「エール」50話「音は何ひとつ諦める必要はないんだから。その為に僕はいんだから」全女性に贈りたい明言

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第10週「響きあう夢」50回〈6月5日 (金) 放送 作・清水友佳子 演出・吉田照幸〉


50回はこんな話

音(二階堂ふみ)はつわりがひどくて「椿姫」の稽古を2週間も休んでしまう。
稽古に参加したい気持ちと体調が追いつかず苦悩する音に、裕一(窪田正孝)が、夫として音楽家として、愛のある厳しい言葉を伝える。
主役を降板し学校も退学した音は、半年後、女の子を出産した。

名言1「与えられた役を磨き上げるだけ」

「エール」50回。全体の3分の1が過ぎて、裕一と音が親になる。少しずつ成長していくふたり。
50回は珍しくアヴァンがなく、主題歌はじまり。
「きっといつか今日の日も意味をもって」と歌うGReeeeNの歌詞が響いた回であった。

主題歌あけて、学校。「椿姫」の稽古場。音が休みで場の空気が重い。
千鶴子(小南満佑子)は出演者仲間に椿姫の代役の練習をはじめたほうがいいと提案されるが、毅然と、今の自分に与えられた役を磨き上げるだけと断る。「役を磨き上げる」とはなんて素敵な言葉であろうか。

千鶴子は本当に真面目な人だ。演出家の指示がなければ余計なことをしない。本来、この世界、いつでもいい役をやれるように、ひそかに稽古をしておくもの。誰かやれる者はいないか? 聞かれたら速攻手を挙げる。そういう準備をしてないとやっていけない。でもきっと千鶴子はやれと言われたらやれるくらい椿姫を稽古していると思う。

千鶴子の毅然とした台詞をはじめとして、50回は名言だらけだった。それを記していきたい。

名言2「赤ちゃんの母親である前に、奥さんだってひとりの人間ですよ」


稽古場の様子を裕一に伝える久志(山崎育三郎)。すっかり、鉄男(中村蒼)のおでん屋がたまり場化している。
メンバーは、裕一、久志、鉄男と「船頭可愛や」を歌った藤丸こと下駄屋の娘(井上希美)。
紅一点の藤丸は、男たちがわかってない女性の気持ちを酔った口調で代弁する。

「赤ちゃんの母親である前に、奥さんだってひとりの人間ですよ」
「奥さんの心の内を想像して寄り添ってあげなさいよ」

藤丸はきっと酔っているから言えたのだろう。わりとおとなしそうな人に見える彼女だからシラフではきっとこんなこと言えない。

藤丸が指摘した、裕一が子供のことしか考えていないということは、49話の窪田正孝のやたらはしゃいだ演技に表れていた。49話のレビューで書いたように、裕一の喜びっぷりは音を知らず知らずに追い詰めてしまう裕一を、窪田が演じていたのであろう。

名言3「音は何ひとつ諦める必要はないんだから」

裕一がおでん屋から戻ってくると音がいない。学校まで探しに行くと、暗い教室で歌の練習をしている。
裕一は「作曲家として声楽家の君に伝えたいことを言う」と、

「君は舞台に出るべきじゃない」
「息が続かないのは致命的だ。美しいメロディーも表現できないし、聞く人を不安にさせる」
「そんな歌しか歌えないんじゃお客さんに失礼だ」

と音に言う。かなり辛辣であるが。

本当のことだったら、これ、誰かが引導を渡すべきことだっただろう。夫であり音楽家の裕一だから言えたこと。家ではそんなに彼女の歌を聞いてなかったのだろう。教室で聞いて、こりゃやばいと思ったのだろう。裕一の耳はかなりいいはずだから。


音は、ぴしゃりと裕一の頬を叩く。でも、裕一の指摘は音にはいやと言うほどわかっていた。
歌は稽古すれば上達する(かもしれない)音の感性、表現力に賭けた今回の抜擢だったのだろう。音も千鶴子に敵わない技術をなんとか埋めていこうと頑張ったのだろうけれど、その矢先の妊娠。妊娠は嬉しいけれど、タイミングが悪かった。人生、こういうことってあるもの。なんで、重なるんだろう? どちらもやりたいのにって。妊娠と仕事に限らずあることだ。

