自粛生活で家飲み需要が増え、缶詰の売れ行きが好調だ。なかでも高価格な缶詰が人気だという理由を、明治屋と国分に伺った(写真:国分グループ本社、明治屋提供)

新型コロナウイルス問題による自粛生活で、家飲みが日常の1コマとなった人も多いだろう。そんな中、酒の肴(さかな)として消費者に熱烈に支持されたものの1つが、「おつまみ缶詰」だ。

「低価格の保存食品」というイメージが強かった缶詰だが、2013年頃から「おつまみに特化した高価格帯の缶詰」が増えている。

この「おつまみ缶詰」市場を牽引するのが、「缶つま」シリーズを製造する国分グループ本社だ。その後、食品スーパーの明治屋も「おいしい缶詰」という定番ブランドを確立。両社とも、自粛要請に伴ってこれら缶詰の売り上げが伸びたという。

緊急事態宣言は解除されたものの、「新しい生活様式」を求められる中、家で飲む傾向はまだ続きそうだ。そこで、家飲みファンが選ぶ商品や、人気の缶詰活用レシピについて両社に聞いてみた。

酒飲み御用達「缶つま」の人気ベスト3は?

国分の「缶つま」は、2010年に発売され、ピーク時の2014年頃は年間30億円の売り上げを記録。2008年のリーマンショック以降、家飲み需要が拡大しているという背景も後押ししているが、酒が好きな人をターゲットにした明確なマーケティングが当たり、富士経済の2019年の調査でもおつまみ缶詰カテゴリーで首位となった。


おつまみ缶詰の人気の火付け役である「缶つま」(写真:国分グループ本社)

コロナの影響下で3月の売り上げ金額は前年比130%、4月は前年比140%、とくにネット販路で伸びたという。

国分は本業が食品卸であることから、「この原料は缶詰にどうか」と素材提案してもらえる機会が多いというが、「おいしさが表現しきれない場合は素材がよくても商品化を断念する」と、マーケティング開発を担当する青木杏里さんは言う。そのようにして厳選された、500円前後の価格帯を中心とした70種類を、現在展開している。

定番人気ベスト3は、発売初期から人気のロングセラーばかりだ。

第3位は「北海道・噴火湾産ほたて燻製油漬け」(450円税抜)。北海道噴火湾でとれたほたてのむき身を桜チップで燻製に仕上げたもので、白ワインやウイスキーに合うそうだ。

第2位は「缶つま 日本近海獲りオイルサーディン」(450円税抜)。日本近海で獲れた新鮮ないわしを塩とエキストラバージンオリーブオイルで味付けており、白ワインや日本酒と相性がよいという。


「缶つま 広島県産かき燻製油漬け」(600円税抜)(写真:国分グループ本社)

そして第1位は「缶つま 広島県産かき燻製油漬け」(600円税抜)。広島県海域で育ったかきのむき身を桜チップで燻製にした。

筆者も食べたが、スモークの香りが強く白ワインが進む。ハイボールもおすすめとのこと。かきは都心のスーパーではあまり手に入らない。缶詰ならいつでもありつけるので、かき好きの人にはうれしい1品なのだろう。

このほか、とくに3月以降に人気が急上昇したのは「缶つま 牛タン焼き ねぎ塩だれ」(450円税抜)だ。さらに高価格帯の「缶つま極 松阪牛大和煮」(5000円税抜)も昨年の3倍の出荷量となったという。


「缶つま 牛肉のバルサミコソース」を使ったアレンジパスタ(写真:国分グループ本社)

同シリーズを活用したレシピとしては「ベーコンやオイルサーディンをパスタに加えるアレンジは以前から人気が高い」と、青木さん。味つけも調整程度ですみ、簡単だ。筆者は「缶つま 厚切りベーコンのブラックペッパー味」(400円税抜)をビールのアテとして楽しんだ翌朝、余ったものをベーコンエッグにした。このように便利にアレンジできる缶詰を防災備蓄に加えておくと、災害時の食事が豊かになりそうだ。

同社では「みんなの缶つま」というウェブサイトで同シリーズの活用レシピを募っているので、おつまみやおかず作りのヒントがほしい人は参考にしてもいいかもしれない。

明治屋「おいしい缶詰」の人気の味は?

