2020年6月に発売された「RAV4 PHV」(写真:トヨタ自動車)

日本市場では今、SUV(スポーツ・ユティリティ・ビークル)が花盛りだ。SUVがはやる要因は多々あるだろうが、筆者はその最大の理由を「ドレス効果」ではないかと見ている。

あおり運転による重大過失事件の報道などで、最近よく目にするようになった、ドレス効果という言葉。

人は、制服や高級服などをまとうと、緊張感が高まるなど気持ちが高揚する、といった心理現象を指す。高級車を運転すると、ドレス効果によってあおり運転に陥りやすいという考え方だ。

そこでSUVのドレス効果について、さまざまな事象をもとに深堀りする。まずは、日本でのSUVブームの状況について見てみよう。


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6月1日、同月中に発売するトヨタ新型「ハリアー」と、プラグインハイブリッド車「RAV4 PHV」の一部メディア向けプロトタイプ試乗会が、袖ヶ浦フォレストレースウェイ(千葉県袖ケ浦市)で開催され、ネットメディアを中心に情報が拡散した。

小型SUVではトヨタ「ライズ」が販売好調で、コロナ禍の5月でも登録実績はハイブリッド車の定番「アクア」に次ぐ2位につけた。

6月15日には、日産の北米事業統括会社である北米日産が新型「ローグ」の情報を公開。同車は日本導入の次期「エクストレイル」と兄弟車になる公算が高いため、ローグ関連のニュースが日本でも広まった。


次期「エクストレイル」と目される北米日産の「ローグ」(写真:日産自動車)

軽自動車でも注目の新作SUVが出た。6月10日に発売された、ダイハツ「タフト」だ。タフトは、前席に大きなガラスルーフ「スカイフィールトップ」を全車標準装備し、軽クロスオーバーSUV市場で先行するスズキ「ハスラー」に対抗する。

先行予約は「月販予定台数4,000台の2倍以上」(ダイハツ)と出足好調だ。

このほか、今年後半から来年にかけて、前出のエクストレイル、その兄弟車となるであろう三菱「アウトランダー」、国内最上級本格派SUVのトヨタ「ランドクルーザー」と、注目モデルが続々とフルモデルチェンジを控えている。

こうしたSUVのトレンドは、いつどのようにして生まれのだろうか。

三菱「パジェロ」のマーケティング戦略

SUVに近いイメージとして、RV(レクリエーショナル・ビークル)がある。

1980年代に入り、日本では三菱「パジェロ」がRV市場の牽引役となった。それまで山林などでの作業車として使われることが主だった4輪駆動車を、キャンプなどアウトドアのアイテムとして使うというマーケティング戦略だった。


1980年代のRVブームを牽引した三菱「パジェロ」(写真:三菱自動車)

過酷なパリダカールラリー(現ダカールラリー)にも挑戦する本格オフローダーを街乗りでも使うことが、“仕事も遊びも大胆にこなす強い男”を感じさせるとして、パジェロは幅広い年齢の男性ファッションの一部となった。

このRVという言葉、実は“ほぼ日本市場向け”の造語で、海外ではあまり使われていない。

海外に目を向けると、SUVブームの起源はアメリカにある。筆者は1980年中盤からアメリカの東海岸、南東部、西部などで居住し、全米各地でSUVの変遷を実体験してきた。

最初のトレンドは、1984年に登場したジープの2代目「チェロキー(型式XJ)」だ。このチェロキーは、1980年代後半には日本でのパジェロのような存在になった。


ジープ「チェロキー」は1990年代前半に日本でもヒットした(写真:FCA)

1990年代に入ると、フォード「エクスプローラー」とシボレー「タホ」が登場。これらは、梯子型の車体構造であるラダーフレームを持つ、ピックアップトラックをベースとしたものだ。

同時期、ピックアップトラックでもフォード「F150」、シボレー「C/K1500 (現シルバラード)」、当時のクライスラー・ダッジ「ラム」なども、SUV同様に男女を問わず幅広い年齢層に乗用車として使われるようになった。

当時、GMやフォードのメディア向けイベントなどで、SUVユーザーの声を実際に拾ったが「ボディが大きいから、もし事故にあっても安心できる」「荷物がたくさん積め、家族みんなが一緒に乗っても窮屈ではない」「目線が高くて運転が楽」といったコメントが主流だった。

