昨年の最優秀3歳牡馬に輝いたサートゥルナーリア(牡4歳)。同馬にとって、最も大きな課題とされてきたことは、ひと言で言えば「大人になること」であった。

 強いが、脆い――。

 2歳時、デビューから3戦連続で手綱を取ったミルコ・デムーロ騎手は「(サートゥルナーリアは)歴史を変える馬」とまで言った。

 強い時は、それぐらい強い。

 実際、2歳GIのホープフルS(中山・芝2000m)を完勝。そこからの休み明けで、牡馬クラシック第1弾のGI皐月賞(中山・芝2000m)も快勝している。

 しかしその反面、思わぬ敗戦を喫することもある。事実、無敗で皐月賞を制して以降は、2度の着外を経験。そのうち一度は、掲示板(5着以内)さえ外している。

 世界を知るジョッキーに「歴史を変える」とまで言わせた馬が、時に、その面影すらない「まさか」といった負け方をする。

 決して、弱いのではない。脆いのである。

 その点について、関西の競馬専門紙記者はこう語る。

「もともとサートゥルナーリアは、闘争心が勝ちすぎるタイプ。言い方を変えれば、敏感すぎるところがあって、何か気になるところがあると、途端にテンションが上がって、レースに集中できなくなる。それどころか、ゲートが開く前に燃え尽きてしまう。

 要するに、雰囲気にのまれてしまうんです。この馬が『強いけど、脆い』と見える原因は、そういう弱点を抱えているからでしょう。3歳の若駒にはありがちなことですが、馬が大人になり切れていないんです。昨年までのサートゥルナーリアは、そういう馬でしたね」

 そのサートゥルナーリアにとって、明け4歳になっての今年初戦、GII金鯱賞(3月15日/中京・芝2000m)は、昨年来の課題克服、すなわち、どれだけ大人になったのかを推し量るうえで、格好の舞台となった。

 また、着外となった2度の惨敗は、GI日本ダービー(4着。東京・芝2400m)とGI天皇賞・秋(6着。東京・芝2000m)だった。いずれも、左回りの東京競馬場が舞台だったことで、サートゥルナーリアは「左回りが苦手」という説が喧伝されることになった。

 そうしたこともあって、東京と同じ左回りの中京競馬場で行なわれる金鯱賞で、サートゥルナーリアがどんな走りを見せるのか、大いに注目された。


金鯱賞を快勝し、宝塚記念に臨むサートゥルナーリア

 結果、サートゥルナーリアは、左回りも、他馬より重い斤量(2kg。牝馬とは4kg差)も、何ら苦にすることなく、このレースを圧勝した。

 ただ、ファンや関係者の一部からは、「それでもまだ、この馬は信用できない」といった声が囁かれた。

 その理由は、「圧勝したといっても、初戦はローカルのGII戦。相手が弱い」というものだった。

 たしかに、それは一理ある。サートゥルナーリアを除いた11頭の出走メンバーには、GI馬もいなければ、この先でGIを勝てるような存在も見当たらなかった。いわば”弱メン”だったゆえ、そうした評価があるのも当然かもしれない。

 だが、注目すべきは、その”弱メン”相手に勝ったという結果ではなく、あくまでも、そのレース内容だ。

 この点では、明らかに見るべきものがあった。1つ年齢を重ねたことによる、サートゥルナーリア自身の成長が感じられた。先述の専門紙記者が言う。

「金鯱賞は、前半の1000m通過が63秒6。GIIとは思えないような、超スローでした。燃えやすい気性のサートゥルナーリアにとっては、折り合いが心配になるところですが、道中、逃げ馬から5番手くらいの位置で、ピタリと折り合っていました。あれは”成長”と見ていいと思いますし、あの圧勝ぶりは本格化の兆しと見ていいでしょう」

 そうして、この春の最大目標となるGI宝塚記念(6月28日/阪神・芝2200m)を迎える。

 心配性のファンの中には、金鯱賞→宝塚記念というローテーションを「レース間隔が空きすぎ」と見る人もいるようだが、陣営とすれば、予定の行動。一時、香港遠征プランもあったというが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、そのプランが早々に立ち消えとなるや、金鯱賞のあとは、宝塚記念一本に目標を絞ってきた。

 ゆえに、日程面での心配もない。

 サートゥルナーリアのこれまでの蹄跡を階段に例えるなら、現状、一流馬のステップには上がってきていると見ていい。さらに上の、超一流を目指すための”踊り場”にいる、といった感じだろうか。

 この先、さらに駆け上がっていくのか、あるいは、踊り場で足踏みするのか。その試金石となるのが、前走よりも相手のレベルが格段に増す、「上半期のグランプリ」宝塚記念である。

「この馬がまともに走ったら、今はアーモンドアイにも負けない。それぐらい強い。その強さを、強豪が集う宝塚記念で、ぜひ見せつけてほしいものです」

 そう話すのは、先の専門紙記者である。1週前の追い切りでも、上々の時計をマーク。この時、手綱を取っていたクリストフ・ルメール騎手は、その感触についてこう語ったという。

「少し、大人になったね」

 3歳時の課題は、クリアされている。 一流から超一流へ――。宝塚記念は、サートゥルナーリアが飛躍を遂げるレースとなる。