「SNSに溢れる「黒塗りの画像」は、過去の苦闘の記録を“塗りつぶす”ことになりかねない」の写真・リンク付きの記事はこちら

アンソニー・ウィリアムズがTwitterのタイムラインをスクロールしていると、黒塗りの四角形が画面を占領し始めた。6月2日になったばかりの深夜のことだ。

真夜中になると彼のフィードでは、「#blacklivesmatter」というハッシュタグに何が起きたのかわからず戸惑う人たちがパニック状態に陥っていた。フィードが突然、何万もの空っぽの画像で埋め尽くされ始めたからだ。社会学者で活動家でもあるウィリアムズがInstagramを開くと、グリッド全体がほとんど真っ黒になっていた。

こうした投稿は「#blacklivesmatter」のハッシュタグを完全に乗っ取り、「この数年間そこにあった情報源を、すべて追い出してしまいました」とウィリアムズは言う。「わたしたちが集まれる場所としてインターネットのこのエリアをつくり上げてきたのに、いきなり何ページにもわたって誰にも情報を提供できない黒塗りの四角形しか見えなくなってしまいました。非常に悔しいです」

そしてウィリアムズは、この件について次のようにツイートした。

「『#blacklivesmatter』のハッシュタグをつけて、黒塗りの四角形を投稿するのはやめてほしい。あなたたちは活動家が情報共有のために使ってきたスペースを(意図せずして)文字通り消去してしまっています。やめてほしい」

やがてノンバイナリー(男女の枠組みに当てはまらない第3の性)を自認するウィリアムズは困り果て、とうとう自身のスマートフォンからInstagramとTwitterを消去した。

抗議活動に重要な役割を果たしてきたSNS

米国における人種差別と警察の残虐行為に対する抗議活動を組織する上で、SNSは重要な役割を果たしてきた。ネット上では誰もが社会運動を始めることができる。TwitterやInstagramのようなプラットフォームを使えば、大勢の人たちに向けてメッセージを発信でき、複数の街をまたいで支援を連携させることができるのだ。

2014年のマイケル・ブラウン射殺事件は主流メディアが報じる前に、現場からの報告がTwitter上を駆け巡っていた。2016年にフィランド・キャスティルが警官に撃たれた事件は、被害者の恋人のダイアモンド・レイノルズがFacebookでライヴ中継したことで、たちまち注目を浴びた。

関連記事:警官に撃たれ死にゆく彼女の恋人の姿を、Facebookで300万人が見ていた

そもそも「#blacklivesmatter」のハッシュタグも、トレイヴォン・マーティンを射殺したジョージ・ジマーマンに無罪の判決が下ったことを受けて、2013年にアリシア・ガーザがFacebookの投稿に使ったことが始まりだった。

しかし、メッセージを増幅させることのできるメガホンは、メッセージにひずみを生じさせることもできる。ミネアポリスでジョージ・フロイドが警官に拘束されている最中に死亡した事件を受けて全米の都市に抗議活動が広がるなか、活動家らはSNSで画像や情報を休むことなく共有し、フォロワーに行動を促してきた。

関連記事:ジョージ・フロイドの暴行死が浮き彫りにした、「黒人の地位向上」という幻想

ところがいま、活動家たちは黒塗りの四角形が重要な情報を埋もれさせてしまっていると言う。

This is counter-productive. Please understand what ur doing before u do it. Amplify black voices WITHOUT silencing the movement pic.twitter.com/pahDbXnYOO

- ?? (@makeupbyshaniah) June 2, 2020

これまでの地道な活動を阻害する?

ふたつ目のハッシュタグ「#BlackOutDay」もまた、黒塗りの四角形の画像のなかに埋没した。このハッシュタグはSNSに黒人が顔を出すことを促し、黒人の顔を称えるために、2015年にTumblrユーザーのTヴォン・グリーンと「@MarsinCharge」が始めた活動の一環として広まった。

「ジョージ・ジマーマンが無罪になったり、エリック・ガーナーの事件で動揺したりしていた時期でした。わたしたちにとっては、そのすべてを真剣に考えた初めての機会だったのです」と、@MarsinCharge(ハンドルネームの使用を希望)は語る。「#BlackOutDay」はふと立ち止まり、黒人のコミュニティと再びつながり、黒人であることを祝うような自撮り写真を共有するためのものだったのだ。

それ以来、「#BlackOutDay」のイヴェントは十数回が開催されてきた。しかしいま、このハッシュタグで現れるのはほとんどが黒塗りの四角形ばかりで、それ以前の投稿を実質的に消してしまっている。「わたしたちが何年もかけてやってきたことが、完全に損なわれてしまっています」と、@MarsinChargeは言う。

しかもこれとは別に、ラッパーのT.I. が7月7日の経済的ボイコットに関して投稿した際にも、ハッシュタグに「#BlackOutDay」を使用している。彼はこの日にお金を使わないことで、黒人の権利を守る運動への連帯を表明しようと促したのだ。

@MarsinChargeは、それが素晴らしいことではあるものの、彼女がつくり出した運動の意味を削ぐものであると語る。「まるでわたしたちがあのハッシュタグから、意図的に追い出されているかのように感じます」

