5月末のメモリアルデー(戦没者追悼記念日)の週末。米国ではバーベキューコンロに火を点け、冷えたビールを飲みながら、ホットドッグに何をかけるかを家族と言い争うといった、いかにもこの国らしい休日を過ごした人もいただろう。なかには言い争いの種になるほどソーセージを用意できなかった家庭もあったかもしれない。

「食肉加工の機械化が、ウイルス感染に強く搾取のない工場をつくりだす」の写真・リンク付きの記事はこちら

寒い室内で従業員が肩を並べて作業する米国の食肉加工場は、感染症が蔓延しやすい環境だ。これまで数千人の従業員が新型コロナウイルスに感染し、少なくとも30人が亡くなっている。

この感染拡大によって、全米で数十カ所の加工場が閉鎖や生産規模の縮小を余儀なくされた。その影響で食肉の供給量も不足しており、食料品店のなかにはひき肉や鶏胸肉といったバーベキューの必需品に購入制限を設けざるをえないところも出ている。

加工品の工場も同様で、ミルウォーキーにあるソーセージ製造工場では5月、原料不足でホットドッグの製造ラインを一時的に停止した。

一方、デンマークにある欧州最大の豚肉加工場では、ほぼ通常通りの操業が続けられている。ほとんどの作業をロボットがこなしているからだ。

欧州最大かつ最先端の食肉加工場

午前5時20分、荷台にわらを敷いた平台型のトラックが、欧州最大の食肉加工業者ダニッシュクラウン(Danish Crown)の加工場に到着し、その日に加工予定の豚の第1弾を運んできた。工場がある海辺の街ホーセンスは、まだ暗闇のなかだ。つなぎを着た従業員たちが、豚を次々と囲いの中へと追い立ててゆく。

その1〜2時間後、ゆっくりと動く機械式の仕切りが、豚を数頭ずつ囲いの中からガス室へと移動させる。豚がガス室に入ったら二酸化炭素を吹きつけて気絶させ、ベルトコンベヤーに載せていく。

ベルトの先には防水エプロンとひじまでの長さの手袋をつけた従業員が待ち構えていて、運ばれてきた豚の後ろ脚の片方に鎖をかける。豚は脚を上にして持ち上げられ、製造ラインにぶら下げられて移動していく。先ほどとは別の従業員が、流れてきた豚の頸動脈にバキューム装置付きの専用のナイフを差し込み、血液を吸い取る。

ここから先は、すべてロボットの仕事だ。まず、赤外線レーザー発振器を備えたロボットが、豚のサイズを計測する。それからまた別のロボットがデジタル画像を用いて尾を認識し、尾の下部に約10cmの穴を開け、便を吸引する。

次にキャビネットに似た形のロボットが、大きな円形の刃で豚の胸骨から腿のつけ根まで切り開く。さらに、内臓を取り除くロボット、腱を切るロボット、背骨を縦に切り開くロボットが次々と処理を進めていく。

ここまでの所要時間は10分。ロボットは6台。人間は作業を監視するための必要最小限の人数がいればいい。その後も機械仕かけの鋼と刃による作業は続けられ、午前0時に(人間の)午後のシフトが終了するころには、18,000頭の処理が終わっている。

ダニッシュクラウンの食肉加工場は、世界最大級の豚肉加工場であるだけでなく、技術の面でも最先端と言えるだろう。加えて、透明性という点でも最高クラスだ。パンデミック以前には毎週何百人もの見学者を受け入れており、現在もインターネット上で工場をヴァーチャル見学できるようになっている。

同社はホーセンス以外にも、デンマーク国内の17カ所に工場をもっており、そのどれもが高度に機械化されている。これこそ、デンマークの食肉加工場が新型コロナウイルス感染症のホットスポットにならずに済んでいる理由のひとつだ。

ダニッシュクラウンの広報担当者によると、国内に8,000人いる従業員のうち、新型コロナウイルスの感染が確認されたのは10人以下だという。休業もしくは処理量を減らすなどの対応をとらねばならかった加工場は、ひとつもない。

