小池都知事、したたか「再選戦略」のもやもや感
小池百合子都知事は告示直前の6月12日にようやく出馬表明した(写真:時事)
東京都知事選が国会閉幕直後の6月18日に告示される。投開票日の7月5日に向け、すでに立候補予定者の選挙活動がスタートしている。
再選を狙う小池百合子都知事は、告示直前の12日夕になってようやく出馬会見を開き、告示後も「オンライン選挙」と称して街頭には立たない方針を示した。
コロナ対策の節目で出馬表明
コロナショックが続く中、自民、立憲民主の2大政党がいずれも独自候補擁立を見送った異例の都知事選。15日にはれいわ新選組の山本太郎代表が出馬表明したものの、野党同士のあつれきが拡大するだけとみられている。政治的には「小池氏の信任投票」の構図となり、出馬表明のタイミングも含めて小池氏の再選戦略のしたたかさばかりが際立っている。
小池氏は12日の出馬会見で、「コロナ対応に一定のめどがついた」と強調。「東京大改革2.0」と書いた大きなフリップを掲げ、都政1期目の成果を自賛したあたりは「首都の女帝の自信」(自民都連)ともみえた。
直前に再燃した学歴詐称疑惑を全否定し、6月2日に発した東京アラートも11日に解除した。12日午前零時からほとんどの業種への自粛要請を解除する「ステップ3」に進めるなど、コロナ対策の節目に出馬表明するという用意周到さも際立った。
小池氏は当初、コロナ対策の補正予算が成立する都議会最終日の10日に出馬宣言する予定だった。しかし、学歴詐称疑惑で自民党などが「卒業証明書の開示」を求める決議案を提出する一方、東京アラートも点灯中だったことから先送りしたとみられている。
8日にカイロ大学が「小池氏の卒業は間違いない」などとする公式声明を出したことで自民党が決議案を取り下げ、都議会は一部会派の同案もあっさり否決して閉幕。「卒業証書をみせろ」とのヤジの中で退席する小池氏は無表情を装い、知事選出馬にも一切触れなかった。
12日は毎週定例会見が予定される金曜日だった。午後2時からの会見では「ステップ3にたどり着けたのは都民の皆様のご協力があったから」と繰り返し、「ウィズ・コロナの新たなステージに立っている」など、いつものようにカタカナ英語を乱発し、記者団を煙に巻いた。
出馬表明会見は同日午後6時から始まり、小池氏は首に前回の都知事選を想起させる緑が目立つスカーフを巻き、4年前に掲げた「東京大改革」のさらなるバージョンアップを目指すと胸を張った。
合わせて「前回の崖から飛び降りる覚悟と同じ気持ち」と原点復帰をアピール。就任時の公約だった待機児童数の減少や無電柱化の推進などの実績を数字入りグラフなどを使って誇らしげに説明したうえで、2期目の公約として「稼ぐ東京の実現」などを打ち出した。
街頭演説避け、オンラインで選挙戦
選挙活動については、「現職知事なので公務最優先」と強調。3密の恐れがある街頭演説などを避け、「オンラインのポストコロナ選挙」を展開する考えを示した。都知事選は「究極のイメージ選挙」とされ、前回は街頭演説に詰めかけた聴衆が緑に染まる「百合子劇場」で圧勝したが、「今回は対立候補がコロナで手足を縛られると読んで、公務を最大の選挙活動にする」(周辺)。
出馬会見は側近の女性都議が司会役となり、冒頭約15分は小池氏の出馬表明演説、残る30分余りを質疑に充てた。冒頭演説の多くはコロナ対策に割かれ、「第2波に備えるための東京CDC(疾病予防管理センター)創設」などをアピールしたが、2期目の政策については「別途、会見する」と詳しい説明を避けた。
演説の最後には選挙戦術にも言及し、「政党の推薦は求めることなく、都民のご推挙を得るべく戦いに挑みたい」と自民・公明両党などの支持や推薦は受けない方針を明らかにした。小池氏の再選支持を表明している自民党の二階俊博幹事長らへの肩透かしともみえたが、二階氏には事前連絡済みとした。これを受けて自民党は自主投票を決めたが、同党都連幹部は「自民党の推薦を受けないほうが有利と読んだ小池氏の戦略のしたたかさ」に苦笑する。