一方、1885年創業の老舗・明治屋の「おいしい缶詰」シリーズ。「お酒に合うグルメ缶詰」をコンセプトに、開発担当者が全国各地の名物を食べ歩き、120を超える試作品を作ったうえで2014年から参入。現在29種類を展開している。


女性にも人気が高い「おいしい缶詰」(写真:明治屋)

コロナの影響で特需が発生し、3〜4月の売り上げ金額は前年比約150%以上で推移。「肉系缶詰の人気が上昇した」と、マーケティング担当の野中成史さんは話す。ちなみに「缶つま」も牛タンや松坂牛の人気が出たとのことだが、これは自粛生活で焼き肉屋に行けなかった反動だろうか。


「北海道産つぶ貝の白ワイン蒸し(レモン風味)」を使用した「つぶ貝の白ワイン蒸しパンバター焼き」(写真:明治屋)

同シリーズの人気第3位は、「北海道産つぶ貝の白ワイン蒸し(レモン風味)」(450円税抜)だ。つぶ貝を白ワインで蒸し、ほんのりガーリックとレモンを効かせた。爽やかでほのかな酸味のあるワインと合うそうで、とくに女性から人気を得ている。卵料理やパスタの具材にも合うという。

第2位は「国産真いわしと野菜のトマト煮」(450円税抜)。


「おいしい缶詰 国産真いわしと野菜のトマト煮」(写真:明治屋)

旬の時期に三陸から八戸で捕れた真いわしを、香味野菜と一緒にハーブの効いた特製トマトソースで煮込んだ。ワインやビールに合い、こちらも女性に人気。

パスタとあえたりパンにはさんだりといった食べ方もできるソースの美味しさが支持されている。筆者はソースもさることながらいわしの程よい脂のりが気に入った。サンドイッチにしてみたが、簡単におしゃれなランチができていい。備蓄はイワシの味噌煮缶詰が多く、いざという際に飽きてしまいそうなので、ぜひこれも防災用の新顔として迎えたい。

そして発売以来、不動のナンバーワンは「プレミアムほぐしコンビーフ(粗挽き黒胡椒味)」(550円税抜)だという。


「プレミアムほぐしコンビーフ(粗挽き黒胡椒味)」と卵黄をのせてアレンジしたつまみ(写真:明治屋)

手でほぐしたジューシーな牛肉に黒胡椒を効かせており、「とくに男性に人気。ビールやハイボールとよく合う」と、野中さん。おっしゃるとおり、スパイシーでビールにすごく合うし、ホットサンドにしても美味しかったので筆者もリピート確定だ。5月からイオン先行で販売している「大人のプレミアムコンビーフ(燻製風味)」(580円税抜)も食べてみたいと思った。

普段から定番の人気レシピは、3位のつぶ貝を使用した「つぶ貝の白ワイン蒸しパンバター焼き」と、「国産鶏のオリーブ油漬(洋風アヒージョ)」(400円税抜)を使った「マッシュルームと鶏のアヒージョ」だという。

いずれも缶の中身を丸ごとフライパンに入れるだけでできる、家族や仲間とお酒を楽しめそうなレシピだ。

おつまみ缶というよりぜいたくなお総菜缶

一方、3月以降人気が出たのは、バゲットやパンにのせたりはさんだりする、より簡単な食べ方だという。慣れない在宅勤務や家族全員分の3度の食事作りなど、意外に余裕がない中だからこそ、手軽にぜいたくな気分を味わえるとして支持を得たのかもしれない。


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なお明治屋は、「ソースまでおいしい缶詰」を目指し、「レストランの味」を再現しようと素材と製法にこだわっているという。

缶詰で失われがちな食感・見た目・香りなどを再現するため、通常の缶詰製造にはない下処理をメーカーと話し合い実現。

例えばカット法を工夫したり、調味液に漬け込んだりと手間のかかる下ごしらえを施すほか、調味液や油・煮汁も素材が引き立つよう作り込んでおり、種類によっては数日間かけて製造している。もはやおつまみ缶というより、ちょっとぜいたくなお総菜缶だ。

ほかのメーカーからもおつまみ缶詰は出ているので、片っ端から試していくのもちょっと面白そうだ。なんだか最近、地震も多い。おつまみ缶詰を食べ比べしつつ防災備蓄の見直しをしていくのも、有意義な在宅時間の過ごし方かもしれない。