■「夜の街」という言葉で人が消えた東京の繁華街

6月19日、緊急事態宣言発令から続いていた各業種の営業自粛要請が事実上全面解除となりました。しかし、かつての生活が戻ってくることはありません。新たな生活様式を模索し「withコロナの時代」を乗り越えていく覚悟が現代人に求められるようになったのは間違いありません。そこで、新型コロナウイルス対策の現場を駆け回ってきた身として、改めてこの場を借りて皆様にお伝えしておきたいことがございます。

写真=iStock.com/cittadinodelmondo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cittadinodelmondo

最近の報道を見ると、新規感染者数を伝える際に「夜の街は何名」「新宿は何名」という表現を使うメディアが増えています。事の発端は、緊急事態宣言前の3月30日の都知事会見にあるように思われます。小池知事は「特に、最近の話ですけれど、夜の街といいますか、夜間から早朝にかけての接伴飲食業の場での感染者が東京都で多発していることが明らかになりつつあります」と述べました。実際のところ、東京都が警戒していたのは「夜間から早朝にかけての接伴飲食業の場」であり、一般的な居酒屋やバー等は小池知事の指摘の対象外だったのです。しかし「夜の街」という全業種をひとくくりにした言葉だけが独り歩きした結果、東京の繁華街から人が消えたのでした。

■小池知事の仮想敵として「夜の街」は作られた

これ以降、六本木や麻布十番、渋谷はじめ私の地元墨田区などで夜間営業を行っている居酒屋・バー経営者の皆様から、経営が悪化しているという旨をお聞きしたり、治安が悪化しているというご指摘を受けたりする機会が増えました。私自身、飲食店の経営支援について各省庁や自民党本部に幾度となく掛け合ってきました。お店の形態に関わらず、東京の飲食店は家賃、人件費等固定費が高くなります。そのほとんどが個人事業者や小規模事業者の経営だという点を重く受け止めて動いてきたのです。

そこで私は、都議会本会議の場で小池知事に「夜の街」とざっくりした表現を使わずに「パチンコ店」のようにもっとハッキリした表現を使うべきでないかと意見しました。小池知事お得意の「仮想敵政治」「ワンフレーズポリティクス」のセンスでは、「夜の街」というあいまいな言葉がふさわしかったことでしょう。新型コロナウイルスと最前で戦っているという姿を広く国民に印象付けることに成功したあとは、「夜の街」と戦っているというイメージを作ろうと考えたのだと思われます。

■K-1も仮想敵として印象操作されていた

3月22日に埼玉スーパーアリーナでK-1イベントが通常開催されたことをうけ、小池知事は東京都職員を繰り返しK-1 JAPAN GROUP側へ行かせました。そして3月25日夜、緊急会見で小池知事は「3月28日のイベントの実行委員会に対し、都といたしまして3月24日から、現下の感染拡大の状況を踏まえて、主催者として開催について改めてご検討いただくように要請してきたところでございます。本日夕刻ですが、2回目の協議を行いまして、先ほどK-1の実行委員会の方から都に対しましてご連絡をいただきました。それは『感染の拡大を防止する』との要請の趣旨に沿う、ということで無観客試合として対応していただけるという、前向きなご連絡をいただいたところでございます。ご協力に対しまして感謝申し上げます」と得意げに語ったのでした。この時点では、埼玉県も東京都も「強制力なし」「補償なし」でK-1側に開催自粛を働きかけたにもかかわらず、印象操作の結果マスコミの報道でもK-1は「仮想敵」として扱われていました。

■小池知事は「マーケティング政治」を行っているだけ

パチンコ店への休業要請についても小池知事が腰を上げたタイミングや理由は明確ではありませんでした。少なくとも他県がパチンコ店への自粛要請を始めた頃は、都の姿勢はまだ本気ではなく、私自身、他県で知事と県警本部長が連動してパチンコ店へ働き掛けているのを見るたびに、「早く知事は警視総監とメッセージを出すべきだ」と記者会見などでも申し上げてきましたが、都庁クラブも取り上げることはありませんでした。

4月24日、小池知事は「特措法45条に基づき休業を要請し従わなかった場合には店名も公表する」という旨を会見で述べて評価を得ました。しかし、これもあくまで「休業をせず営業を続けたパチンコ店」の様子が各マスコミで報道された結果、都にもご意見のお電話が集中した結果の知事の動きであり、先んじての行動ではなかったのは自明です。まさに「劇場型政治」というのにふさわしい小池知事の「マーケティング政治」です。

