山崎賢人 野生味溢れる表情と俊敏な動きで演じ切った「キングダム」 全国に名を広げたのは朝ドラ「まれ」

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「キングダム」で激しくものごとに反応し、絶え間なく吹く風のように動きまくる青年・信を熱演


「キングダム」の演技によって第43回日本アカデミー賞・最優秀助演男優賞を受賞した吉沢亮は、2019年3月に行われた授賞式にて、主演の山崎賢人(「崎」は「たつさき」)の名を挙げ「彼が主演で引っ張ってくれて、素敵な作品になりました。彼と一緒にお芝居をしたことで、僕がいただけた結果になったと思っています」と感謝を語った。

山崎は吉沢の受賞を知って真っ先に連絡をしてきたそうで、二人の友情の麗しさと、主演の山崎を立てる吉沢の折り目正しさ。それは「キングダム」での山崎と吉沢の関係そのもののように感じられた。

「キングダム」の舞台は紀元前245年、中国の春秋戦国時代。天下の大将軍を目指す青年・信(山崎)は秦の王・えい政(吉沢)と出会い激しい戦いに身を投じていく。えい政は信が幼少期、奴隷の身分から脱しようと共に剣術の訓練に励んだ友・漂(吉沢が二役)と顔がそっくりだった。えい政の異母弟・成きょう(本郷奏多)の起こしたクーデターを信とえい政は阻止することができるのか……。


「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中の原泰久の大人気漫画を中国ロケも行って実写化。長澤まさみ、橋本環奈、満島真之介、石橋蓮司、大沢たかお、要潤、高嶋政宏など豪華出演者たちによる広大な中国大陸を舞台にした覇権争いの物語は、本格的なアクションも満載で、興収57億円を突破した。信とえい政の戦いはまだこれから。原作は50巻以上もあり、映画の続編制作も発表された。

山崎賢人が作品を引っ張ったという吉沢のコメントはそのとおりで、奴隷として虐げられて生きてきた少年・信が奴隷として生まれたら一生奴隷で終わるという世の決まりを己の剣の力で覆そうと闘い続ける物語を、野生味溢れる表情と俊敏な動きで2時間強、演じきった。

王・えい政を演じた吉沢が重心低めで大地のように揺るぎない貫禄を見せるのとは反対に山崎は、激しくものごとに反応し、絶え間なく吹く風のように動きまくる。えい政は着物の襟元をきっちり詰めているが、信ははだけている。そこからのぞく、胸元から首までの華奢さ、仰向けになったときの喉仏のナイフのような鋭さが若さそのものに見える。

天下の大将軍として一目置かれている王騎を演じる大沢たかおの眼を見張る胸や腕の筋肉のたくましさと比べて、腹も背中も薄く、力では絶対にかないそうにないわけだが、そこがむしろいい。この棒のように細い青年が必死で闘うからこそ観る者の心がざわつくのである。この役のために、10キロも減量したそうで、それでなくても小さい顔が大きなスクリーンではかなり小さく見えた。

期待される理想の彼氏感という役割を見事に演じてみせた朝ドラ「まれ」


山崎賢人は2010年、連続ドラマ「熱海の捜査官」(テレビ朝日系)にてミステリアスな美少年役で俳優デビュー。以後、いわゆる若手イケメン俳優のひとりとして人気者になっていく。甘い顔立ちゆえ恋愛ものの相手役も多く演じてきた。

彼の名が全国区に知れ渡ったきっかけは15年の朝ドラ「まれ」(NHK)。主人公まれ(土屋太鳳)の幼馴染にしてのちに夫となる圭太役に抜擢された。視聴率20%が当たり前の朝ドラに出ると俳優として認知度はぐっと上がるし、役がいいと好感度も上がる。山崎が演じた圭太は、少女漫画の彼氏みたいな存在ながら、地元で漆器職人として生きていく骨っぽさも兼ね備えていた。

「まれ」は朝ドラでは少ない現代劇で、若者層を狙ったキュンとなる恋愛描写も多めに描かれた野心作だった。山崎はそこで期待される理想の彼氏感という役割を見事に演じてみせた。なんといっても、ライブハウスでのまれとのキスシーンは当時の朝ドラでは新鮮だった。「あまちゃん」(13年)でも恋愛描写はあったが必ず笑いを伴うもので、「まれ」の場合はかなり本気でピュアな恋愛を描いていたものである。その後、「半分、青い。」(18年)がさらにガチな恋愛もので攻めるのだが、それはまた別の話である。


“キレイ系男子”の裏に潜んだ刃のような反骨心や情熱


山崎は現代のキレイ系男子の空気感をまといながら、その裏に刃のような反骨心や情熱を潜ませているように見える。女子が心惹かれる男の子は美しくどこか危うい。だからこそ現代を舞台にした恋愛ものに多く出演しているのであろう。「orange」(15年)、「オオカミ少女と黒王子」(16年)、「四月は君の嘘」(16年)など代表作は多い。

その一方で少年漫画の主人公も多く演じていて、「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」(17年)、「斉木楠雄のΨ難」(17年)など、なかなか演じるのが難しそうな人気大作漫画の主人公にも挑んでいる。

「デスノート」では主人公の夜神月の最大のライバルL役。山崎はややエキセントリックな役もハマり、とりわけ「斉木楠雄のΨ難」は印象的である。超能力をもっているが、それをひた隠しにしているキャラクターをクールに(でも見た目はすごくへんなので、そのギャップが可笑しい)に演じた。この映画の公開時、私はとある雑誌で福田雄一監督との対談の取材をしたのだが、山崎からは監督が求めるものになんとか近づこうとひたむき努力していることが感じられ、ギャグに対してもものすごく真面目に取り組んでいることがわかった。


この若き俳優のいい意味でのある種怖いもの知らずなのではないかと思える野心がまっすぐ発揮されると、少年漫画の主人公になるし、少しねじれて出るとLや「トドメの接吻」(18年)の他者を利用してのし上がっていこうとする人物になる。どっちもが入り交じると斉木楠雄。さらに、そういうカテゴリーを飛び越えて「グッド・ドクター」(18年)ではサヴァン症候群によって天才的な能力をもつ医師を演じるなど、俳優としての幅を広げている。新型コロナウイルス感染予防による緊急事態宣言のため公開が延期になって惜しまれる「劇場」は又吉直樹の小説の映画化で、無精髭を生やした劇作家を演じる山崎は、どんな人間の姿を見せてくれるだろうか。「キングダム」の続編にも期待している。
(木俣冬)