暴走するカリオカのトランプ、ボルソナロ大統領
Marcelo Camargo/Agência Brasil(CC BY 3.0 BR)

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◆無礼な大統領にメディアが会見ボイコット

 5月25日、ブラジル最大メディアの「Globo」はアルボラダ大統領官邸での取材には今後出席しないことを決めたと発表した。取材班が赴いてもボルソナロの支持者から罵声や怒声が浴びせられて、取材業務を安全に遂行する保障がないからだとした。
 それにすぐに追随したのがブラジルで最大の発行部数を持つフォーリャ・デ・サンパウロ紙だった。他のメディアも同様の姿勢を取るか否か検討中だという。(参照:「Infobae」

 メディアが今回の決定を下したのも、ボルソナロ自身のメディアへの誹謗がある。例えば、5月6日に起きた出来事だ。彼に同行しての取材で、ある記者がボルソナロが連邦警察の長官を変えようとしていることについて質問すると、ボルソナロは「口をつむげ!そのような質問は受けない」と憤りながら返答をした。それも彼の支持者に囲まれた中での彼からの無礼な返答であるが故に支持者がそれに便乗して記者に危害を加えるのも容易な状況にあったという。(参照:「El Mundo」)

◆越権行為を繰り返す大統領に最高裁判事も鉄槌

 ボルソナロにとってメディアは敵でしかない。4月22日の閣議の様子を録画したビデオを最高裁判事セルソ・デ・メロは一般公開することを許可した。ブラジルの誰でもそれをテレビで見ることができるようになった。このビデオでボルソナロは「連邦警察の長官を変えることが出来ないのなら、大臣を変えてやる」と言っているのが明らかにされている。大統領の権力の乱用と越権行為が明らかにされたビデオである。
 それに対しても、ボルソナロはツイッターとファイスブックを介してセルソ・デ・メロ判事がこのビデオの公開を許したのは違法行為で逮捕するに値するものだと述べたのである。ボルソナロの見解に賛成するかのようにウエイントゥラウブ教育相も最高裁判事は刑務所に送られるべきだと表明。

 ボルソナロからの批判に対してセルソ・デ・メロ判事はビデオの内容は明らかに犯罪に繋がる内容のもので、セルジオ・モロ前法相の弁護にはその公開は正当づけられるものだとした。そして、ボルソナロが指摘していたビデオの公開は国家の安全を損なうものだという見解を退けた。(参照:「El Pais」)

◆ボルソナロの独善的行動に軍部が同調

 更に、ボルソナロは攻撃を緩めることなく、次の標的を下院議長ロドリゴ・マイアに向けた。
 ボルソナロを罷免させようとする嘆願書をすべて却下させるためである。今のところ罷免できるだけの十分なる議席は確保されていない。次に最高裁のアレクサンドゥレ・モラエス判事への批判だ。というのは、連邦警察長官にボルソナロが信頼しているアレクサンドゥレ・ラマゲンの任命を却下したからであった。

 最高裁への批判は大統領府安全保障相アウグスト・エレノ将軍からも上がった。最高裁が捜査の対象物件として大統領の携帯電話の引渡しを要請するのは国家の安定を損なうのに計り知れないものがあると指摘したのである。それに共鳴するかのように国防相フェルナンド・アゼベド将軍もそれにに同意を表明した。
 更に、退役した89人の軍人も先月24日、ボルソナロに味方して、最高裁のこの要請を批判。(参照:「El Pais」)

 ボルソナロの閣僚22人の中で軍人が9人もいるというのは脅威である。ボルソナロ自身も昨年11月に左翼の勢いが活発になった時に軍事政権を望んでいることを表明したことがあった。(参照:「HispanTV」)

 ブラジルは20年余り軍事政権が続いたことがある。その後、1985年から民主政権が誕生して、その10年後にブラジルの発展の基盤を築いたフェルナンド・エンリケ・カルドゾ元大統領だった。彼は「今のところ軍人が政権に就くことを望んでいるとは思わない」と指摘している。(参照:「El Pais」)

 一方、ルラ元大統領はそれとは見解を異にして「(軍人)クーデター遂行者は既に我々のバルコニーに一つ足を突っ込んでいる。それに反応がない場合は、我々の扉を取り除くだろう」と述べている。(参照:「HispanTV」)

 仮にボルソナロを罷免しても、現副大統領のハミルトン・モウランは将軍だ。彼が大統領に昇格すれば自ずと軍事政権の成立を容易にさせてしまう。
 カルドゾ元大統領が指摘しているように、ボルソナロは大統領のポスト遂行できるだけの資格はない。だから、大統領のポストを担い切れない時が来るはずである。それが2022年の大統領選挙の前までに来れば、モウラン将軍が大統領に就任して必然的に軍事政権の樹立への道が開かれることになる。

 ブラジルは非常に危険な方向に向かっている。

<文/白石和幸>

【白石和幸】
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身