天然とんこつラーメン店「一蘭」は、感染予防という観点で脚光を浴びています(写真:編集部撮影)

「コロナ対策で、座席が仕切り板で区切られてました!」

「席と席の間に仕切りができてた! 隣を気にしなくていいのが最高!」

「おー、二郎があの一蘭スタイルに!」

「ジロリアン」と呼ばれる熱狂的ファンを持つラーメン店チェーン「ラーメン二郎」が衝撃的な感染リスク防止策を取り入れたと、ネットで話題になっています。カウンタ1席に簡易的な仕切りをつけて、隣の客と隔離した状態でラーメンを食べることができるようにしたのです。

ラーメン二郎のカウンターに仕切りが

東京都千代田区を中心に数店舗を展開する、とあるラーメンチェーン店でも、今月から営業を再開すると同時に、カウンターでは客が座る間隔をこれまでよりも広くし、席と席との間にアクリル板を設置しました。

九段下店の中野店長(仮名)は「カウンターの仕切りはお客さんからも好意的な声が多いです。これからもお客さんの安全第一に対策を徹底していきたい」と、意欲的な表情を浮かべながら話してくれました。「外食は自粛していたが、こうした仕切り板を設けてもらうと安心して食べられる」とお客さんの反応も上々です。

ラーメン店は、そもそも小規模店舗が多く密になりやすい業態です。お客さんがせきやクシャミをしたとしても飛沫がダイレクトに自分側に届きにくくなるのはもちろん、隣のお客さんがラーメンをすすったときにスープが飛び散るといった問題を防ぐという点においても、効果的な工夫かもしれません。

営業再開が本格化する飲食店において、こうした新しい食の様式への模索が始まっています。

東京都は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休業要請について、6月19日から全面的に解除すると発表しました。現在は午後10時までの時短営業を求めている飲食店も、19日からは営業時間の制限が撤廃されます。感染状況は落ち着きつつあると判断し、経済再開をさらに進める方針です。

政府は19日からは都道府県をまたぐ移動や、接待を伴う飲食店に対する自粛要請を全国的に解除する予定で、都も国と足並みをそろえます。都は感染再拡大の恐れがあるとして今月2日に発動した独自の警戒情報「東京アラート」を11日に解除。あわせて12日午前0時から、休業要請の段階的な緩和措置を、現状の「ステップ2」から「ステップ3」へ移行。

ステップ3ではカラオケ店や遊園地、ゲームセンターなど遊興・遊戯施設への休業要請が解かれました。足元の新規感染者数に大きく増える傾向がみられないことから、19日からはさらに解除の対象範囲を広げます。

一方で、人出が戻らない繁華街からは悲観的な声が聞こえてきます。新橋で立ち飲み居酒屋を営む小松さん(仮名)は、「『ステップ3』になっても客は来ない。テレワークでオフィス街に来る人も少ないし、飲み会を禁止している会社もあるし」と、沈痛な表情を浮かべます。

確かにJR新橋駅の周辺では、依然として空席の目立つ居酒屋が目立ちます。店員が大声でお客さんを呼び込む声が響くなか、行き交う人々の多くは足早に駅に向かっていました。

外出の自粛がやっと緩和されたことだし、外食したい、飲みにも行きたい。だけど感染拡大前のように街に繰り出してもいいものか――。悩ましさを感じる人は少なくありません。

「ゴハンに誘われたけど、なんとなく怖くて……」。日比谷のオフィスに勤務する長岡さん(仮名)は、まだ外食する気になれないと話してくれました。「久しぶりに出社して、仲のいい同僚の顔を見たら、そりゃ一杯行きたくなりますけどね。でも誘っちゃっていいものか……」と、テレワーク明けの田原さん(仮名)は周囲への忖度を口にしていました。

「店も営業再開し始めたし、なじみの店には顔を出したい。東京アラートも解除された。でも全開でアクセル踏んでいいのか。なんか気持ちのどこかでは、まだブレーキ踏んでますよね」。こう続けた田原さんの言葉は、まさに現状の日本国民の気持ちを代弁しています。

