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第12週「環のパリの物語・前編」 59回〈6月18日 (木) 放送 作・吉田照幸〉



59回はこんな話

今週は特別編。
音の音楽の師匠のような存在・双浦環がパリで留学していた頃の物語。
音に、どんなことがあっても舞台に穴をあけてはいけない、たとえ子供が死にそうでも舞台に立つ覚悟がなくてはならないと厳しい心得を伝えてきた環のそういう境地に立ったきっかけが描かれる。
パリで環は画家・(金子ノブアキ)と知り合い恋に落ち、各々絵と歌に励みながら、恋を育んでいく。

柴咲コウ、無双

バンブー夫婦の話も、音のお父さんの話も、それなりに「エール」の流れを感じたが、柴咲コウが中心になると、完全に双浦環のドラマになってしまう。
冒頭に、ヒロインの音と環のシーンが出てきて、かろうじて、これは「エール」ですよーという案内的な感じになっているが、舞台がパリということで、まったく違う物語の雰囲気が漂う。

パリといってもパリロケではなくそれっぽいセットだが(最初だけ昔のパリのモノクロ映像が出てくる)、柴咲コウがそこにいると、スピンオフではない本編感にあふれてしまうのである。数々のドラマや映画で主演してきているだけあって、画面が華やぐし、どんっと中心に立つ貫禄がある。

音楽が好きで、志もってパリにやって来たものの、なかなか馴染めないでおとなしくしていても、それでも圧倒的に主人公なのである。

カフェに飾ってあった絵を、その作家・今村嗣人(金子ノブアキ)に向かって「中途半端」と言ってしまった、そんな失敗の出会いだったが、ふたりが恋人になるまでに時間はかからなかった。

嗣人は将来を嘱望された新進画家で、家も大金持ち。嗣の文字から藤田嗣治(レオナール・フジタ)を意識したのではないかとも思われるが、嗣人はかなり想像寄りの人物であろう。

「すごいよ、君は今年運命の人に出会う」と自分をアピールする積極的な嗣人にたちまちまいってしまう環。
絵と音楽、ふたりで世界を目指そうと誓い合い、ふたりは一緒に暮らし始める。

ベッドのなかで「(朝食を)こちらにもってまいれ」と甘える仕草なんかもさすがの柴咲コウ。

例えば、「なつぞら」に過去の朝ドラヒロインが大集合して、山口智子や松嶋菜々子にはやっぱり華があるなあ〜と思う以上の華が柴咲コウにはある。山口や松嶋は、結婚後、しばらく仕事をセーブしており、再び活動をはじめたという第2のターン感がある。

一方、柴咲は、最近、大河ドラマ「おんな城主直虎」で主役を張った記憶もまだ新しいし、新型コロナウイルス感染予防による多くのドラマの撮影中断に伴ったリモートドラマ「転・コウ・生」でもムロツヨシを演じたりして、新しいことにもチャレンジしている現役感にあふれているのである。


タルトタタン

カフェでタルトタタンを初めて食べて、その美味しさに目を丸くする環。“りんご”でかろうじて「エール」とつなげているのだろうかと思ったら(先週、裕一の弟がリンゴ栽培で町おこしを考えていた)、失敗から誕生したお菓子というところに意味があったようだ。「失敗も無駄ではないってことか」と環は思う。

懸命に絵に打ち込む嗣人に影響を受けた環は、巨匠・プッチーニのオペラ「蝶々夫人」のオーディションを受けにイタリアに向かう。友人の里子(近衛はな)から、アメリカ人と日本人の恋物語であるが、日本人役を欧米人が黒髪のかつらをかぶってやるらしいと聞いたからだ。

アジア人をあからさまに馬鹿にする欧米人たちに負けじと、応募資格がないにもかかわらずオーディションに乗り込むと、運良く歌わせてもらえた。

里子は、嗣人の創作活動が大変なときは支えてあげたほうがいいのではないかと助言するが、カフェのマスター・フィリップ(ピーター・フランクル)に「他人に惑わされないことだ」と助言される。
恋人は力にもなると言いながら、すでにその他人(マスターの言葉)に惑わされているわけだが……。

家に戻ると、なんと一次審査の合格通知が。興奮して絵の作業で疲れて寝ていた嗣人に抱きつく。「僕も嬉しいよ」と言いながら、嗣人の浮かない顔で「つづく」に。
いやな予感しかしない。

劇中、環が聞いていたプッチーニの「トスカ」はまさに画家と歌手トスカの物語で、トスカは愛に殉じる。環は……。


日本人の女性が単身ヨーロッパに乗り込み歌で世界を制していく。その間、恋か仕事かの悩み、欧米と日本との差異、戦争など様々な困難がふりかかるが、その都度乗り越えていくヒロイン。こういう朝ドラがあっても良かったんじゃないかと思うが、双浦環のモデルである三浦環物語はなぜ朝ドラにならなかったのだろう。

朝ドラはホームドラマという前提に引っ張られているのか、とくに最近、小さくまとまりがちだが、スケールの大きい浪漫にあふれたものも見せてほしいし、そういうもののほうが普遍性があり、老若男女楽しめるんではないか。「エール」を見ていると、喜劇からシリアスまで様々なものができる才能あるスタッフだと感じるので(取材力も圧倒的だし)、恵まれた才能を大いに生かしてもらいたい。

メモ

外交官の娘・里子を演じている近衛はなは、チャンバラ映画のレジェンド・近衛十四郎の孫で、目黒祐樹の娘で松方弘樹の姪と俳優一家。詩集も上梓していて、なんとなく只者ではない感が漂っていた。
(木俣冬)

主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

双浦環…柴咲コウ 世界的なオペラ歌手。音が子供の頃、「蝶々夫人」のレコードを贈る。「椿姫」のヒロイン選考会の特別審査員。稽古にも参加し、音に厳しい助言をする。モデルは三浦環。


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和