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第10週「響きあう夢」46回〈6月1日 (月) 放送 作・清水友佳子 演出・吉田照幸〉


46回はこんな話

裕一(窪田正孝)の初レコード「福島行進曲」はまったく売れなかった。が、鉄男(中村蒼)は思いきって新聞社をやめ、東京に出てきた。裕一はコロンブスレコードの廿日市(古田新太)に鉄男を紹介するが……。

鉄男が切ない

「エール」は一見ドタバタに見えるが、なんとも苦いドラマである。主人公の幼馴染が3人集まって「福島三羽ガラス」として歌謡界に颯爽と羽ばたいていくかと期待させながら、久志(山崎育三郎)は無名だからと排除され、鉄男の作った歌詞は廿日市に酷評されてしまう。

廿日市は売れることしか考えていないのでそんな人にわかったように値踏みされることが悔しい。
鉄男のことを彼の歌詞から「トランプくん」なんて呼び、故郷・福島を馬鹿にする廿日市はとことん安い人間である。上にへつらいうまいことをやってわからないことは馬鹿にする。ちなみに「福ビル」は、当時、福島のランドスケープだった「福島ビルヂング」のことである。

仕事をもらいに来たのについ歯向かってしまう鉄男を止める裕一。ふたりが並ぶと、鉄男がいくぶん小柄。子供のときは「乃木大将」と呼ばれ裕一よりも大きく強そうだったのに、いまでは体格が負けてしまっている。たぶん、優秀な新聞記者だったと想像する。だからこそ社長の娘にも気に入られ、社長にも婿にと言ってもらえたのだろうが、切れ者の新聞記者という感じではなく、反骨精神で他人に媚びず、ふだんは朴訥な詩が好きな人のような感じ。

そんな鉄男のモデルになった野村俊夫はやがてヒット曲を出すので、いずれ鉄男もそうなるだう。久志のモデルの伊藤久男と三人で組んだ曲もある。福島三羽ガラスの活躍はまだ先のお預け。

代わりに裕一は、テイコクレコード(モデルはテイチクレコード)に移籍するという木枯(野田洋次郎)に高梨一太郎(ノゾエ征爾)を紹介される。

「この人との出会いが裕一の暗い作曲家人生を変えることになります」とナレーション(津田健次郎)が予告するように、この人・高梨一太郎とヒット作を作るらしい。モデルがそうなのだから仕方ないとはいえ、これが完全なるフィクションであったなら、いきなり福島三羽ガラスでデビューしてヒットしてというカタルシスを作り出すこともできるところ、そうならない。鉄男と作ったデビュー作は売れず、裕一をヒットの道に連れ出すのは別の人。なんとも切ない流れである。

高梨一太郎のモデルは、高橋掬太郎

高梨一太郎は、木枯のヒット曲で、鉄男も好きだという「酒は涙か溜息か」の作詞家である。モデルは高橋掬太郎。やがて、裕一のモデル古関裕而と組んだ「船頭可愛や」でヒットを出す。そしてその曲を歌うのが……。以前のレビューにちょっとだけ書いたが、今日はあえてネタバレはやめおく。気になる方は以前のレビューからお探しください。

ちなみに「酒は涙か溜息か」は昭和6年、ドラマの山藤太郎のモデル藤山一郎が歌ってヒットした哀愁あふれる歌。高橋掬太郎は北海道の新聞記者だった。鉄男と境遇が似ているのである。この歌が好きと言う鉄男が、おでん屋に入り浸っているところに鉄男のしんみりした感情が現れている。


切ないといえば、千鶴子も

人生なんてうまくいかないもの。とはいえ、音(二階堂ふみ)のターンでは、音は順調に「椿姫」のヒロインに選ばれて、うまくいっているように思うが、光あるところ影あり。東京帝国音楽学校の優秀生・千鶴子(小南満佑子)が割りを食っている。

歌にすべてを賭けて、恋も友情も後回しで頑張ってきて、どう考えても歌も千鶴子が巧いのだが、最終審査で実力を発揮できなかった。それは音の気迫に動揺したから、と特別審査員・双浦環(柴咲コウ)に説明台詞で片付けられたうえ、音に負けてしまう。

音の気迫に押され実力を発揮できず落選する悔しさ哀しさを演じることができない脇役の哀しみをじつにわかりやすく体現している千鶴子。審査当日、実力が発揮できなかったけど、明らかに実力は千鶴子が上で、音の未知なる可能性に審査員は賭けたという、そんな大事なことを説明する役割はスター柴咲コウに委ねられる。なんとも苦い展開である。

運良く選ばれた音は、感性だけでなく、技術的にも成長しようと運動に励む。体を楽器にして声を出すってそんなことミュージックティなら教えてくれていたであろう。が、お腹に分厚い本を乗せて腹筋しているときの声の出し方を変えている二階堂ふみの気遣いは買おう。

名優がたくさん投入された

おでん屋店主・山根役の花王おさむ、椿姫演出家・黒崎達治役の千葉哲也、作詞家・高梨一太郎役のノゾエ征爾と演劇ファンなら「お!」と思う名優が3人も登場。

花王おさむは劇団ヴォードヴィルショーの旗揚げメンバーで、喜劇をはじめとして様々な作品に深い味わいを残す名優。ミュージカルにも出演している。千葉哲也は演劇企画集団THE・ガジラ出身。俳優のみならず演出も手掛け、戸田恵梨香の出演した「寿歌」(12年)の演出では戸田に絶大な信頼を得ていた。環に「劇場で稽古している。羨ましいなあって」と言う何気ない台詞にリアリティーがあった。

ノゾエ征爾は、ENBUゼミナール松尾スズキゼミ出身で、劇団はえぎわを結成。蜷川幸雄が亡くなったあと「1万人のゴールド・シアター2016「金色交響曲〜わたしのゆめ、きみのゆめ〜」の演出を引き継ぐなど期待されている。俳優としても活躍し、松尾スズキの「ニンゲン御破産」では劇作家・河竹黙阿弥、大河ドラマ「いだてん」では実況アナウンサーの草分け、松内則三を演じた。

今日の山崎育三郎

女子生徒にお弁当を作ってもらってウインクで彼女たちの心を打ち抜くベタな場面。それにしても久志が先生に見えてしまうのは、山崎育三郎からどうしたって滲んでしまう演劇体験の長さなのである。
(木俣冬)

東京編の主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。

廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作をもつ人気作曲家。モデルは古賀政男。

山藤太郎…柿澤勇人 人気歌手。モデルは藤山一郎。
小田和夫…桜木健一 ベテラン録音技師。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。

佐藤久志 …山崎育三郎 東京帝国音楽大学の3年生。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄夫 …中村蒼 裕一の幼馴染。川俣で新聞記者をやっている。詩を書くことが好き。モデルは野村俊夫。

夏目千鶴子 …小南満佑子 東京帝国音楽学校の生徒 優秀で「椿姫」のヒロインに最も近いと目されていた。

筒井潔子 …清水葉月 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはソプラノ。
今村和子 …金澤美穂 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはアルト。

先生 …高田聖子 東京帝国音楽大学の教師。
双浦環 …柴咲コウ 著名なオペラ歌手。モデルは三浦環。


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和