SC相模原・稲本潤一インタビュー@後編

 イングランドの名門アーセナルを皮切りに、ウェールズ、トルコ、ドイツ、フランスと欧州のクラブで9年間プレーした稲本潤一は、2010年に帰国。その後、川崎フロンターレで5年、北海道コンサドーレ札幌で4年プレーし、2019年からJ3のSC相模原に籍を置いている。

「SC相模原・稲本潤一インタビュー@前編」はこちら>>>
「SC相模原・稲本潤一インタビュー@中編」はこちら>>>


海外組の先駆者である稲本潤一に今の状況を聞いた

 日本を離れてヨーロッパで戦ってきた先駆者として、稲本は現在の海外組をどう思っているのか。

「いいことだとは思います。それこそ高校卒業して、そのままヨーロッパに行く選手もいますからね。僕が行った頃と比べれば、受け皿が広がっているし、移籍のチャンスが増えたことは間違いなくいいことだと感じています」

 ただし……と、稲本は言葉をつないだ。

「それで日本代表が強くなったかと聞かれれば、別の問題かなと。僕の頃は代表選手がヨーロッパに行ける時代でしたけど、今は逆で、ヨーロッパに行ったから代表に入れてみよう、というケースが増えている気がしますね。


 Jリーグでそんなに出られなかった選手が、海外に行った途端に五輪代表に入ったりする。そうなると、Jリーグの価値が軽視されているんじゃないかと。そういう流れでJリーグがどれだけレベルを上げていけるかが重要だし、Jリーグから日本代表がもっと出てきてほしいという気持ちはあります」

 受け皿が広くなったことで、海外移籍のハードルは低下した。もちろん、その流れは選手にとってはいいことかもしれないが、Jリーグにとっては諸手を挙げて歓迎できる状況ではない。

「たぶん、オランダやベルギーだったらすぐに行けるでしょうね。僕の時代も、実力的には行ける選手はもっといたはず。ただ、見てもらえていなかっただけで。今は見られやすい環境になったし、情報も伝わりやすくなった。選手にとっては、いい時代になったと思います。

 ただ、JのクラブやJリーグは、選手の価値をどう思っているのか。タダ同然で出ていかれるじゃないですか。やっぱり、抜かれる側もしっかりお金を受け取れる体制作りだったり、駆け引きを身につけていかないと、Jリーグのレベルは下がっていくでしょうね」

 一方で、稲本は海外に移籍した選手にも檄を飛ばす。


「ヨーロッパに行っている選手は、もっとがんばらないといけない。行くだけで、試合に出られない選手も結構いるじゃないですか。やっぱり、行くだけじゃなくて、行ってからのほうが大事。中途半端な気持ちでは、ステップアップは難しいと思います」

 では、海外で成功するために必要なものは何か……。稲本は熟考したうえで、こう言った。

「やっぱり、気持ちじゃないですかね。成功する、もっと上を目指すという気持ちの強さが大事になってくると思います。環境が全然違うし、メンタリティも文化も違う。とくにヨーロッパでは、個人がよりフォーカスされる。サッカーはチームスポーツだけど、そのなかでいかに自分を出していけるか。

 そこに対する強い気持ちを持ち続けないと、潰されると思います。正直、ベルギーやオランダからもうひとつ上のリーグに行くのは、かなり大変。行きやすくはなっているけど、そこからステップアップできなければ、行く意味はあまりないかもしれませんね」

 オランダやベルギーと、ドイツでは、大きな隔たりがある。さらにドイツと、イングランドやスペインとでも、埋めがたい差があると稲本は言う。


「やっぱり、イングラントとスペインで成功している選手は少ない。とくにセンターラインで成功しているのは、(中田)ヒデさんくらいじゃないかな。あと(吉田)麻也もがんばっているけど、なかなかそこでチームの主力になれる選手がいないので、出てきてほしいなという願望はありますね」

 そんななかで稲本が注目しているのは、久保建英だという。ポジション的にはサイドではあるものの、マジョルカで存在感を高めるこの19歳には、大きな可能性を感じている。

「あの年齢であれだけできるのは、すばらしいこと。ただ、現状は『10代にしてはすごい』という評価だと思うので、伸びしろがどれだけあるかでしょうね。環境も大事になってくるので、来季はどこでプレーするかわからないけど、できればレアル(・マドリード)でやってほしい」

 10代の頃からスポットライトを浴びたのは、稲本も同じである。若くして注目されることで、伸び悩んでしまう選手も少なくないなか、稲本はいかにして成長を続けていったのか。

「心構えしかないと思います。周りの人のサポートも大事になってくるでしょう。ただ、久保君は受け答えとか見ていると、芯がしっかりしているなと感じるし、自分の考えだったり、プレーを分析する能力もある。


 僕が19歳の時は、ほとんど考えていなかったから(笑)。伸びしろは間違いなく当時の僕よりあると思うので、これからが本当に楽しみですよ」

 サッカー選手である以上、よりレベルの高いところでプレーしたいと考えるのは当然のこと。アーセナルに移籍した当時の稲本がそうであったように、海外移籍はプレーヤーとしてのひとつの大きな目標となる。

 ただし、行くだけでは意味がない。重要なのは、そこで何を得られるかだ。

 海外でしか手にできないものは間違いなくあると、稲本は言う。

「一番は、やっぱり視野が広がるということ。いろんな国や地域の選手がいるなかで、自分を出していくやり方だったり、認めさせることだったり、人間力というものは確実に成長すると思います。

 サッカーにおいても、技術的には日本人のほうが上だと言う人もいるし、僕もそう思う。だけど、その技術を激しいプレッシャーのなかでどう活かしていくかは、また別問題。海外だと、試合中にほとんど何もしないんだけど、なぜか点だけは獲っちゃう選手がいたりもする。


 そういう勝負強さだったり、したたかさというのは、日本ではなかなか感じられないこと。いろんな選手がいて、いろんな考え方がある。そういう視野の広がりは、海外に行って生活をしてみないと、身につかないことだと思います」

 経験に勝るものはなし。9年にわたって欧州で生き抜いてきた先駆者の言葉は、まだ発展途上にある日本サッカー界にとっての金言である。

【profile】
稲本潤一(いなもと・じゅんいち)
1979年9月18日生まれ、大阪府堺市出身。1997年、ガンバ大阪の下部組織からトップチームに昇格し、当時最年少の17歳6カ月でJリーグ初出場を果たす。2001年のアーセナル移籍を皮切りにヨーロッパで9年間プレーしたのち、2010年に川崎フロンターレに加入。その後、北海道コンサドーレ札幌を経て、2019年よりSC相模原に所属する。日本代表として2000年から2010年まで82試合に出場。ポジション=MF。181cm、77kg。