コロナ禍で改めて浮かび上がった保育士の大問題とは…(写真:Fast&Slow / PIXTA)

新型コロナウイルスの感染拡大予防のため、4月中旬から5月にかけて多くの保育園で行われた「臨時休園」あるいは「強い自粛要請」。登園する園児が大幅に減る中、少なくない園が実施したのは、非正規の保育士の出勤の削減、そしてそれに伴っての賃金カットだった。

保育士の仕事は、その責任の重さに比べると極端に給与が少ないことで知られるが、今回給与カットを言い渡された非正規の保育士たちからは、不満と不安の声が続出した。そもそもこの間、国から園に支払われる運営費は減らされておらず、賃金カットはまったく適切でないのだが、混乱の中、誤った運用が広がってしまっていた。

この問題を指摘した筆者の記事「コロナで保育士の『給与4割カット』は大問題だ」を4月21日に掲載した。それから1週間後、4月28日に内閣府はこの問題に関連する通達を出した。その内容は、「コロナの影響を受けても運営費用は通常どおり給付を行うため、人件費も適切に対応するように」というもの。その後、新聞各紙も不当な賃金カット問題について報道し、この問題は全国で大きく波紋を広げている。

こうした一連の騒動の中では、非正規の保育士に対するバッシングも見られた。たとえば、「非正規で働くとはそういうこと」「空前の人手不足でなぜ非正規でしか働けないのか」という自己責任を求めるコメントなどだ。

しかし、これは自己責任という観点で語るべき問題なのだろうか。緊急事態宣言が解除されて保育園が本格的な再開を迎え始め、改めて、保育園を支える一員である非正規雇用の保育士が置かれる状況を考えたい。

36歳、非正規保育士の訴え

「子育て中だから非正規雇用で働いているけれど、体力的にきつい人もいれば、親の介護でフルタイムが難しい人もいる。みんなが正職員で働けるわけではない」

東京23区内にある私立の認可保育園で働く保育士の伊藤紘子さん(仮名、36歳)は、“本人の努力不足によって、非正規雇用に甘んじている”というような風潮に納得がいかない。紘子さんは現在、週4日、午前8時半から午後4時まで時給1300円で働いている。非正規雇用でも2歳児クラスの担任という責任ある立場だ。

2歳児の保育士の最低配置基準は、子ども6人に保育士1人。紘子さんの保育園では2歳児クラスの定員が30人のため、担任が5人は必要だ。現在、担任を6人配置しているが、正職員はたった2人。残りの4人は子育てや介護で短時間の勤務している非正規雇用となっている。

保育園児と小学校低学年の子どもがいる紘子さんは、「非正規雇用でなければ働くことこが難しい」と考えている。基本的な開園時間は午前7時ごろ〜午後6時ごろまで。保育園によって前後の時間帯に早朝保育や延長保育が実施される。午前6時からの早番シフトや午後10時までの遅番シフトがある場合もあり、小さな子がいながら早朝夜間のシフトに入るのは困難だ。

紘子さんの同僚の正職員の女性は育児時短勤務で働いていたが、子どもが熱を出して休みがちなことで、系列の福祉施設に異動になった。育児時短勤務だとしても、正職員であれば週5日の勤務に加えて、月に何度かは土曜の勤務も入る。人手不足の中で同僚は「遅番がダメなら早番に出て」とも頼まれていた。時短といっても遅番が免除されるだけで、午前8時から午後5時までのコアタイムの出勤を求められ、フルタイム勤務とほとんど変わらない。

紘子さんの子どもが通う保育園では、千葉県や埼玉県から都心まで片道2時間かけて通勤して体を壊した保育士がいた。保育園を増やしている民間の事業者で働く正職員であれば異動はつきもの。公立であってもやはり異動はあり、自宅から遠い保育園で働くことは避けられない。それを考えると、紘子さんは「正職員は難しい」と思うのだった。

さらに、いつ子どもが発熱して保育園からのお迎え要請があるかもわからない。紘子さんの夫は安定収入があるが、宿直勤務があって職場に長く拘束される職種だ。子どもが体調を崩しても、夫は急には休めない。もし災害が起こった場合はどうするのか。

日常生活を考えても、保育園には延長保育があるものの、小学生となると学童保育の終わる時間は早い。小学生の子の宿題は何時に誰が見てあげるのか。核家族で子育てと仕事を両立させるには、紘子さんが柔軟な働き方である非正規雇用を選択するしかなかった。

正規社員との明らかな差

コロナ禍で登園児が減ったことと、小学校の休校に伴って、紘子さんは4〜5月は休業した。正職員はシフト手当などが減給されたが基本給が補償された一方で、非常勤職員の賃金補償は4割カットの6割支給と差があった。

紘子さんは、「保育士が子育てしながら正職員で働くことのハードルはあまりに高い。それは、一般企業で管理職になりたいと思ってもなれる子育て環境にない女性がいるのと同じ構造ではないか。とはいえ、非正規雇用であっても担任は担任。専門職としての責任がある。この状態でどうやって保育の質を向上していけるのだろうか」と疑問を感じている。

紘子さんのように保育士が非正規雇用でも担任まで持つようになった背景には、規制緩和がある。そもそも保育園には保育士の最低配置基準があり、厚生労働省の通知によって「常勤の保育士」(正職員と同意)が条件となっていた。それが1998年に短時間勤務(1日6時間未満または月20日未満勤務)の保育士の導入が認められ、2002年から適用された。小泉純一郎政権下、規制改革推進の渦に保育園も巻き込まれていた。

