今回の補正予算で、地方には3兆円という巨額のお金が渡される。だがこのお金を目当てに「地方に害悪をもたらしかねない人たち」がうごめいている(写真:Road17 / PIXTA)

新型コロナショックから立ち直り、どこまで経済を回復させることができるのか。まさにこれが喫緊の課題ですが、地方においては今後注意しなくてはならないことがあります。それは国から地方に配られる新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」の活用方法です。

地方は8割外注、うち半分を「東京のコンサル」が受注


この連載の一覧はこちら

まず4月22日に閣議決定された1兆円の「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」(1次補正予算)は4月末に成立しました。

その後さらに2兆円の増額要請が全国知事会などからも出され、6月12日に第2次補正予算が成立しました。つまり、なんと合計3兆円の交付金が、地方のために使われることになります。

実はこの巨額のお金の活用を巡って、全国各地の自治体関係者には「ぜひ提案したいことがあるから時間をくれ」といった連絡が、東京のコンサルティング会社などから相次いでいます。

こうした東京のコンサルからの「営業攻勢」に応じていたらどうなるでしょうか。地方経済活性化において、せっかく地方に分配している予算を、東京に還流することは全くもって趣旨に沿いません。そればかりか、そもそも、過去の実績を見ると、そのようなコンサルティング会社が大きな成果をあげた試しもありません。

もともと第2次安倍政権の地方創生政策においては「これからは地方自治体がそれぞれの特色に沿って独自の戦略を策定すべきだ」という考えに立ち、配られた予算がありました。公益財団法人の地方自治総合研究所が、その行方を2017年に調査しています。

同調査によると、1342自治体のうち約8割が総合戦略の策定をコンサルタント等へ外注していたことがわかっています。さらにその受注額、受注件数をみると、ともに東京都に本社を置く組織が、外注全体の5割以上のシェアを占めていたことも分かっています。つまり、せっかく地方に振り向けられたはずのお金の4割以上(=0.8×0.5)が東京へ還流していたわけです。今回もまた同じことになるのでしょうか。

そもそも、「それぞれの地方が独自性を発揮して予算活用ができるように」と、地方が独自に策定する計画に対して、国が国庫からお金を出していたわけです。しかし、結果的には「東京のコンサルが受託して計画をつくって地方自治体に納品していた」という笑えない実態があったのです。

当時は「地方創生総合戦略バブル」などと呼ばれ、それこそ金太郎飴のように自治体の人口予測、産業構造、今後の予測みたいな同じような分析が載った、戦略などとは全く呼べないような「名ばかり総合戦略」が自治体に納品されていました。

結局、さらに「東京集中」が進んだ

そのような戦略をもとに、地方創生先行型交付金、地方創生加速化交付金という交付金が国の100%負担で配られ、さまざまな事業が提案されて、実行に移されました。今でも記録が残っているので、見てみると頭を抱えてしまうような事業などが乱立しています。

例えば、とある自治体では地方創生にかかわる相談を「年間100件受け付ける」というのが目標の事業(受け付けるだけ!)で2900万円。また別の自治体では、年間1750万円の売り上げ目標の事業になぜかそれ以上の3100万円をつけました。さらには、「産業革命遺産」の「スマホアプリ」に9500万円、林業の新たな従事者3名確保と商品を1つ開発するのに5000万円、と言った具合に、一読してわかるような、なかなか「悩ましい事業」に、大胆にも国の予算が気前よく配られていました。

これら一件一件が「高い」「安い」という話を言うつもりは今さらありません。しかし、地方創生政策が本格的に始動しこれらの予算が投入されて行われてきた結果、いいことはあったのでしょうか。2015年以降、「」東京圏への転入超過数」は年間約12万人から約14万人となり、減るどころか、むしろ増加していきました。もともと政府の目標には、2020年には東京圏の転出入を均衡させる高い目標があったのですが、今は語られなくなりました。

もちろん、安易に東京のコンサルや代理店などに投げてしまう地方自治体も大いに問題です。そろそろ、こうしたやり方では何も解決しないことに気づかなくてはなりません。東京のコンサルが相次いで今また莫大な国庫交付金を狙って営業を始めているようですが、そんな曲がりモノの営業に、地方自治体は飛びついてはいけないのです。

この5年間で費やした膨大な地方創生関連予算は、都市と地方の関係をよりよいものにすることはなく、むしろ東京集中を加速させるものだったのです。何よりも予算が東京から国にいき、国から地方に流れていったのに、その予算さえ東京に還流してきているわけですから、それでは全く話にならないのです。

今回の地方創生臨時交付金の4割程度は、例えば外食など、新型コロナで苦しんでいる地元の事業者への支援給付のために活用される、とされています。ということは、残りの6割はやはり地元の独自性が試されることになります。全体の予算が約3兆円なら約1.8兆円。これだけの貴重なお金を、東京のコンサルに食われてしまっては、地方にもう未来はありません。

地方が独自に稼ぎ、リターンを地元に投資し続る仕組み

本来、このような予算はどう使うべきでしょうか。大切なのは、地方が投資し、毎年稼ぎを作り利回りを生むこと。そして、そうしたリターンを地元のために投資しづつけるということです。

例えば、「アフターコロナ」では、自然環境の豊かな観光コンテンツの人気がすでに高まっています。私の周りでも、熊本県上天草など、一見立地不便であっても、熊本都市圏から十分アクセスできるエリアには、緊急事態宣言解除後に多くの人がすでに戻ってきています。

今回の交付金は、こうした今後の自然を活かした観光などのために使われるべきです。港湾や河川、公園のような既存の公共資産を活用して、宿泊、飲食、アクティビティが行えるように整備することに投資するのです。

そして、そこでは熱心に事業に取り組む民間事業者から、自治体がリーゾナブルな占用料をとるようなことを模索すべきなのです。こうした一連の流れをつくれば、「交付金を配って、それを一過性のイベントで使って終わり」ではなく、お金は継続的に地域の稼ぎとなり、自治体にも歳入をもたらします。地方はその歳入を活用して、地元の観光関係者へのサービス品質改善の教育訓練などにさらに投資し、単価を引き上げていくのです。逆に言えば、安いだけを売り物にするたくさんの構造を打破しよう、といったような緻密な戦略が必要なのです。

それには東京、あるいは首都圏の「ハイエナのように電話して営業してくるようなコンサル」は全く必要ないのです。そもそも、電話してくるようなコンサルは暇で3流もいいところです。実績があり、実力のある人たちは常に仕事が多いものなのです。暇な人員を抱えているようなコンサルに、ろくなところはありません。

そんなところに絶対に騙されてはいけません。まずはわからないなりにでも地元の行政、民間だけで、今からでも取り組めることをやればよいのです。

もし、そのような挑戦が駄目になったとしても、結果としては、なんだかんだで地元でお金は回るわけなので、本来の地方に配る目的でつくられた交付金の役目を果たすわけですから、それはそれで良いのです。また、自分たちで考えて失敗した反省は、次の事業につながります。

この5年間で、いいように食われ尽くした、地方のために配られたはずの交付金。本来は、今回の新型コロナショックで落ち込む地方のために配られる交付金を、ハイエナのように寄ってくるコンサルに食われないよう、くれぐれも注意をしていただきたいのです。