■東京都は「屋形船の失敗」を恐れている

皆様とよくよく考えなくてはいけないことがあります。それは、営業自粛が全面解除となった6月19日より前に「夜の街」から感染者が相次いだというのは、そもそも「ロードマップがスルーされてた」ことを意味しているということです。

東京都がロードマップ遵守を強制することができなかったことには2つの理由があります。1点目は法的根拠が薄いということです。確かにパチンコ店対応で使った特措法45条は、緊急事態宣言中にのみ行使できる知事の権限です。しかし、各知事には強制力はないものの24条に基づいた要請というものがあります。そのうえで2点目の理由として、過去の失敗から特定業種指定を恐れているということです。というのも東京都における第1号となった陽性者について「屋形船が悪い」と東京都が会見で断定的に発表したために屋形船が風評被害に遭ってしまったからです。結果として屋形船は場を提供したに過ぎませんし、屋形船側も早い時期から保健所への相談もしていました。しかし「屋形船に武漢からウイルスが持ち込まれ多くの人に感染を広げた」という噂(うわさ)が広がるのを都が「後押し」することになってしまったのです。

■ワンフレーズで政治を行うことの危険性

共通していることは「ワンフレーズでくくることの危険性」です。パチンコ店も、ナイトクラブも、ホストクラブについても、業界全体が悪いという見せ方は本質的な対策の邪魔となります。実際のところ、感染拡大防止を講じている店舗や6月19日までロードマップを遵守していた店舗がほとんどでした。一方で、緊急事態宣言中に営業を続けたことで売り上げが伸びたという店舗があります。他の店舗が閉まっているため、そこに利用者が集中した結果です。しかし、あくまで休業要請であり営業補償はしないということが大前提ですから、これは「闇営業」とは言えません。こういった店舗があるのにもかかわらず、どんな感染拡大防止策を行っているかなど一歩踏み込んだ調査をしてこなかった都の姿勢に疑問を感じずにはいられません。

また、真面目な経営者の店舗ほど営業を再開しないため、収入がなくなった女性従業員がパパ活に力を入れることになったり、「この店でコロナになった」と恐喝されたなどの相談が届くようになりました。そこで、こういった生の声を都の担当者は聞くべきだと私は強く思い、都内中の繁華街の様子についての意見交換会の場もセットしました。「都のロードマップや自粛要請基準が曖昧ゆえに、東京の治安は崩壊しつつある。危機管理として、どう向き合うのか」といった視点で、かなり生々しいやり取りもしました。そのうえで「今後ナイトクラブにはガイドラインを作っていただき、それを都が認証する形で『優良店』の判断ができるような仕組みを導入すべきだ」と提案しました。東京都の認証マークも正式に導入となったのです。

■小池都政により繁華街は負のループへ…本当の「新しい生活様式」とは

ただ、小池知事が「夜の街や接待を伴う飲食店」とばかり口にしてきた結果、繁華街は悪循環に陥りつつあります。例えば、「優良店」は水割りを作るマドラーを使い捨てにしたり一人ひとり専用にしたりして営業しようとしています。ところが、同じ地区の別の飲食店では共用だったりするのです。つまり、小池知事の曖昧な発信で業態によって「警戒心」に差がついてしまっているのです。

実際、「昼の街」でも感染が広がっているケースもありうるわけです。マスコミや小池知事が伝えてきた「夜の街」はあくまで例え話であり、本当は「朝の街」「昼の街」「黄昏の街」全てにおいて店舗も利用者も誰もが「無症状保有者かもしれないのだ」という原点に立ち返り、「感染させてはいけない」「感染してはいけない」と皆が気を配る「新しい日常」を作っていかねばならないのです。

新宿以外なら大丈夫と思っている方も多いようで、他の街に新宿から人が流れてきたと指摘されています。これから、仲間内の食事会や飲み会も徐々に行われるようになると思います。会計が終わって、店の外に出てきたときにマスクをしていない方が必ずいるはずです。それを、そっと注意できる「新しい価値観」を「夜の街」に根付かせる必要があるでしょう。

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川松 真一朗(かわまつ・しんいちろう)
東京都議会議員
1980年生まれ。日本大学法学部法律学科卒業。テレビ朝日アナウンサーを経て、2013年、東京都議会議員に初当選し、現職2期目。自民党東京都連青年部長。都議会自民党総務会副会長、都議会オリンピック対策特別委員、都議会公営企業委員。YouTube活動に力を入れる。
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(東京都議会議員 川松 真一朗)