――最後は2位でフィニッシュ。悔しさと達成感、どちらが大きかった?

「半々ですね。前年最下位のチームがいきなり優勝できるほど簡単ではないと思うし、ヴェンゲルにも(第2ステージを制した)ヴェルディとの差は果てしなくあると言われていて、その通りだと感じていたので。ある程度満足感はありましたが、もっと成長したいという気持ちと、俺たちは強くなったんだってことを証明したいという気持ちがあって、それを天皇杯にぶつけた感じはありますね」
 
――その天皇杯で見事に優勝。クラブ初タイトルを勝ち取りました。

「俺たちは1年でこんなに成長したんだという事を示すんだっていう気持ちが、天皇杯の優勝に繋がったと思いますね。リーグで2位だったのが大きかったなと。自信はついたけど、納得も満足もしていない、そんな感じだった。だから、成し遂げられた時はすごく嬉しかったですね」

――ご自身にとっても初タイトルでした。

「もうヴェンゲルに感謝しかないというか、凄い人と出会っちゃったみたいな。ヴェンゲルのためにも勝ちたいという気持ちもありましたね。あの時のグランパスは、Jリーグの歴史の中で、最強チームに挙がるようなチームではなかったかもしれません。でもヴェンゲルが率いていた95年、96年のグランパスが好きだっていう人は多い。いまだに僕もそう言われますし、記憶に残るチームだと思うんですよね。

 記憶に残るチームというのが、ヴェンゲルの言うところの『流儀』ですよね。流儀があるチームは記憶に残るという事をよく言っていたので。スタイルを貫くことが大事だと。もちろん勝ち続けることも重要ですけど、自分たちのスタイルを貫くことによって流儀が確立されていって、見に来た人たちが『グランパスのサッカーは見てて楽しいよね』と言ってくれた。毎試合超満員だったので、やっててすごくやりがあった。天皇杯決勝ももちろん満員だったし、グランパスの美しいサッカーを見せるんだ、という意識が強かったですね。ジュビロや鹿島、ヴェルディみたいな本当に強いチームとは違うかもしれないですが、たった1年半でしたけど、ヴェンゲルが率いたグランパスのサッカーは人々の記憶に残っていると思う。それこそが、最終的に自分たちが一番意識してプレーしていたところなんです」
 
取材・文●江國 森(サッカーダイジェストWeb編集部)
協力●DAZN

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