Jリーグが導入した
ホームグロウン制度とは(2)

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 Jリーグが昨季から導入したホームグロウン(Home Grown。以下、HG)制度。J1の各クラブに最低2人以上のHG選手の登録を義務づけるもので、それに満たないクラブは不足人数分(最大で2人)、プロA契約の登録選手枠(25人。AFCチャンピオンズリーグ出場クラブは27人)を減らされてしまう。

 昨季は松本山雅が1人しか登録できず、登録枠をひとつ失う憂き目に遭ったが、今季は全18クラブが2人以上のHG選手を登録し、この基準をクリアしている。

 HG選手の最低登録人数については、来季が3人、翌2022年シーズンでは4人に増やされることが決まっているが、今季最も少ない大分トリニータでも4人が登録されており、基準を下回る心配はそれほどないのだろう(2023年シーズン以降は未定。J2、J3も来季までは対象外だが、2022年シーズンは1人の登録が義務づけられる)。

 とはいえ、HG選手の登録人数増は、いわば手段であって、目的ではない。HG制度の真の目的は若年層の育成・強化であり、最終的にHG選手がトップチームに必要とされる戦力になれなければ、本来的には意味がないのだ。

 そこで、今季J1開幕戦を振り返り、各クラブのHG選手がどれだけ試合に出場できたか、あるいはメンバー入りできたか、を見てみたい。

 J1開幕戦に先発出場したHG選手は、総勢43人。以下は、先発出場が多かった上位7クラブ(先発3人以上)である。

・サンフレッチェ広島(登録15人)=先発5人、ベンチ入り3人
・ガンバ大阪(登録12人)=先発4人、ベンチ入り2人
・清水エスパルス(登録12人)=先発4人、ベンチ入り2人
・川崎フロンターレ(登録7人)=先発4人、ベンチ入り1人
・コンサドーレ札幌(登録9人)=先発4人、ベンチ入り1人
・FC東京(登録14人)=先発3人、ベンチ入り3人
・湘南ベルマーレ(登録5人)=先発3人、ベンチ入り0人

 最も多くのHG選手が先発出場したのは、5人の広島。ベンチ入りを加えた合計人数8人でも最多である。やはり広島をはじめ、概してHG選手の登録人数が多いクラブ――G大阪、清水、FC東京が、上位に名を連ねている。


今季開幕戦のスタメンで、ホームグロウン選手が最も多かったのはサンフレッチェ広島だった

 その一方で、登録人数そのものは多くないが、活用率の高さが目立つのが、川崎、札幌、湘南の3クラブ。なかでも際立つのが、川崎である。

 HG選手の登録人数は7人ながら、うち5人が開幕戦のメンバー入り。加えて言えば、J1開幕戦に先駆けて行なわれたルヴァンカップのグループリーグ初戦では、残る2人も含め、全7人がメンバー入りしている(先発5人、ベンチ入り2人)。HG選手の戦力化という点では、図抜けた成果を挙げていると言っていいだろう。

 対照的に、J1開幕戦の先発メンバーにHG選手がひとりもいなかったのは、ヴィッセル神戸のみ(ベンチ入り2人)。そこには、豪華補強と表裏一体の現実が浮かび上がる。

 しかしながら、単純に1クラブ平均で言えば、2、3人のHG選手が開幕戦に先発出場していることになるのだから、総体的に見て、HG選手が実際の戦力としてかなり活用されていると考えていいだろう。

 さて、ここまでHG制度の現状について見てきたが、この規則の面白いところは、ひとりの選手が複数のクラブでHG選手になりうる(条件を満たせる)、という点だ。

 つまり、12歳から21歳までの10年間で、合計3年間所属すればいいのだから、理屈のうえでは、最大3クラブでHG選手の条件を満たすことが可能になる。仮に、中学3年間は横浜F・マリノスのジュニアユースチームに、高校3年間は横浜FCのユースチームに所属し、高校卒業後は湘南に入ってトップチームで3年間プレーした選手がいたとすれば、その選手は3クラブのいずれに属したとしても、HG選手として登録できることになる。

 実際、今回Jリーグから発表されたHG選手のなかには、他クラブでもHGの条件を満たす選手が存在する。たえば、広島のHG選手である荒木隼人(広島ユース出身)は、小中学時代はガンバ大阪のアカデミーに、名古屋グランパスの青木亮太(流通経済大柏高出身で3年以上プレー)にしても、同じく東京ヴェルディのアカデミーに所属していた。

