「お金」と「幸せ」の関係について考えます(写真:takasuu/iStock)

「もう少し年収が増えたら幸せになれるのに」「もっと給料が高くなったらいいな」

このように思ったことはありませんか? おそらく、多くの人が、「ある」と答えるのではないかと思います。

人々がどうしたら幸せになれるのか。科学的データや統計データを用いて論じた『年収が増えれば増えるほど、幸せになれますか?』から一部を抜粋し、お金と幸せの関係性について明らかにします。

資産が40億円あるのに「日本一不幸」な人

資産が40億円もあるのに幸せを感じられない。それどころか「日本一の不幸」に苦しんでいる……。

私たち庶民は、「40億円も持っているのに、そんなわけないだろう」と思ってしまいがちです。しかし、この人は実在する人物です。外資系証券会社のウェルスマネジメント業務に携わり、資産100億円以上の億万長者たちを、間近で見てきた人がいます。仮にAさんとしましょう。

Aさんはたくさんの億万長者と接するうちに、なぜ彼らが幸せではないのか、疑問に思ったそうです。それで退職後、彼らが幸せになるにはどうすればよいかを研究するために勉強を始め、私の研究にも興味を持ってくれたようです。

そんなAさんが話してくれたのが、40億円の資産を持っているのに「日本一不幸」だと主張する人のエピソードです。

その人は、100億円もの資産を持っていた億万長者でした。しかし、2008年から2009年にかけて起こったリーマンショックで、そのうちの60億円を失ってしまいました。

とはいえ、私たちから見ればまだ40億円もあります。生涯かけても使い切れないほどの大金です。しかし、その人はこう言いました。

「私は60億円も失ってしまった。日本でこれだけ失った人はいないだろう。だから私は、日本一不幸な人間だ!」

その人の目は、怒りと落胆に満ちていたそうです。ご先祖から受け継いだ大切な資産を自分の代で大きく減らしてしまったことに、自責の念を感じていたのでしょう。

持てる者の苦しみですね。

もう1つ、Aさんから聞いた典型的なエピソードがあります。投資家の1人に、60億円の資産を持っている老婦人がいました。

ある日、彼女の家を訪ねたところ、「私の資産を、毎日あなたに見ていてもらいたいんです。見てもらうだけで、私は安心するんです」と言われたそうです。そして、次のように、不安な気持ちを吐露したそうです。

「今日は1億円減った、今日は5000万円増えた……。毎日、数千万単位で資産が変化して、そのたびに一喜一憂しています。これでは夜も眠れません」

こう言っては失礼ですが、ご高齢のおばあちゃんです。お墓に財産を持っていくことはできません。財産を残す子どももいなかったそうです。もし彼女が亡くなったら、たいして付き合いのない、遠い親戚に全財産が渡るそうです。

それなら温泉へ行ったり、美味しいものを食べたり、好きなことに好きなだけ使って余生を楽しめばいいのに、と凡人は思ってしまいます。しかし、実際に大金を持っているとそうは思えないのが現実のようです。持っているものが大きく変動することにより、不安定に揺れ動く心。

億万長者が不幸になる4つの理由

なぜ億万長者は幸せを感じられないのか。Aさんは、次の4つの理由を挙げています。

資産の減価への不安感
資産の形成と消費のアンバランス
優越感と幸福感の履き違え
人間関係、家族関係の希薄化

今、ご紹介した3人は、 峪饂困慮魂舛悗良坩卒供廚謀てはまる典型的な事例です。お金が減っていく、あるいはお金が減るのではないかという不安は、心の病にかかるくらい強烈です。お金は人を不幸にすることもあるのです。

次に◆峪饂困侶狙と消費のアンバランス」について。

みなさんは、元NFL(アメリカンフットボール)選手の78パーセント、元NBA(バスケットボール)選手の68パーセントが、現役引退後、自己破産に追い込まれている事実をご存じでしょうか。アメリカの調査機関が発表したデータで、日本でもテレビなどで大きく報道されました。

NFL、NBAといえば、スター選手なら何千万ドルという年俸を稼ぐことができるスポーツです。わずか数年の選手生活で、一生困らないお金を手に入れる人もいます。なのに、なぜ自己破産にまで追い込まれてしまうのでしょうか。

その背景にあるのが、△了饂困侶狙と消費のアンバランスです。簡単にいえば、お金を稼ぐことには長けていますが、お金を使うことは下手なのです。

たとえば、元NFLのある選手は、2001一年から10年間にわたり、チームの中心選手として活躍していました。しかし引退後、遊園地ビジネスに15億円、その他2つの事業に12億円、計27億円を投資し、すべて失敗しました。わずか2年ほどで自己破産し、現在はトラックのセールスマンとして働いているそうです。

