在来線より新幹線を利用したほうが安くなる区間もある(写真:T2/PIXTA)

緊急事態宣言が解除され、JR各社はすでに実施、または予定していた新幹線の定期列車減便を取りやめると発表した。少しずつ日常が戻りつつあるが、それでもまだ自由に旅ができる状況ではない。

そこで、時刻表を見ながら机上の旅を楽しめるようなテーマを考えてみた。「新幹線に乗ったほうが在来線より安い区間」である。もちろん空想旅行だけでなく、実際に移動が必要な場合にも役立てていただけるだろう。

新幹線は乗車券に加え、1駅最低でも870円の特急料金を追加購入しなければ乗れないものだが、区間によっては在来線運賃(特急がある場合は特急料金も)と新幹線の運賃・特急料金の合計を比べると、新幹線のほうが安い区間が存在する。

それは在来線のほうが遠回りだったりする区間、 JR以外の他社線やバスなどを使わないとたどり着けない新幹線単独の駅前後の区間、そして新幹線開業時にJRから分離されて別会社となり、割高な運賃になってしまった並行在来線の区間である。

在来線の特急料金が高すぎる

■特急より新幹線が安い米原―京都間

米原(滋賀県)―京都間は東海道新幹線に並行して在来線特急「はるか」と「びわこエクスプレス」「ワイドビューひだ」が朝と夜に最速51分で走っている。これらの列車を使うと同区間は乗車券1170円+A特急料金1200円の合計2370円となる。

ところが新幹線なら乗車券1170円+特急料金990円の計2160円と210円も安く済み、しかも30分ほど速い! これは在来線のA特急料金が高すぎるためである。在来線の特急料金にはもっと割安なB特急料金という区分もあり、同区間で適用されれば新幹線と同じ990円なのだが、これが適用されるのは京都より大阪寄りの区間である。

大都市の近郊区間、それも主に通勤需要を狙っての設定であるから米原や敦賀辺りまではB特急料金にしてもらいところ。北陸新幹線敦賀延伸で特急列車を再編するときにB特急料金エリア拡大を期待したい。

■山を突き抜けショートカット、飯山―上越妙高間

在来線で飯山(長野県)―上越妙高(新潟県)を行き来する場合、飯山から飯山線で豊野まで330円、豊野からしなの鉄道に乗り継いで妙高高原まで610円、妙高高原からえちごトキめき鉄道に乗り継いで上越妙高まで670円で、合計1610円だ。


しなの鉄道北しなの線を走る列車(写真:traway/PIXTA)

これが北陸新幹線を利用すると、乗車券510円、特急料金880円で合計1390円! 新幹線のほうが220円安いうえに、2時間も速い!

それもそのはず。在来線経由だと飯山―上越妙高間は73.0kmだが、新幹線は山をトンネルでブチ抜いているので29.6kmしかない。在来線はJRから分離され第三セクター化し、運賃が割高になった2社(しなの鉄道・えちごトキめき鉄道)経由となるのに加え、距離の差が大きいことによって新幹線の方が安くなっているのだ。豊野経由の在来線運賃はJRのままだったら1340円と、新幹線よりも安かった。

■糸魚川―黒部宇奈月温泉間

糸魚川(新潟県)―黒部宇奈月温泉(富山県)間は、在来線だと糸魚川からえちごトキめき鉄道・あいの風とやま鉄道で魚津まで1220円、同駅に隣接する新魚津から富山地方鉄道に乗り換え、黒部宇奈月温泉駅に隣接する新黒部まで530円、合計1750円だ。

これが新幹線だと乗車券680円、特急料金880円の合計1560円で済んでしまい、190円安いうえに約1時間も速い。これも前述の飯山―上越妙高間と同様、在来線の場合は運賃が割高な三セクと私鉄を経由するためだ。

一見「おトク」に見えるものの…

■在来線は三セク化で割高に、盛岡―新青森間

盛岡―新青森間はなんと178.4kmもの長距離にもかかわらず、在来線の普通列車を利用するほうが新幹線よりも高くついてしまうという衝撃的な区間である。

東京から約180kmといえば新白河(福島県)、上田(長野県)、静岡くらいの距離である。これで在来線より新幹線のほうが安いということは、北東北では実質追加料金なしで新幹線に乗れるようなものだ!

……と言うと一見おトクな感じに見えるのだが、これは新幹線開業時に並行在来線をJRから分離し、地元自治体出資の三セク鉄道に転換して運賃が大幅に値上げされてしまった結果であり、地元民にとっては何とも面白くない話なのである。それに加えて新幹線のほうが直線的なルートで距離が短い点も重なっている。

盛岡―新青森間は、盛岡から途中の目時(青森県)までの82.0kmがいわて銀河鉄道で2420円、目時から青森までの121.9kmは青い森鉄道で3170円、青森から新青森までの3.9kmはJRで190円、合計5780円となる。もし全区間がJRなら207.8kmで3740円であり、並行在来線分離によって約2000円も高くなっている。


盛岡―新青森間は、並行在来線の運賃が高いため新幹線利用よりも高くなる。全線がJRの運賃なら新幹線より安い(筆者作図を基に編集部作成)

これに対して東北新幹線は乗車券3080円、座席未指定の空席を利用できる特定特急券2640円の合計5720円。なんと60円安いうえに所要時間も約3時間短縮される! おトクなような、なんだか騙されたような……。新幹線開業の裏で素直に喜べない並行在来線問題の闇である。

ちなみに盛岡―青森間で比べると在来線5590円、新幹線6050円。差額460円だが、所要時間は約2時間45分もの短縮が可能だ。

■七戸十和田―新青森間

七戸十和田(青森県)―新青森間は在来線で直行できず、バス利用になる。七戸十和田から新青森までは十和田観光電鉄バスで2100円だ。

一方、東北新幹線だと乗車券860円、特定特急券880円の合計1740円。360円安く、約45分速い。七戸十和田―青森間もバス1810円、新幹線1740円と、新幹線の方が70円安い。

並行在来線問題を考えるきっかけに

■番外編:小浜―京都間

最後に、将来的に新幹線が開業すれば在来線より新幹線のほうが大幅に安くなりそうな区間を紹介する。北陸新幹線の小浜(福井県)―京都間だ。この区間は湖西線と小浜線経由で143.6km、JR運賃で2640円となる。第三セクターへ転換されればもっと高くなるかもしれない。

一方、新幹線はだいたい55kmくらいの距離になるとみられ、この距離なら開業までに消費税が上がったり廃止になったりしない限り乗車券は990円になると考えられる。これに特急料金870円を加えても1860円となり、在来線より780円も安いうえに、所要時間はおそらく約2時間40分もの短縮になるだろう。在来線が三セク化されれば、差は1000円程度に開くかもしれない。

いかがだったであろうか。今回は新幹線を使ったほうが在来線より安くておトクな区間を紹介したが、運賃・料金について考えることは、同時に並行在来線問題について考えるきっかけにもなる。今、佐賀県が主に並行在来線問題を理由に長崎新幹線(九州新幹線西九州ルート)フル規格の整備を頑なに拒否しているのもわからなくもないとも思えるのではないか。一方でこのまま折れなければ、長崎県が見込みどおりの投資効果が得られなくなるとして、佐賀県に対して訴訟を起こしてもおかしくないぐらいの案件だとも筆者は思うのだが、やはり佐賀県からしたら厳しいところである。さて、皆さんはどう思われるだろうか。