高年収と地位を得てきた自信たっぷりの中年男性。自分の老いに気づかず「ありのままの自分」で婚活に挑みますが……(写真:mits/PIXTA)

結婚相談所の経営者として婚活現場の第一線に立つ筆者が、急激に変わっている日本の婚活事情について解説する本連載。今回の“主役”は、仕事に邁進し、高年収と地位を得てきた自信たっぷりの中年男性。ありのままの自分で勝負しようとしますが、婚活はそんなに甘くありません。仕事はできても恋愛経験値は20代のまま。そんな男性が陥ってしまった悲劇とは──。

気分は20代、自分の老いを自覚していない

一流企業に勤める40代男性Aさんは、20〜30代は海外赴任で世界を飛び回り、ようやく転勤が終わって東京本社に戻ったタイミングで結婚を考え始めました。「今の年収は2000万円。結婚して奥さんが支えてくれたら、1億円にも手が届く」と語っていました。


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職場ではそれなりの役職についていて、「いい上司」として認められています。ところが、私生活では未婚のまま、ほぼ2〜3年ごとに転勤を繰り返してきたため、恋愛をろくにしていません。お付き合いをしたとしても短期間で破局。女性とじっくり向き合った経験に乏しく、恋愛における感覚は20代のように感じました。

こうした男性はAさんに限らず意外と多いんです。このタイプの男性のほとんどは、感覚が20代なだけに自分の老いに気がついていません。実際は40代半ばのおじさんですから、お腹は出てるし、髪も白くなったり薄くなったりしています。

そういう人への婚活アドバイスは、まず、若い男性の写真をたくさん見せて、「この男の子たちは若くてきれいですよね。この子たちと同じ土俵で戦わなければならないんです」「肌だってこんなに違うし、スタイルもこんなに違う。だから若い子以上に努力が必要になります」というような話をします。

Aさんにもそう説得しましたが、最初は「これまで頑張ってきたのに何を頑張るんだ。年収も高いし、貯金だって8000万円もあるんだ」と憤慨していました。

「そりゃ仕事は頑張ったでしょうね。だから結果が出ているし、年収にも表れている。でも結婚するためには何をしてきましたか。恋愛もしてませんし、女性がどんな生き方をして、どんな考え方をしているか知らないですよね?」と説いてレッスンを始めました。ここまで来るのに1〜2カ月かかりました。

レッスンでは、それぞれの会員に合わせて髪型やファッション、礼儀作法を“婚活向き”に変えていきます。実際にスタイリストが同行して買い物にも行きます。エスコートも特訓します。

女性がヒールを履いているのに1人でどんどん歩いて行ってしまう、エスカレーターがあるのに階段を勢いよく下りてしまう、寒い季節に何キロも歩かせる⋯⋯事前に想定されるNG事項は細かくお伝えしています。

Aさんはずっと「エリートの自分がなぜ女性に媚びなければいけないんだ」という意識が強かったのですが、「結婚するには、自分を変える必要性を理解しないと。変わろうとしない人は縁遠くなるばかりですよ」と説得しながら進めていきました。

焼肉屋から3流シティホテルへ

若い女性を希望していたので、20代女性とマッチング。女性は「こんなに高学歴で素晴らしい人、うれしいです」と大喜びしてデートを重ね、いよいよプロポーズというところまで進みました。

当日、Aさんを呼んで「今日はプロポーズだよ。きちんとした場所をセッティングして、お花を持ってね」と散々念を押しました。Aさんは「わかりました」と返事をしていましたが⋯⋯残念ながらまったくわかっていませんでした。

その日、Aさんが連れて行ったお店は焼肉屋さん。一応、都心の高めのお店だったそうですが、若い女性と膝を突き合わせるという状況に気持ちが高ぶってしまったのでしょうか。それとも、プロポーズを前に緊張をほぐそうとしたのでしょうか。お酒を何杯も飲み、ベロベロに酔ってしまいました。プロポーズをリードすべき立場としてありえない大失態です。

しかし、Aさんの過ちはそれだけではありません。あろうことか予定していたプロポーズの場に行かず、お花も買わず、手を引っ張って3流のシティホテルに連れて行ってしまったそうなんです。

翌朝6時、女性から大泣きしながら私のもとへ電話がかかってきました。「プロポーズしてくれるって言っていたじゃないですか」と。私はてっきりうまくいったものと思っていましたから驚きました。あれだけ念を押したのに、プロポーズをせずにホテルに連れ込むなんて、断じてあってはならないこと。

女性は「こんないい条件の男性に捨てられたくない」という思いで我慢してついて行ってしまったそうですが、相手は酔っ払ったずっと年上の男性。いつものエリートビジネスマンの印象は崩壊し、ひどくショックを受けたそうです。成婚前の性交渉は契約違反。2人とも「成婚料」(性交渉をした時点で成婚とみなす)を払って退会となります。