メニュー表を廃止、自分のスマホで注文

政府が公表した「新しい生活様式」では、食事について「対面ではなく横並びで座る」「大皿は避けて、料理は個々に」「おしゃべりは控えめに」などと記載されています。外食するには、利用する側の努力や配慮と同時に、飲食店サイドの「感染防止への対応策」が求められています。

「従業員のマスク着用」や「アルコール消毒液の設置」などの対策は、すでに多くの飲食店が実施していますが、なかには利用客に安心してもらうために、独特の工夫を施している店もあります。

東京駅近辺の八重洲にある居酒屋では、常時ドアを開放し換気しつつ、入店時には「検温」、除菌ペーパーでスマートフォンを消毒するなど、かなり細かな感染防止体制をしいています。しかも、こうした対策をきちんと実践するために、専任の「消毒担当スタッフ」を店頭に配置するといった徹底ぶり。

また日本橋にあるイタリアンレストランでは、不特定多数の人が触れるメニュー表を廃止しました。各テーブルにQRコードを設置し、お客さんが自分のスマートフォンで読み取り注文するシステムに変更し、衛生面に配慮しているのです。冒頭で紹介した「ラーメン二郎」の仕切り板もそうですが、少しでも安心して来店できる環境は、お店の業績を左右する極めて重要なファクターといえます。

そうした安全面の観点から評価を高めているのが、天然とんこつラーメンの「一蘭」です。「一蘭」といえば、「味集中カウンター」と呼ばれる1人席スタイルが特徴。店員や他の客に気を取られることなくラーメンに集中してもらいたいという意図から、目の前にすだれ、横に仕切り壁がある独特の客席で、全店で導入されています。この一蘭スタイルが、新型コロナ流行以降、感染予防という観点で脚光を浴びているのです。


一蘭」で取り入れている「味集中カウンター」が、飲食店のニューノーマルとなりうるかもしれません(写真:編集部撮影)

一蘭なら安心」「一蘭が開いててよかった」など、ネットでも好意的な書き込みが相次いでいます。本来は純粋にラーメンを味わうための仕組みだった「味集中カウンター」が、お客さんと店員、あるいはお客さん同士の接触機会が極端に少ないという特徴によって効果を発揮し、注目を集めるのだから、世の中わからないものです。実際に、感染症専門家から、仕切り壁は飛沫感染予防に効果があると認められているそうです。

しかも「一蘭」は、このコロナ禍の逆風をつき新店をオープンさせるほどの勢いです。その新店では、除菌マットの設置、キャッシュレス対応の食券機の導入など、一層の防止策が取り入れられています。また、ある店舗で試験的にエアシャワーやサーマルカメラを設置し、効果を検証しつつ、さらなる衛生管理に取り組むなど、全店での感染予防対策により注力していく方針を打ち出しています。

飲食店のニューノーマル

味集中カウンターというストロングポイントに気づいた「一蘭」は、一気に安全性ブランディングで攻勢をかけようとしているのでしょう。コロナ禍における「一蘭」の奮闘は、客足が伸びずに頭を抱える飲食店において大きな勇気となるはずです。

お客さんへの「安心」の提供は、業績面の回復に大きく貢献してくれそうです。また、この「安心」は、当然ながら従業員へも提供されることになります。従業員の安定稼働は、いつの時代も店舗を運営するうえでの大きな財産です。

「ラーメン二郎」が設置した仕切り板のお手本は、どうやら「一蘭」にありました。ほかのラーメン店でも仕切り設置に追随する流れが生まれています。ひょっとしたら数年後のラーメン店では、カウンターが仕切られていることが当たり前の光景となっているかもしれません。そういえば、一部のカフェなどでもアクリル板の仕切りを設置するお店が現れています。

美味しいものをより安全に。ラーメンの味に集中するために開発されたカウンターの仕切りが、「飲食店のニューノーマル」となりうるひとつのカタチを提示しています。