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◆軍、キリスト教福音派、共和党重鎮も「離反」続出

「(兄は偽の20ドル紙幣を使った容疑で殺されたが)20ドルを理由に死んでいいはずがない――」

 6月10日、米・ミネソタ州ミネアポリスで白人警官から暴行を受けて亡くなったジョージ・フロイドさんの弟が議会の公聴会でこう証言した。

 全米で広がった「BLM(Black Lives Matter、黒人の命も大切だ)」運動。世界中に波及し、暴動や略奪も盛んに報道されたが……最新のCNNテレビ世論調査の結果にトランプ陣営には激震が走る。

 トランプ大統領の支持率は38%に急落し、民主党候補・バイデン前副大統領との差は14ポイントに拡大。これは再選を果たせなかったカーター元大統領、ブッシュ(父)元大統領の同時期と同じ水準だ。

 トランプ陣営はCNNに「調査はフェイクだ」と謝罪と撤回を要求したが、CNN側からは「世論調査の40年間の歴史で、結果が気に入らないからと法的措置で脅しをかけた政治家はいなかった」と反撃される始末……。もはや、危機に強いリーダーシップを発揮する大統領の面影はみじんも感じられないが、5月中旬まではトランプ大統領の支持率は十分に再選を狙えたと言っていいだろう。新型コロナ対策では200万人を超える感染者を出しながらも、批判の矛先を中国やWHOに向けて、危機を潜り抜け、過去最大規模の緊急経済対策を取りまとめたことで、株価は2万5000ドル台まで回復したからだ。

 それが一転、今や再選が危ぶまれる状況に陥っている。トランプ大統領は何を見誤ったのか? 米国在住のジャーナリストで映画評論家の町山智浩氏は、全米各地に広がった抗議デモの実態をこう語る。

「実はBLM運動は’14年頃から始まっています。以前から公務中の警官が無抵抗の黒人を殺害するケースは後を絶ちませんでしたが、警察は身内をかばって事実を隠蔽し、警官が起訴されることはない。まれに裁判になっても遺族側の勝訴はなかった……。ところがスマホが普及し、動かぬ証拠である動画が撮影されるようになり流れが変わってきた」

◆デモ拡大の背景には新型コロナの影響も

 新型コロナの影響もデモ拡大に拍車をかけている。町山氏が続ける。

「米国は10年にわたり好景気が続き、家賃は上昇の一途を辿っている。そこに新型コロナ対策のロックダウンで、失業率は一時17%を記録し、4000万人が職を失った。家賃を払えない人が急増し、社会に不満を募らせている層は多い」

 抗議デモの一部が略奪や破壊行為に走ると、トランプ大統領は「法と秩序」を訴えた。これは’68年に公民権運動を主導していたキング牧師が暗殺されて起こった暴動を受け、ニクソン元大統領が唱えた言葉だ。

「日本のメディアでは暴動の映像が繰り返し流れているようですが、実際は略奪が起きたのは5月29日と30日の2日間だけ。これ以降、略奪などは起きていません。にもかかわらず、トランプ大統領は抗議デモにアンティファ(反ファシズムを標榜する急進左派グループ)が関与していると決めつけ、陰謀論まがいの言説が独り歩きするようになってしまった。トランプ大統領は略奪や破壊行為をアンティファが主導していると頑なに主張し、軍の出動まで示唆したが、エスパー国防長官が軍派遣の法的根拠がないと断ると、トランプ大統領は激怒し、彼を解任しようとした」(町山氏)

◆支持率低下による焦りが負のループを生む
 支持率の低下に焦り、後先を考えないトランプ大統領の言動は、軍部から大きな反発を招いている。星槎大学大学院教授の佐々木伸氏は話す。

「支持基盤のキリスト教福音派へアピールするためか、トランプ大統領は、デモ隊を催涙ガスで排除し、6月1日にはホワイトハウス近くのセント・ジョンズ教会へ行き、聖書を片手に記念撮影しました。同行した米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、政治には中立であるはずの軍が誤ったイメージを持たれかねないので『その場にいるべきではなかった』と謝罪。国民から人気の高いマティス前国防長官も『米国を分断しようとしている』と痛烈な批判を雑誌に寄稿し、大きな反響を呼んでいます」