消費者庁は電力切り替えの営業に対して注意喚起のパンフレットを作っている(編集部撮影)

2016年の電力小売り自由化から4年が経過し、電力小売事業者の営業手法に対する当局の目が厳しくなっている。

消費者庁は6月17日、すべての小売電気事業者に対して法令等の順守について重点的に点検するよう要請を行った。17日の会見で伊藤明子消費者庁長官は「ここのところ高い頻度で(事業者を)処分しており、やや緩みがあるのではないかと懸念している」と述べた。

小売り自由化前は地域ごとに電力の購入先が決まっており、ユーザーは東京電力や関西電力などの旧一般電気事業者からしか買えなかった。だが、小売り自由化で各社がこぞって参入し、登録事業者(小売電気事業者)は今や655(2020年6月時点)に上る。2017年にはガス小売りも自由化し、ガスとのセット販売営業もさかんに展開されている。

増加の一途をたどる相談件数

こうして顧客争奪戦が激化したせいか国民生活センターなどに寄せられる電力営業に関する相談は年々増加の一途で、トラブルは絶えない。電話勧誘を断ったのに申込完了の書面が届いた、勧誘員が社名を名乗らずに営業をしてきたなど、相談される内容は多岐にわたる。

電力小売りの問題にも詳しいシティユーワ法律事務所の島田雄介弁護士によると、「(営業目的であることを告げず)『電気の点検に来ました』などと言って電力会社社員を装うケースもある」という。特定商取法の規定では、訪問販売や電話勧誘を行う場合、あらかじめ営業目的であることや営業担当者の氏名等を明らかにする必要がある。

だが、「ここのところ高い頻度で(事業者)処分している」と消費者庁長官が言ったように、それを守らない事業者がいる。

2019年は特定商取法違反で2社に行政処分が下り、あくびコミュニケーションズ(東京・渋谷区)は電話勧誘販売の一部業務停止(6カ月)、ファミリーエナジー(東京・中央区)は訪問販売と電話勧誘販売の一部業務停止(3カ月)となった。

2020年4月に行政処分を受けたイーエムアイ(電話勧誘販売の一部業務停止。9カ月)の事例では、電話営業の際に顧客に勧誘目的であることを告げず、「電力の自由化にともないまして、次回の検針日から基本料金が弊社にて20%お安くなるご連絡となりまして」と話を切り出していた。

その後、別の担当者が電話をかけ「わたくしどもの方で再度数点確認をいたしまして、ご料金お引き下げについてご案内させていただいておりますので」として契約切り替え手続きに必要な情報を得ていた。結局、この電話を受けた消費者は契約を締結したが、会社側は期中解約金や解約事務手数料などの支払い義務があることを告げていなかった。

「検針票」を安易に見せてはいけない

国民生活センターによれば、電力契約の変更手続きに必要な情報が詰まった「検針票」に狙いを定めるケースもあるという。

検針票は契約中の電力会社から契約者へ電気の使用量などについて通知するものだが、そこには「供給地点特定番号」や「お客様番号」といった電力契約に必要な情報が詰まっている。小売事業者が検針票の情報を聞き出し、消費者の十分な理解を得ないまま契約を切り替えたケースもある。

6月に寄せられたある相談事例では、消費者は契約中の大手電力会社からの電話だと認識したまま話が進んだ。手続きをしなくても割引が受けられると信じて検針票の情報を伝えた。ところが、届いた契約完了通知に別の電力会社名が書かれており、「契約の切り替え」だったことに気づいたという。


消費者庁は4点を注意喚起しているが、勧誘を受けた場合、電話ならば事業者名を必ず聞き、訪問営業の場合は名刺をもらって相手の身元を確認すべきだろう。また、契約変更を決めかねている状況で、極めて重要な個人情報が詰まっている「検針票」の情報を安易に教えたり、見せたりすることは避けたほうがよい。

実際、国民生活センターに寄せられた相談にはこんな事例がある。団地を訪問して契約変更を勧める営業担当者に住民は「団地全体で電力契約をしており、自分だけが勝手に契約先を変更することはできない」と断った。

だが、その営業担当者は「お隣の棟ではいくつか契約している」と言ってくる。そして、「電力料金の試算だけでもやってみませんか」と言われ、差し出した検針票の写真を撮影された。後日、料金の試算を持ってくるという話だったが音沙汰がないという。

トラブルの背景には多数の事業者が参入したことによる競争激化はもちろん、目には見えない「電気」という商材のわかりにくさもある。これまで契約していた電力会社から契約を切り替えても停電しやすくなるなど支障が生じるわけではなく、基本的に供給される電気も変わらない。

そのため、契約変更を促す側は、電気料金の”安さ”をアピールするだけでなく、ほかのサービスもセットにして売ることが多い。例えば、電気料金に応じて、買い物や飲食に使えるポイントが貯まるという特典をつける形もある。

安くするつもりが、むしろ割高に

国民生活センターなどへの相談件数が増加する一方、数字だけ見ると電力の契約先切り替えが徐々に浸透しつつある。電力・ガス取引監視等委員会によると2020年3月の新電力シェアは16.1%(販売電力量ベース)。とくに東京電力エリアは21.7%と最も高く、累積スイッチング件数は654万件におよぶ。

消費者庁長官が小売電気事業者の売り方に懸念を口にした前日の6月16日、りらいあコミュニケーションズ(東証1部上場)が、電力・ガスの営業で不適切な電話勧誘や電話勧誘時の録音音声の改ざんがあったことを公表した。りらいあコミュニケーションズは、東京電力エナジーパートナーの電力・ガスの電話勧誘業務の委託先だった。

東京電力エナジーパートナーは、顧客対応品質の向上のため録音データの確認を行っているが、2019年3〜12月までに提出された44件の音声データが改ざんされていた。「現場管理職が不適切な営業があったことを隠すために行っていた」(りらいあコミュニケーションズ)としており、そのうち4件では顧客の同意を得ずに契約を結んだ可能性があるという。

消費者庁は6月17日に出した要請の中で、小売電気事業者に対して委託先や関係会社も含め、法令の遵守をあらためて徹底するように求めている。だが、この要請でトラブルがどれだけ減るのかは不明だ。

そもそも、既存の電力の料金体系をきちんと把握していなければ、消費者は契約を切り替えるメリットを簡単に判断できないだろう。そのため、十分な説明もなく「安くできる」とばかり強調する勧誘には注意を要する。実際、「安くなると聞いて契約を切り替えたが、むしろ料金が上がったという相談が寄せられている」(国民生活センター)。それは決して人ごとではないだろう。