もちろん、デンマークでは早くからロックダウンが実施されていたことや、しっかりした国営の健康保険制度があることなど、機械化が進んでいる以外にもホットスポットにならずに済んで理由はあったのかもしれない。とはいえ、食肉産業について調べている科学者たちは、ほかの国もデンマークの状況に注目すべきだと言う。

遅れた投資のツケ

新型コロナウイルスによるパンデミックが発生して以来、ソーシャル・ディスタンス(社会的な距離)という新たな認識が生まれ、食肉加工場を含むあらゆる業種でモノや人の配置を考え直す必要が生じた。

米国の食肉加工場には、従業員同士の距離が近く、騒々しく、室温が低いという特徴があるゆえに、新型コロナウイルスが広がりやすい。だがロボットを導入すれば、従業員を感染から守り、施設を閉鎖する必要もなくなるかもしれない。

「米国の食肉産業はいま、技術に投資をしてこなかったツケを払っているんです」と、パデュー大学の食料・農業経済学者であるジェイソン・ラスクは言う。

米国の食肉加工場で機械化が進まなかった理由として、ラスクは経済的なインセンティヴの欠如を挙げる。新しい技術を導入しなくても不法就労者を安い賃金で働かせればこと足りる状況が、古くから続いてきたのだ。競争力を保つには、生産ラインの働き手を増やせばよかった。

ところがここ数年、人口動態の変動や急激な経済成長の影響で、十分な数の従業員の確保が難しくなっている。さらに新型コロナウイルス感染症の大流行で、加工ラインに大勢の従業員を詰め込めば、伝染病を広める原因になるという認識も広まった。

「新型コロナウイルスの騒ぎが収まったら、食肉業界は将来を見据えて大いに内省するでしょうね」と、ラスクは言う。「やることリストの最初に来るのは自動化です」

なお、『WIRED』US版は全米肉牛生産者・牛肉協会と全米豚肉委員会、北米食肉協会にコメントを求めたが、記事の掲載までに回答は得られなかった。

機械化は家禽類の加工場で先行

米国では、豚や牛の食肉加工場に比べて、家禽類の食肉加工場では機械化が進んでいる。1970年には1時間あたり3,000羽だった処理数も、80年には8,000羽、現在では15,000羽にまで増加した。家禽類は体のサイズが小さいことから、生産ラインの機械化に要する設備投資の負担も小さいのだ。

とはいえ、カナダ・オンタリオ州のゲルフ大学で食肉科学科の教授を務めるシャイ・バルビューによると、豚肉や牛肉の加工業者も10年ほど前からようやくロボットの導入を始めたという。

18年には、クレメンズフードグループ(Clements Food Group)が切断とパック詰めの作業を自動化した豚肉加工場を、ミシガン州のコールドウォーターに開設した。この加工場では、従来より300人少ない従業員数で、従来通りの量の肉を加工できるという。

新型コロナウイルスの感染予防策をとっているゆえに処理量は減少しているものの、これまでのところ工場は操業を続けられていると、ミシガン州豚肉生産者協議会の代表は5月中旬、同州の経済誌に語っている。なお、クレメンズフードに対して現状について何度か問い合わせたが、返答は得られていない。

また19年には、米国の食肉大手タイソン・フーズ(Tyson Foods)も、豚肉加工場にロボットを導入すべく投資を開始した。こちらは主に労働力不足に対処するためである。

個体差にいかに機械で対応するか

新型コロナウイルスの流行が収まったあと、食肉業界では加工処理作業へのロボットの導入が一般的になるだろうと、ゲルフ大学のバルビューは予想する。「新型コロナウイルスの流行で、特に米国などでは機械化を素直に受け入れる食肉加工場が増えるはずです」

人間が手がけていた家畜の解体作業をロボットに任せるのは、たやすいことではない。レタスやリンゴと同様に、動物の形や大きさは個体によって異なるからだ。可能な限り遺伝的に均一な家畜をつくり出し、餌の量を等しくしても、スマートフォンのバッテリーのように均一な豚が生まれることは決してない。

「どのような種類の家畜を解体する場合でも、生物学的変動が必ず存在します」と、デンマーク食肉研究所(DMRI)の所長ラース・ヒンレクスンは言う。単純なプログラムで画一的に切断するだけでは、ロボットに肉を処理させることはできない。臨機応変な対応が求められるのだ。

理想的なロボットは、体をデジタル画像処理して骨の位置を判別し、切断したときの重量を概算したうえで、注文に合わせた最適な切断方法を導き出すものである。「成功を収めている企業は、個体差をどう利用すればいいか知っています。そこがポイントなんです」

未来の食肉加工場は「作業ブース」型?