 現在、J1クラブの登録選手のなかには、さすがに3クラブでHGの条件を満たす選手はいないようだが、2クラブでとなると、それほど珍しいものではない。制度の本来的な意味から言えば、ひとりの選手が複数のクラブでHG選手になりうることは、ある種の矛盾をはらんでいる気もするが、あまり条件を厳しくすると、実際の運用が追いついてこないことにもなりかねないのだろう(注:本稿におけるHG条件を満たすか否かは、Jリーグ発表による各選手の所属歴から判断しており、厳密に登録日数を確認したものではない)。

 また、自クラブで育成期間を過ごしながら、現在は他クラブでプレーしている選手、いわば、”HG有資格者”が相当数いるのも間違いない。HG有資格者は、現行の制度下では自クラブの成果と見なされないのだとしても、広くJリーグ全体の強化という視点に立てば、そうした選手を数多く輩出しているクラブの貢献度は高いと言えるだろう。

 ならば、各クラブの育成実績をさかのぼって評価すべく、HG卒業生だけでチームを編成したら、一番強そうなのはどのクラブだろうか。そんなことを、あくまで独断と個人的好みで考えてみた(ただし、対象とするHG有資格者は現在J1クラブに所属する選手のみとした)。

 とはいえ、いざチームを編成するとなると、なかなか難しい。

 たとえば、広島のHG卒業生には、いずれも広島ユース出身のDF槙野智章(浦和レッズ)、MF高萩洋次郎(FC東京)、柏木陽介(浦和)などがおり、顔ぶれは豪華だ。しかし、チームを組むとなると人数不足で、FWをはじめ、駒不足のポジションが出てきてしまう。

 セレッソ大阪も同様で、C大阪U−18出身にはMF山口蛍(神戸)、MF扇原貴宏(横浜FM)、FW杉本健勇(浦和)らがいるが、頭数が少々足りない。

 また、特筆しておきたいのは大分トリニータで、今季登録されているHG選手はJ1最少の4人に過ぎないが、HG卒業生は人材豊富。大分U−18出身のGK西川周作(浦和)、DF松原健(横浜FM)、MF清武弘嗣(C大阪)、梅崎司(湘南)、東慶悟(FC東京)に加え、高卒後3年間所属のDF森重真人(FC東京/広島皆実→)、FW金崎夢生(名古屋/滝川第二→)と、錚々たるメンバーがそろう。

 ただ、大分にしてもわずかに人数不足。そのうえ、松原の他にDF中村拓海(FC東京/大分U−15出身)、DF岩武克弥(浦和/大分U−18出身)と、右サイドバックに人材が偏っており、チーム編成が難しい。非常にもったいないが、”幻の最強チーム”としておこう。

 では、各クラブに一長一短があるなかで、HG卒業生だけで11人そろえられ、かつポジション的なバランスも取れそうなクラブはどこか。

 やはり育成年代で多くの実績を残している4クラブ、FC東京、G大阪、柏レイソル、横浜FMが残る。


( )内は、現在の所属クラブ/HG条件。AC=アカデミー出身。〇〇高卒=高卒後に3年以上所属。以下同







 こうして見ると、FC東京は中盤から後ろに人材が偏り、柏はバランスはいいものの、J1実績でやや劣る印象。あえて最強チームを選ぶとすれば、年齢、実績、ポジションなど、全体的なバランスが取れているG大阪と横浜FMが双璧だろうか。

 しかし、これらのJ1クラブとは別に、絶対触れておきたい”隠れ最強チーム”がある。それが東京ヴェルディだ。

 現在、J2の東京Vは、HG制度の対象外。HG選手の保有義務はもちろんない。だが、J1クラブでプレーするHG卒業生は数多く、前記の4クラブをもしのぐチームが組めるほどだ。

 欲を言えば、もう少しFWらしいFWがいれば言うことなしだが、それでもヴェルディ出身らしいテクニカルな選手が多く、面白いサッカーを展開してくれそうだ。



 今後、HG選手の登録義務が段階的に拡大していくなかで、いずれは登録義務だけでなく、出場義務が加えられる可能性もあるだろう。

 しかしながら、育成の成果は、必ずしも自クラブで挙げるものとは限らない。自分たちのアカデミーで育った選手が他クラブに移り、環境を変えて活躍する。そんな選手が増えることは決して悪いことではない。

 だとすれば、自クラブに登録されたHG選手だけで育成の成否を判断するのではなく、他クラブに所属するHG有資格者を加えた評価方法があってもいいのではないだろうか。そうすることで、勝敗だけでは見えてこない、育成型クラブの存在意義もきっと高まるはずである。