でも、音はすでに十分幸福であった。
「音は何ひとつ、なにひとつ諦める必要はないんだから。そのために僕はいんだから」
こんなこと言われて頭をなでられたら、もう十分である。椿姫、捨てるだろう。

裕一は「僕の作った曲で、君がおっきな舞台で歌う」という素敵な夢を音に託す。
ここが「きっといつか今日の日も意味をもって」のGReeeeNの歌詞と重なって聞こえるではないか。
今回、「椿姫」は難しいけれど、いつかきっと、この日、涙をのんだことが報われることがあるのだろう。

名言4「夢も子供も夫婦ふたりで育てていきます。彼がいてくれたから選べた道です」


音の選択を聞いた環(柴咲コウ)は「ほとんどの人がいばらの道でなく平穏な道を選ぶ」といささかがっかりしたふうだったが、音はまだ諦めてない。「夢も子供も夫婦ふたりで育てていきます。彼がいてくれたから選べた道です」ときっぱり。

あくまで穏やかに受け入れる環であるが、意気揚々と去っていく音を見つめる環の猫のような瞳に、柴咲コウが演じた「おんな城主 直虎」を思ってしまう。直虎は、おんな城主として、生涯結婚しないで井伊家を守った。「エール」ではいまのところ環のプライベートについて語られてないが、彼女の言動を見ていると、千鶴子のように、歌一本に生きているように見える。モデルになった三浦環は離婚歴があり、その後もとてもモテていたらしい。さて、双浦環はどうなのだろうか。今後、描かれる彼女のパリ留学時代のエピソードに期待する。

千鶴子さん、その後

学校をやめて半年、家で出産準備の音は、お腹をパパパパパ……と歌いながら叩く。これは、49話の千鶴子の指使いと呼応する。音もようやく落ち着いて、音楽と子供への愛情が芽生えたように思う。

そこに千鶴子からのはがきが届く。
この手のドラマの展開だと、結局、千鶴子が椿姫をやることになるものだが、その経緯は描かれず、千鶴子がジュリアード音楽学校に留学してラフマニノフ先生の特別講義を受けていて、裕一と音を羨ましがらせる。

出産時の、音の絶叫は、さすが、声楽家であった。


「自分のことしか考えていませんでした」

椿姫降板にあたり、環にこのように語る音。自分の野心ばかり考えた末、彼女が2週間も休んだ末、代役を立てることになって「椿姫」の稽古は大変であろう。彼女に期待した環の気持ちなども無駄になった。自分のことしか考えてなかった音が今後は、夫と子供のことを考えることにした。それ以外の人たちのことは結局スルーである。

こういう人は現実にたくさんいて、周囲のことを気にしていろいろ身動きがとれない人が割を食いがち。音みたいな人もいていいけれど、みんながみんな、音みたいになればいいっていう話ではなく、周囲に気を使ってしまう人にも希望のある物語を描いてほしい。
(木俣冬)

東京編の主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。

廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作をもつ人気作曲家。モデルは古賀政男。

山藤太郎…柿澤勇人 人気歌手。モデルは藤山一郎。
小田和夫…桜木健一 ベテラン録音技師。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。

佐藤久志 …山崎育三郎 東京帝国音楽大学の3年生。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄夫 …中村蒼 裕一の幼馴染。川俣で新聞記者をやっている。詩を書くことが好き。モデルは野村俊夫。

夏目千鶴子 …小南満佑子 東京帝国音楽学校の生徒 優秀で「椿姫」のヒロインに最も近いと目されていた。

筒井潔子 …清水葉月 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはソプラノ。
今村和子 …金澤美穂 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはアルト。

先生 …高田聖子 東京帝国音楽大学の教師。
双浦環 …柴咲コウ 著名なオペラ歌手。モデルは三浦環。






番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和