この元選手の場合、本人が不幸だと感じているかどうかはわかりません。悔いはない、今が幸せだと感じているのならそれでいいのでしょう。

ただ、引退したプロスポーツ選手の中には、ドラッグに溺れたり、中には自殺をしてしまったりする人も目立ちます。大金を手に入れたら幸せ、ということにはならないようです。

似たような例として、宝くじで高額当選した人が挙げられます。たとえばアメリカで、250億円もの大金を手にしたある人は、当選したとたん生活がおかしくなり、飲酒運転と脅迫で何度も逮捕されました。妻とは離婚し、たび重なる盗難にも悩まされました。

最後には、孫娘の恋人の自宅で遺体となって発見されたそうです。孫娘もその翌月、薬物の過剰摂取で亡くなっています。

彼はそれまで、建設会社の社長として、穏やかな生活を送っていました。ところが、莫大なお金を手にしたことによって、人生の歯車がおかしくなってしまったのです。
自分の人生だけではありません。妻や孫娘など、まわりの人の人生までおかしくなってしまいました。

こうした例は、枚挙にいとまがありません。実際、宝くじに当選した人の幸福度を測ったところ、一般の人よりも低かったという研究結果もあります。ブリックマンらにより1978年に行われた有名な研究結果です。

Aさんは、「お金は誰にでも稼げるが、使うには教養がいる」と言っていました。名言ですね。

3億円で幸せになれない人は

「優越感と幸福感の履き違え」は、優越感を得ることが幸せだと勘違いしている例です。わかりやすい例でいうと、私の知り合いにも、高級な外車に乗っていることをこれみよがしに自慢する人がいます。ある日、友人たちとのおいしいレストランでの食事が終わって出口を出ると、彼はそこに停めてあった彼の車でさっそうと去っていきました。キザですねー。自慢したいのが見え見えでした。

しかし、一般論としては、モノを買っても幸せは長続きしない、という研究結果が知られています。

モノの消費よりも、コトの消費のほうが幸福感に寄与するという研究結果があります。つまり、優越感を得るために高い車を買うよりも、好きな人とドライブに行ったほうが幸福度は高まる、ということです。好きな人とドライブに行くのが目的なら、中古車だって、レンタカーだっていいのです。

経済学者で米コーネル大学教授のロバート・フランクは、他人との比較によって満足が得られる財を「地位財」、他人との比較とは関係なく満足が得られる財を「非地位財」と定義しました。


(出典)『年収が増えれば増えるほど、幸せになれますか?』(河出書房新社)

地位財は、お金、社会的地位、モノなど。非地位財は、健康、自主性、社会への帰属意識、良質な環境、自由、愛情などが挙げられます。いちばんの違いは、地位財による幸福は長続きしないのに対し、非地位財による幸福は長続きすることです。

高級車を手に入れると、その瞬間は嬉しいかもしれませんし、きっと自慢したいでしょうが、多くの場合、やがて幸せは薄れ、また別の車が欲しいと思うようになります。お金、地位、モノを得ることによって得られる優越感は、はかないものなのです。

しかも、自慢されて嬉しい人などいませんから、あまり自慢ばかりしていると友だちをなくします。自慢は幸せにはつながらないと言うべきでしょう。一方、好きな人とドライブに行った思い出は、非地位財です。非地位財は、一生モノになりえます。

中古車だったから、レンタカーだったから、幸せではなかったという人はいませんよね。もう1つ、優越感が幸せをもたらさない理由に、優越感の裏側には、必ず劣等感が隠れていることが挙げられます。

優越感と劣等感は表裏一体

優越感と劣等感は、表裏一体です。タワーマンションの20階の部屋を買って、自分は勝ち組だと威張っている人が、30階の住民に劣等感をおぼえるようなものです。どんな場所にも上には上がいますから、これでは永久に幸せを得ることはできません。


Aさんはこうした優越感の罠にはまっているお客さんに、「3億円持っていて幸せになれない人は、100億円持っていても幸せにはなれませんよ」と暗に伝えるそうです。その通りです。人と自分を比較する人は幸福感が低いことが知られています。

しかし、残念ながら「優越感イコール幸せ」と思い込んでいる人には、ほとんど受け入れてはもらえないと言っていました。

人と自分を比較していたら、どんな状況でも「勝ち組」は長続きしない幸せ、「負け組」は劣等感となってしまうのです。この構図を脱する秘訣は、「人と自分を比較しないこと」です。自慢しない、うらやましがらない。これが幸せの秘訣なのです。

年収1億円の人がなぜ劣等感をおぼえるのか、腑に落ちましたか?