三菱スペースジェット飛行試験機・10号機(画像: 三菱航空機の発表資料より)

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 三菱スペースジェット(MSJ)の開発を進めている三菱航空機は、20年3月期で最終赤字が過去最大となる5269億円を計上し、18年3月期以来の債務超過へ転落したことが公表された。MSJの開発を終えて受注契約先への納入を済ませないことには、売上を計上できない三菱航空機にとって、遅れに遅れるMSJの開発で時間を空費していること自体が赤字拡大の元である。

【前回は】三菱スペースジェット納入問題! (2) 型式証明を取っても、量産能力はあるのか?

 そんな窮状に追い込まれている三菱航空機は5月以降、真逆とも受け取れる方向へと経営方針の転換を進めている。

 まず、MSJの開発指揮者の交代だ。16年にカナダのボンバルディアから転身して、最高開発責任者(CDO)としてはまだ2年程のアレックス・ベラミー氏が6月末で退任し、7月1日に川口泰彦氏がチーフ・エンジニアに就き、CDOは当面空席となる。

 組織としては4月に就任した丹羽高興(にわ・たかおき)社長の陣頭指揮の下で、担当役員が補佐することになるが、川口氏は米飛行試験拠点「モーゼスレイク・フライトテスト・センター(MFC)」の副センター長として型式証明取得へ向けた実務経験と、三菱重工時代にはF15戦闘機等の近代化に携わった経験を持つ。

 続いては国内で1600人、国内外を含めると2000人の三菱航空機従業員を、三菱重工業の事業部門などへの配置転換によって段階的に削減し、半減を目指すという計画だ。北米の3拠点のうち、ワシントン州モーゼスレイク試験飛行拠点は存続させるものの、ワシントン州レントンの米国本社と設計機能を持つカナダ・ケベック州の事務所との2拠点は、閉鎖して数百人規模の人員を削減する。条件が折り合えば日本への配置転換もあり得るようだ。

 型式証明の取得を促進するために採用された、経験豊富な「グローバルエキスパート」と呼ばれる外国人技術者は総勢300名ほどに膨らんでいたが、今回の改変に合わせて100人程度の陣容へと縮小する。全社では半減させる人員計画の中で、グローバルエキスパートは削減幅を3分の2に拡大する。1日当りの給与が10万円を超える存在が珍しくない、型式認証を取得するために集められた軍団で、現場では「肩で風を切って歩いている」と揶揄された外国人技術者にも変革の波は及ぶ。

 外国人技術者は納入延期を繰り返すたびに増加し、目に見えて増え始めたのは16年の秋以降だが、その背景には三菱重工の意向が強く働いていた。三菱重工では過去に大型客船の建造が遅れて巨額の損失を出した際に、客船建造の経験豊富な技術者を欧州から大量に採用して、無事完成へとこぎ着けた成功体験がある。

後に大型客船建造の顛末を振り返った三菱重工の首脳は、「大型客船をつくるノウハウを熟知していなかった」と総括した。同様に「航空機製造に不足していた知見」を補うために、外国人技術者を大量に雇用して、遅れていた開発を少しでも早めようとした目論見に、目途が付いたのだろうか?

 人員を削減し、拠点を縮小する判断を行うに至った決定的な背景は、三菱重工が今年度のMSJの開発費を600億円程度と設定し、対前年比半減となるほどの圧縮を行ったことに起因する。

 新型コロナウイルスの影響から世界経済が解放されるまで、経営資源を効果的に配分してより効率的に開発を継続しようとする今回の三菱航空機の方針は、現時点で取り得る数少ない選択肢の1つということになるのだろう。