その後の質疑応答で「4年間の任期を全うするのか」との質問に、「これからもう一度都知事になろうかということですので、その質問はどうかな?」と笑顔ではぐらかし、「国政への転身は考えていないのか」とのダメ押し質問には「はい、現在は考えておりません」と、状況次第ともとれる微妙な言い回しで否定してみせた。
刊行されたばかりの『女帝 小池百合子』で再燃した、カイロ大卒との学歴を詐称したとの疑惑についての質問が飛び出したのは会見開始から約30分後。フリーランス記者が「経歴を証明するため自ら卒業証書などの原本を提示することは可能か」とただすと、小池氏は不快そうな表情で、「私はすでに原本も示し、カイロ大学からも正式にお認めいただいている」と原本提示を拒否した。
カイロ大学の公式声明を盾にした答弁だが、都議会では「小池氏が外交ルートでカイロ大に根回ししたのでは」(自民都議)と経緯の不透明さを指摘する声が多く、「待てば海路(カイロ)の日和あり、だ」(同)と揶揄されている。
会見を受けて、過去に小池氏が公開した卒業証明書の写真の拡大版を一部週刊誌が掲載したことも「何か裏がありそうだ」(同)との憶測が広がる。こうした中、小池氏は15日夜、政策発表会見の後に報道陣に卒業証明書を開示した。ただ、「卒業時に受け取ったものか」との問いには「時間が少しずれている」とあいまいな説明を繰り返した。
学歴詐称疑惑への問いかけは無視
12日の会見では学歴詐称疑惑についての再質問は小池氏や司会者に遮られた。50分弱での質疑打ち切り後に、記者団から浴びせられた「『女帝』について一言」との大声も無視して退席した小池氏。会見場には「なんだか、安倍首相のコロナ会見と同じ」(有力紙記者)とのもやもや感があふれた。
今回の都知事選には、立憲民主、共産、社民3党が支援する日本弁護士連合会の宇都宮健児・元会長、日本維新の会が推薦する小野泰輔・元熊本県副知事、NHKから国民を守る党の立花孝志党首が出馬表明。れいわの山本氏も出馬表明した。
山本氏については立憲民主党などが野党統一候補とすることを模索したが、山本氏の主張する「消費税5%」などで折り合えず断念した経緯がある。山本氏はれいわ単独公認での出馬に踏み切ったが、主要野党は「山本氏が宇都宮氏の票を奪うのは確実」(立憲民主)と苦々し気で、「結果的に小池氏の援軍になりかねない」(同)との皮肉な見方もある。
前回選挙のように、小池氏に対抗して自民・公明両党が支援する候補と野党統一候補がそれぞれ出馬した国政政党主軸の対決構図とは程遠い。選挙アナリストの多くは「このままなら現職が圧倒的に有利」と読む。オンライン選挙に徹するという小池陣営も、「最低でも前回得票を超える300万票以上で勝ちたい」(選対幹部)と自信をにじませる。
ただ、都内の新たな感染者が6月14日に47人、翌15日に48人も確認されたことは、小池氏にも打撃となりそうだ。緊急事態宣言下の5月5日(57人)以来の連続40人超えとなり、小池氏は「非常に積極的に検査を行った結果の数字」と平静を装っているが、多くの都民は「やはり第2波が襲来した」と受け止めている。今後の感染状況によっては、19日に全業種休業要請解除などを決めた小池氏への疑問や批判も拡大しかねない。
政界では「都知事選は何が起こるかわからない」(自民選対)が定説だ。大量動員など派手な動きを封じられての選挙戦となるが、SNS上の書き込みも多く、土壇場での山本氏の参戦も都民の関心度を高めるのは確実だ。政治的にも周到に組み立てられた小池氏の再選戦略だが、「コロナ対策や学歴詐称問題も含め、1つ歯車が狂えば圧勝の構図は簡単に崩壊する」(選挙専門家)との見方も少なくない。
「政界の女勝負師」と呼ばれる小池氏が、開票日の7月5日夜に満面の笑みで勝利宣言できるかどうか、まだまだ予断を許さない。