ガソリン価格がリッター換算で40〜50円だったこともあり、5リッター級の大排気量モデルに人気が集まった。

ランボルギーニやロールスロイスも参入

1990年代後半になると、メルセデス・ベンツが自社初となるSUV「M(ML)」クラスを北米で生産し、BMWも「X5」を市場導入。さらに日系プレミアム3(レクサス、アキュラ、インフィニティ)やアメリカのラグジュアリーブランドであるリンカーンやキャデラックも、続々とSUVを発売した。2000年代にはポルシェも「カイエン」でSUV市場に参入する。


シボレー「タホ」「サバーバン」、キャデラック「エスカレード」など、GMの主力SUVを生産するテキサス州アーリントン工場内での式典の様子(2011年7月、筆者撮影)

2010年代に入ると、中小型セダンからSUVシフトが一気に進み、アメリカ市場でのシェアはSUVが4割、セダンなどが4割、ピックアップトラックが2割と、SUV比率が上昇。今後も、さらなるSUVシフトが予測されている。

ユーザーからは、1990年代と同じように、仕事にも遊びにも使える「オールマイティな利便性」を重視しているとの声が多い。

中国でも海外でのSUVシフトの影響もあり、30代を中心に生涯2台目の新車として、それまで中国での定番だったセダンからSUVに乗り換える傾向が強まった。

こうした米中でのSUV市場拡大を受けて、欧州の超プレミアムブランドがついにSUVを投入。ベントレー「ベンテイガ」、ロールスロイス「カリナン」、ランボルギーニ「ウルス」がそれに当たるが、さらにフェラーリもSUV量産を予定しているという。

これらはまさに、SUVのドレス効果の証明だと言える。

SUVのドレス効果を検証すると、重要なポイントは大きく2つあるように思える。

ひとつは、いわゆる「オラオラ系」の面構えだ。日本でオラオラ顔といえば、「アルファード」「ヴェルファイア」に代表されるが、本来こうしたトレンドは中国で強い。

2000年代後半、日系メーカーの中国のデザインセンターに取材した際、「フロントグリルが大きいと、大きな口からたくさんの空気を吸う大排気量のエンジンをイメージし、それが運転者の優越感につながる」という市場分析を聞いたことがある。オラオラ顔は、ボディサイズが大きく、タイヤが4隅にずっしりと収まるSUVに似合う。

もうひとつは、「本格派の走り」というドレス効果だ。

ランドクルーザーやGクラスが持つ“本格派”のイメージ

“走り”というと、速さがその象徴とされてきたが、それを体感できる場は、サーキットや一部に速度無制限区間があるドイツのアウトバーンなどに限られる。

一方で、「さまざまな路面状況で走れる」という4輪駆動車ならではの“走り”がある。そうした“本格派4駆”の代表例がトヨタ「ランドクルーザー」、メルセデス・ベンツ「Gクラス」、ランドローバー「ディフェンダー」、ジープ「ラングラー」、そしてスズキ「ジムニー」だ。


6月18日に国内初披露された「ディフェンダー」の市販モデル。アンバサダーの女子プロゴルファーの原英莉花選手と(写真:ジャガー・ランドローバー・ジャパン)

1980年代のパジェロブームにも通じる本格派4駆がドレス効果を生み、オフロード走行はほとんどせず、都心の自宅周辺の買い物に使うだけでも「本格派の本物に乗っている」という満足感を得ているユーザーが多い。

本格派4駆というドレス効果は、例えばRAV4のように、本格派4駆のタフなイメージを持つ前輪駆動車を購入して満足するというドレス効果も生む。

今、自動車メーカーには、CASE(コネクティビティ、自動運転、シェアリングなどの新サービス、電動化)といった新世代技術への対応が急がれている。一方で、自動車メーカーと自動車ディーラーにとっては、高めの価格帯で販売台数が稼げるSUVが、CASEへの直接的な関係性がさほど強くなくとも、経営上でのイチオシとなる。

昨今のSUVブームを振り返りながら、クルマとはファッションの一部なのだと、改めて思う。

最後に、本稿はあくまでもSUVによるドレス効果を考えることを主題としており、あおり運転との直接的なつながりを検証するものではないことをお断りしておきたい。