保育士不足の中、本来は補助的な存在だったはずのパートの保育士までが配置基準を満たす戦力と化した。そして、短時間勤務者を配置しても常勤を配置するのと変わらない保育単価として扱われたため、人件費削減の温床になり、非正規雇用の担任が登場したのだ。

公立保育園で1981年に栄養士として働き始め、労働組合活動を通して規制緩和の流れを問題視してきた仙台市の樋口典子市議は指摘する。

「規制緩和を受け、保育園の中で“多様な雇用形態”があることを是とした頃から、非正規雇用の保育士が冷遇されるようになったのではないか。延長保育にしても、正職員が交代制で行うのか、短時間勤務の非正規雇用の保育士に担ってもらうかという問題がある。延長保育を非正規に任せることになれば、『正職員はいいとこ取り』になってしまう。この延長線上にコロナ禍の労働問題もあり、非正規雇用の保育士への配慮が欠けていくのではないか」

介護・保育ユニオンに寄せられたとんでもない実態

5月2日から18日までの間に、個人加盟できる労働組合の介護・保育ユニオン(東京都世田谷区)にはコロナ関連の相談が東京を中心に全国から130件も寄せられた。保育園で働く保育士、看護師、調理師など相談のほとんどが女性で30代と40代で半数を占めた。

正職員からの相談は36件で、パートが最も多い65件だった。契約社員、派遣、アルバイトを含めた非正規雇用の合計は78件に上った。相談結果の集計からは、子育て世代の女性が非正規雇用で働き、賃金カットの対象になったことが鮮明となった。

コロナ後も保育士が辞めずに保育体制をとれるようにと、内閣府は事業者に支払う運営費の「委託費」を満額支給している。もちろん、人件費分も従前と変わらず給付している。しかし、介護・保育ユニオンへの労働相談では、保育士が休業となった際の賃金補償は、「補償なし」という相談が最も多い54.5%で、「6割」支給が32.3%という状況。パート保育士だけで見ると、「補償なし」が63.5%、「6割」支給が23.8%で、より不利な立場に置かれていることがわかる。

相談内容を詳しく見ると、正職員でも「賃金の4割カット」、「混乱に便乗した定期昇給の見送り」、「コロナによる『特別有休休暇』ではない通常の有給休暇消化の強制」など。そして非正規雇用からの相談では、「正社員は補償があるがパートはない」「正社員は有給休暇を消化するよう求められ、パートの賃金補償はない」などの差別の現実が突きつけられた。

なかにはシングルマザーで休業を命じられ、その分が無給になるのでは生活できないという切実な声もあった。コロナで雇用格差が浮き彫りになり、正職員は在宅勤務で賃金も補償されるが、非正規職員に出勤を命じてリスクを負わせるような例もあったという。生活がかかっているだけに非正規では簡単に休むこともできない。 

そして、責任者が事実に基づかないであろう説明をしている相談まであった。登園する児童数の減少により休業を命じられた保育士が、休業期間中の賃金補償を求めると、園長から「自治体からそういったことは、してはいけないと指導を受けた」と言われたという。内閣府は保育士について「ノーワークノーペイを想定していない」と表明しているのだが、地方自治体がノーワークノーペイを推奨するのだろうか。

介護・保育ユニオンには、コロナが発生する以前から非正規雇用の保育士からの相談が多く寄せられている。シフト勤務の正職員では子育てとの両立が難しく、育児休業から復帰するときに非正規雇用に転じるか、辞める選択をする保育士は少なくない。

ある保育士は、子育て中のため非正規で働いているが、正職員が休む日の代替として確実な出勤を求められ、同ユニオンに相談。わが子がインフルエンザにかかってもベビーホテルに預けてまで出勤せざるをえず、保育士を辞めるべきかと悩んでいたという。

同ユニオンは「保育士にとって自身の子育ては保育にプラスになる側面があるのに、それが軽視されているから非正規雇用になる。結果、コロナでいちばんのしわ寄せを受けた」と憤る。そして、コロナ禍の相談から改めて問題提起する。

「国から委託費が満額出ているにもかかわらず賃金カットが横行するのは、人件費をほかに流用できる『委託費の弾力運用』という制度による影響だ。きちんと人件費をかけない姿勢がコロナでより一層、表面化した。内閣府が通知を出しても強制力がなく、自治体は民間の給与だといって実態把握に努めない傾向がある。コロナという公衆衛生を脅かす問題が残る中で保育園の運営を維持するには、国が想定する人件費分が確実に保育士に回るような手だてを講じるべきだ」

保育士の問題は、あまりにも根深い

コロナを機に保育士の非正規雇用問題の根深さが露呈した。戦後から大きく変わらない最低配置基準のまま、短時間勤務の非正規雇用でもよしとされ、委託費の弾力運用も規制緩和され続けた結果、年間の委託費収入の4分の1も流用できるようになっている。

委託費の8割が人件費として給付されているため、保育園を運営する事業者が営利を求めれば当然、ギリギリの保育士数で非正規雇用を増やして利益を確保したくなるだろう。

コロナ禍の非正規雇用の保育士への待遇問題には、その事業者の姿勢が現れる。保育園とは、児童福祉法が定める福祉施設であり、保育の質をつくるのは保育士だということを忘れてはいけない。