コントレイルに重ねたディープの姿。ダービー圧勝→無敗の三冠馬親子誕生か
今年の3歳春のクラシックは「無敗」がキーワードだった。
牝馬のデアリングタクトに続いて、牡馬もGI皐月賞(4月19日/中山・芝2000m)を制したコントレイル(牡3歳)が、GI日本ダービー(5月31日/東京・芝2400m)を快勝。デビュー5連勝を飾って、父ディープインパクト以来となる無敗の二冠馬となった。
それにしても、強い競馬だった。
最後の直線、坂を上がったところで追い出すと、ライバルのサリオス(牡3歳)との差をみるみると広げていった。終わってみれば、3馬身差。過去10年のダービーでは、2着馬との差がこれほど開いたことはなかった。
それでいて、ライバルにそれだけの差をつけるのだから、その能力は計り知れない。
ダービーを圧勝して二冠を達成したコントレイル
無敗の皐月賞馬として臨んだ檜舞台。皐月賞では「2強」、あるいは「3強」と言われたが、今回は単勝1.4倍と、まさにコントレイルの「1強」という状況にあった。
それでも、その人気が陣営にとって、プレッシャーになることはなかった。それほど、コントレイルという馬の強さに自信があった。
そして、レースがスタートしてすぐ、その自信は”確信”に変わる。関西の競馬専門紙記者が言う。
「ダービーはメンバーの顔触れからして、テンがドスローになることは目に見えていました。そこで、陣営としては、前半の位置取りが後方になった皐月賞のようなレースだけはしたくなかった。だから、ゲートが開いて、サッと2、3番手のいい位置が取れた時には、(陣営は)早くも『勝った』と思ったんじゃないですか」
向こう正面に入ると、あまりのスローの流れに嫌気がさしたのか、マイラプソディ(牡3歳)の手綱を取る横山典弘騎手が、馬群の後方からまくり気味に上がっていって先頭に躍り出た。
今回のレースのなかで、最大のハプニングと言ってもいいかもしれない。
ともあれ、福永騎手がレース後に話したとおり、そうしたことが起こること、しかも、そうしたことを起こすのが横山典騎手であることは、あらかじめ「わかっていた」という。
ゆえに、馬も、騎手も、そのハプニングには少しも動じなかった。
ただ、まくってきた馬が逃げ馬の前に出て、その結果、否応なしにポジションを下げさせられて内に押し込められるのは嫌だった。そうなると、直線に向いた時に馬群に包まれ、出るに出られない、ということが起こりかねないからだ。
しかしそんな心配も、杞憂だった。
行きたい馬を先に行かせると、直線を迎えたところで、馬群の外に抜ける進路がぽっかりとできていた。
あとは、ゴールまで一本道である。コントレイルは1頭だけ、次元の違う末脚で弾けていった。その様を、ダービーにおける父ディープインパクトの姿と重ねていたのは、筆者だけであろうか。
「桁違い」とは、この馬の、この強さを言うのだろう。
レース後、陣営は早くも「秋はGI菊花賞(京都・芝3000m)が最大目標になる」と宣言した。
前哨戦も含めて、菊花賞も勝てば、父ディープインパクト以来となる、史上3頭目の無敗の三冠馬となる。
もう1頭の無敗の三冠馬は、シンボリルドルフ。種牡馬となって、無敗の二冠馬トウカイテイオーを出した。ただ、トウカイテイオーは、ダービーのレース後に負傷し、菊花賞には不出走。親子2代での無敗の三冠馬という夢はかなわなかった。
つまり、コントレイルが無敗で菊花賞を制することになれば、史上初の、無敗の三冠馬親子の誕生となる。
無論、その先にもさまざまな夢が広がる。なかでも、最も期待されるのは、ディープインパクトの後継種牡馬となることだ。
ディープ産駒の種牡馬は何頭かいる。だが、いずれも「後継」と名乗るには決め手を欠いている。その状況に、コントレイルが終止符を打つ――多くのファン、関係者が抱く夢である。
コントレイルのダービー制覇。そのことを一番喜んでいるのは、昨年夏に亡くなった父ディープインパクトかもしれない。