久保建英マジョルカ)の市場価値は1350万ユーロ(約16億円)であるという数字をスペインのメディアが算出している。

 しかし、その値打ちはほぼ毎日のように上昇上しており、今やその3倍は下らないという。同じレアル・マドリードの保有選手であるダニ・セバージョス(アーセナル)の3200万ユーロ(約38億円)、マルティン・ウーデゴール(レアル・ソシエダ)の4500万ユーロ(約54億円)に匹敵。実際、ミラン、パリ・サンジェルマンは相当な大金を用意したと言われている。


セルタ戦に先発、2アシストなどマジョルカの大勝に貢献した久保建英

 もっとも、レアル・マドリードは放出するつもりは毛頭ない。期限付き移籍についても、よほどのことがない限り、スペイン国外に出さないだろう。リーガで活躍するには、リーガで経験を積むのが手っ取り早く、異国に差し出してコンディションを崩されては元も子もない。来季は、やはりレアル・ソシエダが有力と言われているが……。

 その成長曲線は異例で、数週間後にどうなっているのか、誰にもわからない。セルタ戦で久保はその真価を示した。

 6月30日、リーガ・エスパニョーラ第33節。18位のマジョルカは残留を争う17位のセルタと直接対決を演じている。負ければ残留が絶望的になるという一戦だ。

 久保は4−4−2の右サイドで先発。心理的にストレスのかかる試合のはずだが、プレーは落ち着き払っていた。

 6分、GKマノロ・レイナのロングキックをアンテ・ブディミルが落としたボールを収め、運びながら、相手を引きつけ、前を走るブディミルに当て、一度サイドに預けられたボールを再び受ける。そこで状況を見ながら、ターンしてプレスを回避。左サイドにフリーで入ってきた選手に展開した。結局、このプレーが先制点となるPKにつながった。

 久保のプレーは得点に対して直接的ではなく、何気なく見えたかもしれない。しかし、ボールを預け、受け、預けるという連続性が迅速かつ的確で、”攻撃の渦”を作っていた。時間的、空間的に優位な味方へのパス。それが、次のプレーにアドバンテージを与えていたのだ。

 その後の4得点も、すべて久保が渦を作っていた。

 26分、久保は左サイドに回ってボールを後方から受ける。一瞬の判断で、前でボックス内に入ろうとしていたクチョ・エルナンデスの動きに合わせ、右足に滑るようなボールを入れた。無駄な動きがないシュートを導き出すことで、ゴールを演出したのだ。

 39分、久保は右サイドで幅を取ってボールを受ける。ドリブルで仕掛けるそぶりを見せながら相手を引きつけ、インサイドにフリーで入ったアレハンドロ・ポゾに左足でパス。シュートポジションを楽に取れたポゾの左足ゴールを生み出した。

 51分、久保は右サイドでボールを受けると、前のブディミルに付け、それを再び受ける。そして、中央でフリーだったサルバ・セビージャの足元にぴたりとつける。これが裏を抜けたブディミルへのパスにつながり、4点目になった。

 そして59分、久保は右サイドから中央にボールを運ぶ。ゴール正面で完全にフリーのサルバ・セビージャに素早くパス。まるでシュート練習のような状況で、ミドルを得意とするサルバ・セビージャは鮮やかな一撃を決めた。

「habil y eficaz」(技巧的で効率的)

 スペイン大手スポーツ紙『アス』はこの日の久保について、そんな表現を使っている。

 レアル・マドリードのジネディーヌ・ジダン監督は、久保をサイドアタッカーだけでなく、インサイドハーフ、サイドハーフとしても考えているという。現所属選手では、クロアチア代表ルカ・モドリッチに近いポジションか。攻守でチームを動かし、チャンスメイクする仕事だ。

 その点で、久保は適性を示した。見事にプレーの渦を作り出し、勝利につなげていた。戦術的にクレバーで、どの場所でもやるべきプレーを心得ているのだろう。前半、対峙する2人のディフェンスの間から打ったシュートのように、ゴール近くでも非凡なセンスを見せている。どんなチーム状況にも適応できるはずで、才能の底が見えないのだ。

 5−1という大勝に貢献したことによって、『アス』は久保に星3つ(0〜3の4段階)をつけた。潮目を変えるセービングがあったマノロ・レイナ、2得点のアンテ・ブディミル、主将のサルバ・セビージャも星3つだったが、久保がチームを引っ張っていた事実は歴然だろう。泰然としたプレーで効率を上げ、正念場でチームを勝たせた。

 17位セルタとの差は5に縮まった。今も劣勢は変わらない。しかし希望をつなぐことはできた。次節は7月3日、敵地で上位アトレティコ・マドリードと対決だ。

 試合ごとに成長する久保から、当分は目が離せない。