Aさんは一晩ですべてを壊してしまった自分を心の底から後悔していました。そして、女性分の成婚料も負担したうえで、「私が失礼なことをしたために彼女の人生をふいにしてしまうのは申し訳ない。彼女は退会させずに、ほかのいい男性と結婚してほしい」と彼女の活動金の支払いを申し出ました。

しかし、女性のショックは相当なもので、活動をひとまず休むことに。彼女も彼女で「結婚はお金さえあればいいと思っていたけど、そうではないことに気づいた。頭を冷やします」と、思うところがあったようでした。

ファッション、鼻毛、ニオイ、解決するのは簡単

Aさんは自分を過信していました。仕事で成功しているのだから、婚活でもありのままの自分で勝てると思いこんでいました。だから、女性の好みに合わせて髪型やファッション、ふるまいを変えることに対して「媚びたくない」と言い放っていましたが、それは「媚び」ではありません。スタートラインにつくために最低限しなければならないことです。

外見だけの問題ではありません。相手に合わせることを拒否する人は、お見合いに行っても会話のキャッチボールができないので嫌われる。こうして何年も結婚できずに婚活し続けている人は少なくありません。

一方、女性側にはよく「頭髪が薄いとか太っているとか、パッと見の印象ばかり見ないで、男性の仕事や経済力、人間力などをきちんと見て判断しなさい」と口を酸っぱくして伝えています。男性が「女性に合わせてもいいよ」という気持ちになりさえすれば、外見はどうにでも変われるのです。

エリート男性は、お金はあるのだから、うまい具合にのせて一緒に買い物に行き、上から下までセットで買えばいい。弊社内にも美容室があるので、目の前でカットしてもらえばいいのです。そして、1000円程度の鼻毛カッターをプレゼントすれば完璧(笑い事ではなく、鼻毛が出ている男性は非常に多いんです)。こうして互いに歩み寄れば、外見問題の6〜7割は解消できます。

もう1つ、忘れてはいけないのがニオイ。自分のニオイに無頓着な男性は多く、お見合いでも女性から「くさい」というクレームは頻繁にあります。

加齢臭だけでなく、ゴミの日まで部屋に溜めている生ゴミのニオイがしみ込んでしまっているのかもしれません。ただ、ニオイも解決するのは簡単。デートのときにおうちに行って掃除してあげればいいんです。これで消えます。

ほかの相談所で2、3年婚活を続けても成果が出ず、最後の砦として弊社に来て、それでも「自分は変わりたくない、変えたくない」という男性はたくさんいますが、説得してレッスンを受けたら別人のようになります。

一方、女性でも「先生」と呼ばれる立場の人や役職が付いている人は、やはり「自分は仕事だけでなく婚活も勝てるはず」という意識から抜け出せないのか、ものすごく上から目線のことが多いですね。決まって相手の希望年収は「1000万円以上」と書きます。本人も相当ありますから、そこは譲れないようです。そして、自分の理想に叶う男性を探し続けますが、自分自身は決して変わろうとしません。

「転勤」「公立出身」「離婚親」すべてNG

自分の父が経営する会社の事務をしている30代女性Bさん。彼女の場合は、親世代から受け継いだ時代錯誤な偏見とこだわりにとらわれていました。一家でエリート意識が強く、「上から目線」なところがありました。

例えば、「相手の親が離婚している場合は絶対にダメ」「出身学校が公立はダメ」と言う。「なぜ?」と聞くと、今どき聞かない差別用語を平気で口にする。

さらに「ブラック企業に勤めている人はダメ」「転勤がある人はダメ」「地方に住みたくない(Bさん一家は東京在住)」「結婚したら15分以内にママ(自分の母親)に会える距離に住みたい」「38歳以上はダメ」という条件がありました。

Bさんは堅実な都内在住の公務員と、年収1000万円でマンションを1棟持っている御曹司の2人とお見合いし交際に進みましたが、公務員に対しては「転勤がないのはいいけど、彼の両親は離婚しているからダメ」と言う。自分の母親に相談しても、やはり「そんなの論外」とキッパリはねられたそうです。

御曹司は経済的にも素晴らしい好条件。こちらならいいのではないかというと、やはりマンション1棟所有には魅力を感じているようですが、「太っているから嫌」と言う。太っているのはダイエットすればどうにでもなるのに⋯⋯。

Bさんのように親が昔の価値観であれこれ口を出すケースも多いのですが、婚活においてははっきり言って困りもの。過去の価値観は婚活の足を引っ張ることもあります。今の社会には当然不適合な考え方もあるわけです。そういった価値観に変わるように導いていきますが、成婚まではまだ遠そうです。