急速に広がった黒塗りの四角形の意味

どうして人々が「#BlackOutDay」を使って黒塗りの四角形を投稿し始めたのか、そして「#blacklivesmatter」のハッシュタグがいつそこに加わったのかを知る人はいないようだ。そもそもこの運動は、アトランティック・レコード幹部のジャミラ・トーマスと、クリエイティヴ企業Platoonのブリアナ・アギェマンがつくったまったく別のハッシュタグ「#theshowmustbepaused」から始まった。

「わたしたちは文化の担い手として、勝利を一緒に祝うだけでなく、敗北の責任を皆で引き受ける必要があります」と彼らはメッセージを書き、Instagramで大いに拡散された。「6月2日の火曜日を、わたしたちと一緒に仕事から離れてコミュニティとつながり直す日にしましょう」

彼らはアーティストたちに、新曲を投稿したり発表したりする行為を控えると同時に、自身の名声とフォロワーを活用して怒りと悲しみに目を向けるよう呼びかけ、黒人のコミュニティに正義がもたらされるよう働きかけるよう呼びかけた。そして有名アーティストとレコード会社が、これに参加を表明した。

スポティファイはSpotifyのプレイリストとポッドキャストに、ミネアポリスの警官がフロイドの首を膝で押さえつけていた時間と同じ長さである8分46秒の無音の時間を挿入すると発表した。トーマスとアギェマンは自分たちのウェブサイトに、フロイド、ブリオナ・テイラー、アマード・アーベリーのそれぞれの家族を支援するためのリンクと、「Movement for Black Lives(黒人の命運動)」のような団体への支援方法を掲載している。

ところが、このアイデアはほどなく音楽業界の外へと広がった。カイリー・ジェンナーが、自身のInstagramに黒塗りの四角形を投稿した。リアーナの化粧品ブランドである「FENTY BEAUTY」も6月2日は営業しないと発表した。「これは休日ではありません。真の変化を起こす方法を考え、見つけるための日なのです」と、同社はInstagramに投稿している。そして「今日は #pullup(考え直す)の日」と記し、新たなハッシュタグを導入した。

6月2日の朝を迎えるころには、数千人の人々が自身の投稿を「#blackoutday」や「#blacklivesmatter」のハッシュタグで飾り始めた。さらに数千人の人々は「#blackouttuesday」を使ったり、あとから自身の投稿にこのハッシュタグをつけ加えたりした。すでに「#blacklivesmatter」に投稿された情報が損なわれないようにするためである。

それでも多くの人が、黒塗りの四角形を投稿する行為そのものを批判している。「今朝のわたしのInstagramのフィードは黒塗りの画面を投稿する白人一色になっている」と、ライターのジアンナ・カドレックはツイートした。「こんなの…自ら沈黙することにならないよ、みんな。むしろ真逆!」

this is not helping us. bro who the hell thought of this?? ppl need to see what’s going on https://t.co/fN492qsxaa

- nope (@LilNasX) June 2, 2020

疑念の声が続出

活動家たちはまた、黒塗りの四角形が「#blacklivesmatter」のハッシュタグを乗っ取ったスピードにも懸念を表明している。「これはデジタルな抗議行動の抑圧であると強く感じる」と、活動家のプリタニー・パックネットはツイートした。

かつてブラックフェイス・ボット(SNSにおける白人による黒人のなりすまし)が、SNS上で政治課題を推進するために使われたことがあった。黒塗りの四角形に「#blacklivesmatter」のハッシュタグをつけることは、実は活動を封じ込めるための組織的な動きで、一般の人々はそのたくらみに気づかないままに流行に飛びついたのではないか、と考える活動家もいる(『WIRED』US版は6月2日午後の時点で、こうした組織的な行動の存在は確認していない)。

6月2日の時点で黒塗りの四角形が溢れていることに気づいたウィリアムズも疑念を口にした。「『#theshowmustbepaused』から『#blackoutday』へ、そして『#blacklivesmatter』へと飛び火していったのは、わたしの目には非常に奇妙に見えます」と、ウィリアムズは語る。

こうした投稿が組織化されたものだったにせよ、まったくの自然発生的なものだったにせよ、「運動を組織する人々と活動家にとっては、明らかにすべてを台なしにしてしまうものでした」と、ウィリアムズは言う。「5〜6年がかりでつくり上げたもの、あのすべての情報、あれだけの仕事と記録が、いまや数百万の黒い四角形になってしまったのです」

※『WIRED』による「Black Lives Matter」の関連記事はこちら。

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◎過去に起きた事件

2020年5月:ジョギング中のアマード・アーベリーが射殺された事件の真相と、「最期の瞬間」の動画がネットで拡散したことの意味2016年7月:警官に撃たれ死にゆくフィランド・キャスティルの姿を、Facebookで300万人が見ていた2016年9月:写真家たちがとらえた「Black Lives Matter」

 
◎関連するムーヴメント

ブラックパワーと公権力:ソーシャルメディアによる新たな闘争(2016年7月)米国には「警官による銃撃に人種差別が潜んでいる」ことを示すデータが求められている(2017年6月)衝撃の映像で全米を揺るがす『This Is America』は、現代の新しいプロテストソングだ(2018年5月)

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