◆何をしてお金を稼いでるの?

「年60万円くらい稼げばいいので、日本からの旅行雑誌の仕事を時々受けています」

 その位に抑えると税金も安そうです。仕事に追われて高い税金や保険を払っている人からはずるいという声も聞こえてきそうですが……。「日本人は働きすぎの人が多いと思いますよ」と、扁理さん。収入が少ないことへの不安感もないそうです。

 今度、日本の出版社から、台湾での隠居生活の本も出すとのことで、年60万円は軽く超えそうですが、今度の10万円の給付金の使い道はどうする予定なのでしょうか。

「うちはまだ申込書が届いてないんですけど、やっぱりあんまり欲しいものがないので、とりあえず貯金して必要最低限の衣食住どれかに使おうと思います」

 Tバックのワードローブも増えそうですね。とくに不自由なく隠居ライフを送っている扁理さんですが、最近懸念していることがあるとか。

◆隠居が定着しないでほしい…

「ちょっと離れた所から、人間を見ているのが好きなので、外出自粛は解除されましたが隠居がメインストリームになって欲しくないというのが本音です。これが主流になると観察対象がなくなって困るなっていうのがありますね」

 隠居は傍観者であるべき、というのが扁理さんのスタンスのようです。皆が隠居になったらGDPや経済がまずいことになるので、収束後はまたそれぞれ仕事に励むライフスタイルに戻っていった方が良さそうです。一度隠居生活の幸せを知ってしまったらなかなか戻れないかもしれませんが……。

「ふだんから隠居生活してるとそんなに社会の影響受けないっていうか、逆にこういう外出自粛の事態になった時に、外界のいろいろなものごとに依存させて自粛できないようにさせておくことが経済社会の狙いだったんだなってわかりますね」

 たしかにコロナ以前は様々なメディアで欲望を煽られ、そのために必死で働いて……というループにハマっていたかもしれません。そうやって俯瞰して見られるのが隠居の強みです。

「欲望に終わりが見えないのが辛い。際限ないですよね」と、扁理さんは達観しています。

 意識高い系を超越した、霊格高い系の隠居男子。外界に刺激を求める代わりに、思索にふける時間の余裕があるのでしょう。こうやって隠居ならではの格言や叡智をシェアしてくれて世の中に還元しているので、納税額が少なくても許されるような……。町内にひとりはいてほしい存在です。隠居の放つ穏やかなヴァイブスで、世の中が平和になることを期待します。

<文&イラスト/辛酸なめ子>

【辛酸なめ子】
東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。著者は『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)など多数。