NHKドラマ・ガイド「連続テレビ小説 エール Part1」 →Amazonでチェックする

写真拡大 (全5枚)

第10週「響きあう夢」49回〈6月4日 (木) 放送 作・清水友佳子 演出・吉田照幸〉


49回はこんな話

音(二階堂ふみ)が妊娠。子育てするため音楽学校を辞めないといけないと覚悟するも、「椿姫」だけは絶対に成し遂げたい。母になる夢も歌手になる夢も両方叶えると誓う音。だが、周囲の反応は微妙なものだった。

音が妊娠


「え〜〜〜〜」
と裕一(窪田正孝)の素っ頓狂な声からはじまった49回。この「え〜〜〜」は「まんぷく」の福子(安藤サクラ)的なパターン。「明るく元気にさわやかに」は朝ドラヒロインの定義。窪田正孝は朝ドラヒロインを演じているのである。

音が妊娠した。裕一は大喜び。さっそく喫茶バンブーの夫妻にも報告する。恵(仲里依紗)は「妊娠は命がけの仕事だから」と裕一にアドバイスする。恵は体験あるんだろうか。さすがに「思い出すわ、私が出産したとき……」とは言い出さなかった。

音もさっそく、「椿姫」の稽古で妊娠を報告。演出家(千葉哲也)はてっきり降板するものと思って「残念だ」と言うと、やめないと返す音に、みんなびっくり。最初に「おめでとう」と祝福した久志(山崎育三郎)すら、ちょっと視線を落していた。山崎育三郎ってめっちゃキラキラ瞳のときと、ブラックな瞳のときの落差が激しい。

ほかの出演者は戸惑って、役を替えたほうがいいんじゃないかと影で言う。見かねた千鶴子(小南満佑子)は「やっぱりあなたは強欲ね」と音に注意。妊婦が座組にいることで「みんな思いっきり練習ができない」と苦言を呈す。

このときの千鶴子はテーブルでピアノを弾くように指を動かし、その指先のアップ。千鶴子が音楽と共に生きている人であることが伝わってきた。これぞ、脇役魂。脇役は、出番も台詞も少ない。千鶴子は最初に、歌の実力は学校随一みたいに説明がされて、演じているのがミュージカル俳優なので、実際に歌うシーンも説得力があった。

脇役は、メインの登場人物のように、たくさんの説明はされていない分、自分の身体で表現するしかない。でもこのようにピアノを弾く仕草で表現できるのである。音楽が体に染み込んでいることと、音に物申すことへのわずかなためらい、様々な思いが指の動きで物語られる。あっぱれ。

「どうして女だけ……」

二階堂ふみの歌は回を増すごとに磨きがかかっているような気がする。
「花から花へ」を生き生きと歌う。でもやっぱり最後の高音はきつそう。これはもうどうしようもない。これができたらオペラ歌手になるべきだろう。というか、まだ発展途上の演技をしているだけかも。二階堂ふみならありえる。

せっかく歌は上達しているのに、体調は次第に変化していく。ご飯を炊いたらつわりの症状が。うっと口に手を当てることなく我慢する音。あわてて手伝おうとする裕一を退ける。「平気だって! 病気じゃないんだから」という表情が険しい。

裕一はただただ妊娠を喜んで、早くもいろんなおもちゃなどを買い込んではしゃいでいる。このときのひたすら無邪気な感じが音の気持ちを逆なでしているように思う。裕一はそれに気づかないが、窪田正孝はわかってこういう演技をしているのだろう。そこが面白い。窪田正孝と二階堂ふみはすごく状況を汲んで適切な演技を選んでいると感じる。


体が思うように動かないので苛立ちが募っていく音。そのうち「裕一さん代わりに産んでよ」とまで。
2週間、つわりがひどくて練習に参加できなくなってしまう。

「どうして女だけ……」と、音が朝ドラヒロインのような終わり方だった。

「プロは子供が死にそうでも舞台に立つもの」


新婚の吟(松井玲奈)がみかんを持ってお見舞いに来て、やはり舞台に立つことを反対すると、音はすごい顔をして怒る。帰りがけ、「いいなあ、赤ちゃん……」と言って去っていく吟の気持ちはいかに。
余談だが、吟のポンチョ型のコートがかわいかった。

ゆりかごを規則的に揺らしながら鼻歌を歌っている音。これがまたホラーっぽい。歌が好きな人というより何か追い込まれている人にしか見えない。音は本来の音楽をやる喜びを忘れてしまって、「仕事も」「家庭も」もどちらも獲得するということに縛られているのだと思う。

すっかり塞いでいる音の元に、環(柴咲コウ)が現れる。みんな腫れ物に触るように接してくるなかで、環だけは普通に接してくれるが、それは優しさでも親切でもなく「(音には)責任があるから」だった。

「プロってね、たとえ子供が死にそうになっていても舞台に立つ人間のことを言うの」

環は誰よりも厳しいことを音に突きつけた。「親の死に目に会えない」というのと同じ。なによりも仕事を優先することを音はできるのか。環は、音が少女のときに出会ったときからぶれていない。音が教会での琴の発表に遅刻して穴を開けたとき、どんなときでも舞台に穴を開けてはいけないと言っていた。だからこそ、彼女は妊娠しても舞台をやろうと思ったのだろうが、ことはそう簡単ではない。どうして、女だけ妊娠するのか、と思ってしまうのも無理はない。

そんなだから、子供を生み育て、仕事もしている人は本当にすごいなあと思う。でも、そうじゃない人がダメだとは思わない。人それぞれであって、こうであらねばならない ということに縛られないような世の中になることを願う。
(木俣冬)

東京編の主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。

廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作をもつ人気作曲家。モデルは古賀政男。

山藤太郎…柿澤勇人 人気歌手。モデルは藤山一郎。
小田和夫…桜木健一 ベテラン録音技師。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。

佐藤久志 …山崎育三郎 東京帝国音楽大学の3年生。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄夫 …中村蒼 裕一の幼馴染。川俣で新聞記者をやっている。詩を書くことが好き。モデルは野村俊夫。

夏目千鶴子 …小南満佑子 東京帝国音楽学校の生徒 優秀で「椿姫」のヒロインに最も近いと目されていた。

筒井潔子 …清水葉月 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはソプラノ。
今村和子 …金澤美穂 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはアルト。

先生 …高田聖子 東京帝国音楽大学の教師。
双浦環 …柴咲コウ 著名なオペラ歌手。モデルは三浦環。


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和