最先端の食肉処理技術について詳しく知りたいなら、DMRIを訪ねるといい。この研究所ではおよそ70年にわたって食肉処理にかかわる技術を研究開発している。ホーセンスにあるダニッシュクラウンの加工場も、DMRIの技術のおかげで人とロボットの見事な協業を実現している。

DMRIのヒンレクスンによると、デンマークの食肉加工場では20年前に業界の存続をかけて機械化への投資が進められ、いまや食肉加工場の従業員は高給取りになったのだという。「機械化を進めたのは、単にそれが世界市場において競争力を保つ唯一の方法だったからなんです」と、ヒンレクスンは言う。

DMRIは現在も技術開発を進めている。科学者や技術者が、最新のコンピューターヴィジョンやディープラーニング、自動車産業や物流業界で利用されているような仮想シミュレーションの技術を統合し、食肉処理に生かそうとしているのだ。

もしヒンレクスンが設計の指揮をとれば、未来の食肉加工場では単純な反復作業をライン形式で進めるやり方は廃止されるだろう。その代わり、人間ひとりとロボット1台が組み、「作業ブース」の中で1頭ずつ豚の解体を最初から最後まですることになる。

ロボットは必要に応じてナイフなどのツールを持ち替えて作業し、人間はトラブルに対処するためにそばで作業を見守っている。人間がトラブルを解決するたび、その解決策がアルゴリズムにフィードバックされるので、ロボットはどんどん賢くなっていく。

この方法なら、食肉加工に要する数百の過程をまとめてひとりと1台のペアでこなせるので、隣の従業員と肩を触れ合わせることもない。それでいて、現在の標準的な生産量を維持することもできる。

従業員の「消耗品扱い」に終止符を

こうした根本的なパラダイムシフトが生じたとしても、食肉加工場などの職場での感染症流行は技術の進化だけでは防げるかわからないと、DMRIのヒンレクスンは言う。

感染症の流行を防ぐには、感染したときに職を失ったり保険の補償から外れたりすることなく仕事を休めるような、しっかりした医療制度が不可欠だ。加えて、危機に際して国を率いる強力な指導力も必要である。

世界保健機関(WHO)によると、デンマークの5月下旬時点の感染者数は11,000人、死者はわずか551人にとどまっている。ヒンレクスンは、これは政府が早いうちから自宅待機の指示を出した成果だと考えた。

一方の米国では、同時期に150万人以上の感染者が確認され、95,000人が死亡している。ドナルド・トランプ大統領は4月、食肉は「国防に不可欠な希少かつ重要な物資」であるとし、食肉加工場の稼働を続けること、従業員に感染者が出た場合の法的責任を軽減することを命じる大統領令に署名した。

米国の食肉加工場における感染者の急増は、機械化の遅れというよりも、従業員を消耗品のように扱う体制に原因があるのかもしれないと、ヒンレクスンは指摘する。

「従業員に投資しなければ、この先も似たような事態が何度も何度も繰り返されるでしょうね」と、ヒンレクスンは言う。「今回流行した新型コロナウイルス以上にたちの悪い病原体は、いくらでもあります。自分の会社で今回のような感染症が流行したとき、ツケを払うのは誰でしょうか? リスクを負担せず、問題に向き合わず、解決しようとしなければ、いつか危険な状況に陥るはずです」

食肉加工場にロボットを1〜2台導入すれば、感染症に対する安全性は高まるだろう。人が減れば、感染の危険が少なくなるからだ。

しかし、機械化の影響は、ドミノ効果によってより大きなかたちで現れる。技術的に進んだ設備を動かすには、技術力のある従業員が必要だ。そういった従業員は、やすやすと搾取されることはない。パンデミックの状況下ではなおさらだろう。