宮城県に「徳の高い地名」があったと、ツイッターで話題となっている。


Googleマップの航空写真から作成(C)Google

場所は遠田郡美里町南小牛田。

Googleマップの地名には、「仁」「義」「礼」「智」「信」などが並んでいる。これらの文字は、儒教の教えである「五徳」そのまま。衛星写真を見ると、田んぼのようだ。

この地名は2020年5月24日、ツイッターユーザーのssnk(@ssnk_72_td_kt)さんが「地名の徳が高い」とGoogleマップのスクリーンショットを添えてツイッターに投稿し、注目を集めた。

あまり見ない地名にツイッターでは

「(旧)小牛田にそんな地名あったとは知りませんでした」
「近くに住んでるのに知らなかった」

といったコメントが。また、「南総里見八犬伝」やアニメ「鎧伝サムライトルーパー」など、「五徳」を取り入れたフィクション作品を思い浮べた人もいた。

しかし、なぜこうした地名が付けられたのだろうか。Jタウンネット編集部は、美里町役場に問い合わせた。

100年前の水害がきっかけ?

27日、Jタウンネットがこの地名を「発見」した投稿者・ssnkさんに話を聞くと、美里町周辺の遺跡の状況をGoogleマップで確認していて、今回の地名を見つけたという。

「『仁』『義』の文字が見えて『任侠っぽい』という感想を抱いたのですが、脇に『礼』『智』『信』が続いたので『アッ、徳が高い』という感想に変わりました。
一文字の小字で『甲乙丙...』とか『いろは...』は見たことがあるのですが、『仁義礼...』という儒教の徳目並ぶのは面白いと感じました」(ssnkさん)

そこで、Jタウンネットが28日、美里町役場に取材すると、「水田地帯で土地開発などにもここしばらく関わったことがない地域なので、今まで地名についての話を耳にしたことはない」とのこと。

「少しお時間を頂ければ......」と、美里町教育委員会の文化財担当者が詳しく調査してくれることになり、29日に以下のような回答があった。

「町史や地名大辞典、地元の人たちに話を聞きましたが、この地名の確固たる由来は分かりませんでした。いつからこの地名なのかも、残念ながらこの短時間では調べることが難しかったです。
一番濃厚な説は、1910年8月に大きな水害があり、そのときに行われた耕地整備の際についた子字名ではないか、ということです。
その耕地整備はただ直すだけではなく、当時にしては大きな田んぼに作り替えるなど、比較的先進的な整備が行われました。そのため、今回の地域は現在でいう『モデル地区』のような扱いであったと推測されます。
その際に、農業関係の学者の先生など多くの人材が関わっていたようなので、彼らから知恵をもらい、おめでたい言葉にあやかってこのような名前にしたのではないか、と考えられます」(担当者)

この徳の高い地域は、どうやら今から110年前に水害で大打撃を受けた場所らしい。

広い範囲で被害のあった水害だったが、この五徳の地名がついた辺りが特にひどかったのだという。


義と礼の中間あたり。Googleストリートビューより(C)Google

担当者いわく、この説は農業委員会の会長を務めていた人から聞いた話。ただ、その人物も「祖父から聞いた話」と話しているそうで、他にこの地名について詳細を知っている人はいなかったという。

「あまりお役に立てず申し訳ありません」と担当者は恐縮していたが、古くからの地元住人の話となれば有力な情報だろう。

そもそも、今回話題となっている場所は水田地帯で人も住んでいないとのこと。担当者は

「その地域を耕作している方や役所の人間なら何だか珍しい名前の場所がある、ということを知っていますが、同じ町内に住んでいてもその存在すら知らない方は結構いるんじゃないでしょうか」

とも話した。

ともあれ、確たる証拠はない、とのことだったが、水害の後につけられた地名というのであれば、納得ができる。また、モデル地区的な扱いであったのであれば、おめでたい名前がつけられるのもありえる話だろう。