今回のお題は、戦闘機に求められる能力の中でも中心であるところの、「交戦」に関わる部分。要約すると、「武器を発射して何かを破壊する」ための機能である。ただし、発射するには前段階の作業があるのに、そのことを見落としている人がいるように思える。

○敵機を見つけなければ格闘戦もできない

戦闘機同士のドッグファイトというと、大抵「敵機の後ろをとる」という話が出てくる。対進(互いに向かい合うように飛翔する状態)では彼我が接近する相対速度が高くなるので、その状態で空対空ミサイルを敵機に命中させようとすると、敵機の捕捉やミサイルの機動に求められるハードルが高くなる。ボヤボヤしていると「敵機に向けて旋回したけど間に合わない」ということにもなりかねない。

それと比べると、後ろから追うほうがマシ。相対的な角度や距離の変化が少なくなるから、その分だけ狙いを付けるのは容易になる(比較の問題だけど)。だから、後ろをとるほうがミサイルを命中させやすい、という考え方には理がある。これは機関砲を撃つ場合も同じ。

こんなことを書くのも何だが、これまで数多の映画やアニメのテーマになってきたことでおわかりの通り、戦闘機同士の格闘戦は人の血をたぎらせるものがある。映画『トップガン』が大当たりして、とうとう数十年の時を経て続編が作られてしまったのは、たぶん、そういう理由もあると思う。

しかし。敵機の後ろをとるには、まず敵機の所在と針路を把握しなければならない。格闘戦の重要性を喧伝する人は往々にして、その前段階である敵機の発見は「実現できているもの」という前提でものをいっているように思えるのだが。

素人レベルの話だが、ジェット機の轟音が聞こえた時に空を見上げて、パッと轟音の元を見つけられるものだろうか? よほど低いところを飛んでいる場合でもなければ、キョロキョロしてしまうのではないか? 音という手がかりがあってもこれなのに、戦闘機のパイロットは音に頼れない。目視と機上のセンサー群しか使えない。

しかも、「後ろをとる」には、位置を把握するだけでは駄目で、進行方向も把握しないといけない。スピードが速いだけでなく、欺瞞塗装を施している相手だから、難易度はアップする。まして、これからは対レーダー・ステルス設計を取り入れた戦闘機が飛来すると考えなければならないから、さらに難易度は上がる。

戦闘機同士の戦闘において、地上のレーダーサイト、あるいはAWACS(Airborne Warning And Control System)機による管制が大事な理由は、そこにある。"神の目から" 全体状況を俯瞰して、その中で味方の戦闘機に状況を知らせるとともに最適な位置に誘導することは、戦闘機が有利に戦闘を行う上で重要な要素。それを無視して戦闘機単独の能力の話だけに落とし込んでも、正しい答えは出てこない。

ステルス対策にしても、「カウンター・ステルス機能を備えたレーダーを戦闘機に積む」だけが解ではないだろう。そういうレーダーを外部に用意して、そこから情報をもらったっていい。

AWACS機に乗っている管制員が全体状況を俯瞰して適切な指令を出すことは、現代の航空戦において極めて重要 写真 : USAF

そこで何をいいたいのかというと、戦闘機単独ではなく、戦闘機を含めた「システムの集合体」(System of Systems)として目的を達成する、という考え方が求められるという話。そして、そこでコンピュータとソフトウェアとその他の情報通信技術をどう活用するか、を考える必要がある。

○正しいタイミングで正しい場所にいるために

システムで考えなければならないという例を、もうひとつ。

「F-4EJ改の後継機としてF-22ラプターが必要だ」と主張する人の中に、面白いことをいう人がいた。スーパークルーズ(アフターバーナーを使わないで超音速巡航ができる能力)ができなければ、スクランブルで上がった時に対象機のところまで行き着くのに時間がかかるから駄目だ、というのである。それをいうなら現行のF-15Jだって失格だ。

正体不明機のところに差し向けた戦闘機が接触した時点で、すでに領空侵犯されてしまっていた、なんて事態が起きないように、領空の外側に防空識別圏(ADIZ : Air Defense Identification Zone)を設けている。そこまで含めてレーダーで見張り、「正体不明機による侵犯の可能性あり」と判断した時点でスクランブル機を上げている。

アラスカ方面のADIZに入り込んできたロシア軍のTu-95爆撃機に対してスクランブル発進した、米空軍のF-22ラプター 写真 : NORAD

つまり、ADIZは識別のための時間的余裕を確保するためのものであり、それは領空より外にある。だから、ADIZに入って来ただけで「領空侵犯だ」といきり立つのは大間違い。と、それはそれとして。

機体の巡航速度の問題ではなくて、その防空指揮管制システムの運用に関する問題、というのが事の本質。なのに、それをスーパークルーズの必要性につなげるのは筋が悪い。スクランブルに上げる適切なタイミングを判断するとともに、無駄に大回りしないで済むように誘導する仕組みを作るのが、本来あるべき解決策ではないか。

そこでキモとなるのは、防空指揮管制システムの中で針路予測と脅威評価を受け持つロジックの部分、そして戦闘機に針路を指示する機能である。どちらも基本的にはソフトウェアの問題だ。

探知目標ごとに、針路・速力に基づいて未来位置を予測する。そして「侵犯の可能性あり」と判断したら、遅滞のないスクランブル機発進のタイミングを割り出す。そして、最適な接敵針路を割り出して、データリンクで戦闘機に送る。本当に必要なのはそういう機能であり、まさに情報通信技術の領分である。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。