「エール」58話 ゲスト井上順の登場にSNSが沸く。子役の久志の再登場もうれしい

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第12週「父、帰る 前編」 58回〈6月17日 (水) 放送 作・吉田照幸〉



58回はこんな話

今週は特別編。
喫茶バンブーのマスター保(野間口徹)と恵(仲里依紗)の出会いの物語。喫茶店をはじめる前、保は神田で古書店をやっていた。そこに恵が客としてやって来て……。

喫茶バンブーはどうして生まれたか

裕一と音の家の近所の〈喫茶バンブー〉は店名に合わせて、食器や飾りものに竹のモチーフが使われている。裕一たちが上京してきたとき、裕一たちの馴れ初め「竹取物語」と重ね合わせ気に入って店に入り、それがきっかけで住居を紹介してもらい、以来、なにかと世話になっている。

喫茶バンブーで音とコーヒーを飲みながら、裕一が店名の由来を聞くと、保は昔、古書店の店主だったことがわかる。
そこから、10年ほど前の神田、保の古書店時代へーー。

両親が亡くなって7年、保は親戚とも疎遠で天涯孤独であった。
日がな一日、薄暗い古書店のなかで本に囲まれた生活する保のことを、喫茶店を経営しているらしい客・木下一(井上順)は心とカラダのためにもっと外に出たほうがいいと気にかける。

大河ドラマ「いだてん」の後半戦、東京オリンピック組織委員会会長・津島寿一役で出演していた井上順が、気のいいおじさん役で場を明るくする。酔っぱらいの演技とかさすが。喜劇の得意な野間口と並ぶといい感じに軽やかだ。

とそこへ、珍しく若い女性客が来店、「吾輩は猫である」の初版に気づいたことをきっかけに、保と本について語り合う。
彼女から保の好きな「こころ」に「学は長く人生は短い」とヒポクラテスの格言が書いてあることを教わった保。
自分の人生を考え始めたようす。
人生は短いのだから、このままひとり古本に埋もれたまま終わるだけではもったいないと思ったのかどうか……。

女性客は二宮恵といい、その後、木曜日になると来店するようになる。

ちなみに「こころ」は、57回、梅が「悪い人という一種の人間が世の中にあると君が思っているんですか。そんな鋳型にいれたような悪人が世の中にはあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです」とお友達の結ちゃんに読み聞かせた一節の書かれた小説である。


久志が恋のキューピッド

「ああ、この子としゃべっていると自分が愚かでどうしようもない存在に思えてくる」(保)

保は恵を好ましく思いはじめ、どうやら恵もまんざらではないようす。でも保は何もできずにいた。
このまま何もしないと、女性はすぐに恋から友達意識になってしまう。木下が連れてきた親戚の少年・佐藤久志はひどくこまっしゃくれていて、女性心理を悟るうえ、保の心を勝手に読み解き、保は自己嫌悪に陥る。

この回想を聞いていた裕一は、口調から、生意気な少年が久志(山崎育三郎)ではないかと気づく。
案の定、そうだった。

「人は行動することで自分を変えられる」「すべては行動です」と少年久志に言われた保は、食事に誘ってみることにするが、ご飯と言えず、碁でもやりませんか? と言ってしまう。恵は「教えてください」と感じよい返事だったが、これでは恋が進展しない。余談だが、「やれる やれる」と自分を鼓舞する保が「鬼滅の刃」の炭治郎かと思った。

それを奥から木下と一緒に見ていた久志は、恵が左の薬指に指輪をしていたことに気づいてしまった。婚約や結婚を意味するものである。日本にはまだ婚約指輪の慣習はなかったが、外国人とつきあっているんじゃないかと推理する。このままでは、外国人と外国(月)に行ってしまうかも。まるでかぐや姫のように。

あきらめかかった保に「あなたがこの店を一歩出ればすべてが変わります」「すべては行動です」「結果は変わらないかもしれない」「しかしあなたは変わります」とやたら大人びたことを言って、背中を押す久志。

「月からかぐや姫を奪ってきます」と思い切って行動する保。

ここからは恵の再現になる。
思い切って告白すると、恵の指輪は婚約指輪でなかったことがわかり、めでたしめでたし。バンブーという名は、竹の根がしっかりしていることから、ふわふわしないで生きていこうと恵が思ってのことだった。

諦めずに言うだけ言ってみるものである。
人生は行動。一歩外に出てみる。ひとりではない。……というようなことは、裕一や音の人生ともつながっている。
そして、これを保に語った久志も行動に出た経験があるらしい。この話はいつか描かれるのだろうか。

この話を聞いて「久志さんってすごい」と音が感心していると、久志がバンブーに入ってくる。ぴかーっと外光がものすごい強く、久志は大スターが照明を背負っているようで、裕一たちは目がくらんでしまう。

それにしても、久志のことを、裕一に言われるまで、あのときの佐藤久志であったことに気づいてなかったバンブー夫妻。久志はなぜ、あのときの話をしなかったのか。保にこんなに親切だった木下はその後、どうしたのか。そして、本好きな夫婦の喫茶バンブーに、すてきな本がたくさん置いてあればいいのになぜ竹グッズばかりなのか。新たな人生を歩み始めたとはいえ本好きであることをやめることはないと思う。

日本家屋が落ち着く

「思い出すわ」というこれまでの恵の妄想語りは、文学好きによるものだったらしい。そういう背景がわかってほっとした。夏目漱石の「我輩は猫である」の薀蓄を語るときの仲里依紗は聡明な女性という感じであった。57回の梅の手元には漱石の「道草」が。これら夏目漱石本の数々は、数年前、夏目漱石ドラマをNHKで何作か制作していた流れであろうか。


夏目漱石本にかぎらず、古書店の飾りこみ、保の独居の飾り込み、先週の福島の実家の雰囲気、等々、昔の日本家屋の美術にかけては大変優れているNHK美術スタッフ。歴史の積み重ねなのだろう。古い日本家屋の撮り方は見ていて安心する。若い世代の視聴者を獲得すべくNHKドラマはここから脱却しようとしているように思うが、ここは大事にし続けてほしい。

「妖怪学 井上円了(円は旧字)」という張り紙も良かった。むしろ若者にこびず、古き良きものを若者に伝える仕事をしてほしい。
(木俣冬)

主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。

木下一…井上順 古書店の客。久志の親戚。

佐藤久志… 幼少期 山口太幹/成長後 山崎育三郎  福島時代、裕一の学校に転校して来た。県会議員の息子で、気取った口調で話す。気配を消すのが得意。裕一と東京で再会したとき、東京帝国音楽大学の3年生で「プリンス」と呼ばれ、生徒の憧れの的になっていた。


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和