンジをしないジュークは徐々に顧客を奪われ、2019年12月にひっそりと国内生産を終えた。

【2020年7月6日18時00分追記】初出時、ホンダ「ヴェゼル」の表記が誤っていました。お詫びして訂正いたします。

キックスはそのジュークの事実上の後継モデルで、国内でも人気のコンパクトSUV市場で日産が再び存在感を取り戻すという重要な使命を負っている。価格は275万9900円からという設定だ。

日産のSUVラインナップはジュークの国内販売が終了して以降、中型SUVの「エクストレイル」のみ。強みとする先進技術を前面に出して上手に訴求していけば、主力車に育つ素地は十分にある。

本格的な販売回復には要時間

ただ、国内の市場環境は新型コロナウイルスの影響で過去に前例がないほど悪化している。4月に緊急事態宣言が発令された後、外出自粛の動きが広がり、新車販売店への客足は遠のいた。日産の4月の国内販売は前年同月比39.2%減、5月は同44.9%減と激減。トヨタ(4月20.1%減、5月33.4%減)、ホンダ(4月19.5%減、5月45.1%減)と比べても影響は大きい。

6月には同21.3%減と改善したものの、以前から販売不振に陥っていたことを考えると、新型コロナが与えるインパクトは他メーカーと比べて深刻だ。キックスも新型コロナによって市場環境が不透明なことを理由に、販売台数目標を示せていない。

「国内販売は急速に戻ってきており、これが続けばもともと計画していた需要に戻ると期待している」(星野副社長)と言うが、コロナ第2波が襲来して自動車需要が再び底に向かう懸念もある。


今冬にもEVの新型SUV「アリア」を発売する。写真は2019年秋の東京モーターショーで公開された「ニッサン アリア コンセプト」(写真:大澤 誠)

7月にはEVの新型SUV「アリア」を発表し、今冬にも発売するほか、ノートやエクストレイルなど主力車の次期モデル投入が控える。矢継ぎ早の新車投入で攻勢をかけるが、2018年の完成車検査不正に始まり、ゴーン氏の逮捕、巨額の赤字計上などが続き、国内でのブランドは失墜している。

一度毀損したブランドを立て直すのは長い時間を要する。複数の新型車を出したところで販売がV字回復することは容易ではない。日産の本格的な再建に向けては、商品力を高めながら長い目線で着実に売っていくしか道はない。